雪国グルメ編 (タコしゃぶ カニ 塩ラーメン) 1
婚約破棄騒動で左遷されたノゾミ。
彼女がおりたったのは極寒の地、北海道だった。
その地で新たな恋が始まるのであった。
―――だがしかし
―――そこに悪ある時、マイコが現れるのであった
◆登場人物
ノゾミ 婚約破棄騒動で、北海道に左遷された女。
マイコ ノゾミの親友。前作の主人公。不倫を絶対許さないマン。
雪男 左遷先の所長。単身赴任者。妻子有。妻は関東在住。
――――
「いまさら、別れる?お前にいくら貢いだと思ってるんだ?」
「知らないわ。数えてないもの」
20代前半のOL、ノゾミは不倫相手に別れ話をそれとなく切り出したが・・・
相手の反応が思わしくない。
不倫相手は会社の上司で妻子の持ち。子供は4歳の女の子。
とある事情により、不倫相手との関係をきりたかったのだ。
「別れるのは許さん」
きっぱりと言い放つ不倫相手。
「あなた、妻子がいるのでしょう」
「それはノゾミも初めから知っているだろう」
ノゾミは勿論初めから知っていた。
そもそも、妻子持ちでなければ相手もしなかった。
妻子持ちだからこそ、不倫関係を結んだのだ。
「私、思ったの、やっぱりこういうはいけないって。あなたも悪いって思うでしょ。奥さんと子供に何も思わないの?」
ノゾミは相手の罪悪感に訴えかける。
だが不倫相手は・・・・
「ノゾミ、今更良い子ぶるな。どうせ心にも思っていないだろ。そんな良い子が不倫なんてするわけないだろ」
「思ってるよ。わたし」
事実、ほんの少しは悪いと思っているノゾミ。
「いいか、別れるのは絶対に許さないからな。なんだ、本当の意味は何だ?お小遣いが不満なのか?もっと欲しいのか?」
不倫相手はノゾミを見る。
ノゾミは不倫相手の給料を知っていた。
それに妻子を養っているのなら、どれぐらい家計にかかるのかも計算できるので、彼が自由に出来る額も予想済だ。
なので、無理な額を要求して別れようと思った。
金がない自分が悪いと男に思わせ、別れようと思ったのだ。
「じゃあ、もっとちょうだい。今の倍は必要よ。あなたに出せるの?」
「ば、倍だと・・・」
男は悩むが・・・
暫くして
「何、私にそれぐらいもだせないの?あなたの気持ちって、それぐらいなの?」
「・・・分かった。それだけ払えば、別れないんだな」
「ええ・・・うん」
ノゾミは驚く。
驚いた拍子に頷いてしまった。
「それなら問題ない」
男がなにやら怪しげに言うので、しぶしぶノゾミは関係を続けるのだった。
が。
後日不倫相手は逮捕された。
金が回らなくなり、会社のお金に手をつけたのだ。
その一件で彼のお金の行き先が調べられ、ノゾミとの不倫関係が露になった。
で。
ノゾミは極寒の北国、北海道に左遷されたのだ。
数日後。
ノゾミは東北新幹線に乗っていた。
グングンと東京を離れて北国へと向かう。
のどかな田園風景画広がっていく。
さらに進み・・・
青森と北海道をつなぐ海底トンネル、青函トンネルを抜けると・・・
―――そこは雪国だった。
北海道に入ってからも暫く進み、とうとう日本最北端の街、稚内に到着した。
ここがノゾミの左遷場所だった。
―――そして同時に。
―――新たな恋の舞台だった。
◆
雪男は単身赴任だった。
妻子を関東に残し、一人雪国にきていた。
営業所所長になって早3年。
月日が流れるのは早い。
毎日雪かきし、仕事に行き、帰ってきて酒を飲んで寝る。
次の日雪かきし、仕事に行き、帰ってきて酒を飲んで寝る。
関東育ちの雪男にとって、雪国の寒さは骨身にしみる。
雪かきと酒で筋力はつき、体は大きくなっていたが、心はすりへっていた。
偶に妻子に電話し、子供の声を聞く。
それが唯一の楽しみだった。
そんな毎日を送っていたのだ。
寂しくもありながら、充実感も有る、中途半端な状態だった。
だが、ある日。
東京の本社から社員が出向してくるとの話だった。
しかも若い女性。
会社では滅多にないことだ。
この事例を知った時、なんらかの事情が裏にあることを察した。
普通、若い女性がここに飛ばされるなど、ありえない人事なのだ。
本社にそれとなく理由を聞いたが、その回答は拒否された。
どうも、表ざたにしたくない理由らしい。
会社に出向くと、出向者のノゾミがいた。
垢抜けた顔の美人で、やはり道民とはどこか違った。
本社からの訳有り出向なので、他の社員の表情は固かった。
どう接すれば良いのか分からなかったのだ。
何かあっては所長の自分の責任になるので、最初の1カ月程は自分の下で働いてもらうことにした。
つまり秘書だ。
彼女は精力的に仕事をこなしていた。
仕事能力に問題はなく、訳有りとは思えないほど人当たりもよく、すぐさま打ち解けたのだった。
どんなモンスター社員がくるかと、内心戦線恐怖していた雪男だったが、ほっと一安心した。
そんなある日。
仕事で一息つき、世間話をしていると、ノゾミが雪男にいうのだった。
「所長、雪かきが大変なんです」
「そうだろうな。俺も最初は大変だった。関東人にはきついよ。まして女の子なら」
「スコップもへこんじゃいました」
「なら、俺が手伝おうか」
何気なく雪男がいった一言だったが・・・
「いいんですか?でも、悪いですよ」
「大丈夫、特にやることもないから」
「じゃあ、お願いします」
こうして雪男はノゾミの家にいくことになった。
一人身の部下の家に、妻子持ちの男が行くのは問題が有るようにも思えるが。
ノゾミは親しみやすく、ある種壁を越えやすかったのだ。
ノゾミの家に行き、雪かきをする雪男。
それを応援するノゾミ。
彼は久しぶりに若い女性の家に来たことで、妙な元気が出ていた。
雪をかきまくっていた。
「所長。お茶入れておきました。中にどうぞ」
妻子のある身。
雪かきはしても、相手の家に入らないでおこうかと思っていたのだが・・・・
疲れていたので、お茶ぐらいいいかと思った。
ノゾミの家の中でくつろぐ雪男。
室内は随分質素だった。
「所長、凄いですね。あっというまに雪かき終わりました」
「毎日やってるから、コツがあるんだよ」
「私は全然だめです。やっぱり一人だと厳しいです」
「誰かいないのか?その・・・誰か?」
これだけの美人だ。
誰か恋人ぐらいいるだろうと思ったのだ。
「いないですよ。私がモテルはずないじゃないですか。ずっと一人です」
苦笑いするノゾミ。
その表情に孤独を感じ、単身赴任の雪男は共感したのだった。
彼の寂しくすさんだ心に響いた。
「なら、雪かきぐらいなら俺がやってやろうか。会社にいくついでにできるし」
「いいんですか」
「大丈夫。3日に一回ぐらいだろ。それに一人用の家だから、すぐ終わるよ」
「ありがとうございます」
こうして雪男は定期的にノゾミの家にいくことになった。
この時までは、まだ仲のよい部下と上司。
同じ関東出身ということもあり、同郷の士だった。
つまり、困っている部下を助ける、ただの人の良い上司だった。