【記憶】 ノゾミ高校時代編 1-1
ノゾミ、高校時代編です。
【記憶】
【ノゾミ 高校1年時】
これは、ノゾミが初めて付き合った男の子との話。
そして。
彼女が初めて大きなショックを受けた出来事だった。
後の彼女の価値観。
人のモノ、人が認めた人を欲しがるようになる癖。
不倫に走る原因の一つでもあった。
~~~~~~~~~~
ポカポカと暖かい、高校1年の春。
私は初めて彼氏ができて、常に心が高揚していた。
彼氏の名は「二宮君」。
あまり女子の間で人気のある男の子ではない。
クラスの男子では、10番目ぐらいの人気。
つまり、真ん中ぐらいの男の子。
でも私はビビっときたのだ。
二宮君を見ていると心が元気になったし、付き合ってからは、一日中よく分からないエネルギーに満ちていた。
心も体もポカポカだった。
だから、周りの評価はあまり気にしていなかった。
自分がいいと思ったら、それでいいと思ったのだ。
私が彼と付き合うんだから。
そんな私は、中学時代までは彼氏がいなかった。
男友達はいたけど、それ以降には進まなかった。
比較的真面目に生活していた。
でも、高校になったら少しは自分のやりたいことをやろうと思っていた。
具体的には、他の女の子と同じように、どうにかして彼氏が欲しい、恋をしたいと心から願っていたのだ。
そして。
首尾よく意中の彼、二宮君と付き合えた時には、気分は天にも上る勢いだった。
恋人が出来た私は、まさにイケイケで絶好調だった。
だが、そんなある日。
二宮君とちょっとした事で喧嘩してしまった。
原因はささいなことだった。
彼が今夜電話するといって電話してこなかったり、私からのメールや電話を後回しにしていたからだ。
誰にも返信しないのならまだ分かる。
でも、それとは違った。
二宮君は私にはメールを返さないのに、男友達には返信していることが何度もあったのだ。
ふいにそういうことを知ると、私は自分が大切にされていないと感じて小さな痛みを受けた。
それは小さなトゲだった。ズキズキした。
私は小さなトゲでズキズキと心を痛めていた。
つまり、小さなことの積み重ねでストレスをためていた。
別に彼が私のことを嫌いになったわけじゃないと分かっていた。
ただを細かいやり取りを面倒臭がっているだけだろうと。
多分、部活をしていたり、帰って勉強をしていると、ついつい約束を忘れてしまう。
思い出しても、「まぁ、後でいいかな」とついつい後回しにしてしまったんだろうと。
そんな気持ちが理解できないわけでもない。
でも、私は毎日連絡を取り合いたかったし、寝る前に毎日電話やメールをしたかった。
毎日学校で会えるけど、それだけなら他の子と同じ。
私を特別扱いして欲しかったし、恋人同士がやることをしたかったのだ。
でも二宮君は、多分こう考えていたんだろう。
毎日学校で会えるのだから、家でのメールや寝る前の電話など大して重要ではない。
わざわざ四六時中連絡など取り合わなくてもいいと。
私はちょっとづつストレスをためていた。
心を痛めていた。
彼の事は好きだったけど、小さな不満が徐々に溜まっていたのだ。
ふつふつと。
そして。
二宮君が電話やメールでの対応を放置すること数度、ついに喧嘩になったのだ。
あれは・・・下校時だった。
夕暮れの公園に寄り、ベンチで話している時だった。
「ねぇ、、最近、メールとか電話、忘れること多いよね」
私が何気なく呟く。
なるべく当たり障りないように話した。
彼に自分で気づいて反省して欲しいと思ったからだ。
「うん。悪い。それよりさー、田伏の話聞いた。あいつ面白くてさ・・・」
話を変えようとした彼を、私がギロっと見る。
私は真剣な表情で、真面目な表情で彼を見た。
「ねぇ、ちゃんと話し聞いてる?昨日の夜、寝る前に電話するって言ったよね」
「えっ、そうだっけ・・・ごめんな」
二宮君が反射的に謝るが、その表情はどこか不真面目だった。
誠意が感じられなかった。
どこか真剣に捉えていないと感じたのだ。
私が考えているようには考えていないと。
だから私は追及した。
「本当に謝ってるの?私、待ってたんだよ。寝るまでずっと待ってたんだから」
私にしては珍しく、強く言葉を発する。
ふつふつと想いが沸き立ってきたのだ。
二宮君は私の怒り抑えるためか、とりあえず謝る。
「ごめんごめん。今度はちゃんとするからさ」
だが、私は彼の態度に納得がいかなかった。
明らかに軽かったのだ。
高まった感情は止まらなかったのだ。
「今度っていつ?いったい、いつ直してくれるの?」
「えっと・・・今日とか」
「とか・・・」語尾が気になった。
「今日とか」。今日じゃなくて、「今日、とか」。
とか・・・とか・・・とか・・・・
頭の中で彼の言葉が繰り返される。
とか・・・とか・・・とか・・・・
私は彼を怪しんだ。
やっぱり軽く捕らえているんだと思った。
これだけ私が怒っているのに、どこか彼は不真面目だったのが許せなかった。
でも、なんとか感情を抑えて聞く。
私は大人だから。
「本当に?」
私は疑わしげな表情で彼を見る。
二宮君は明らかに戸惑っており、この話を直ぐに終わらたいと思っているようだった。
こういう話しは好きじゃないんだと思う。
私も好きじゃない。
でも、彼の軽い顔を見ていると、なんだか無性に苛立ちを覚えた。
まるで自分に関係ないことでも話している様なのだ。
つまり、全く反省していないように感じたのだ。
だから私は感情を発散するために。
「本当の本当?」
再度私がしつこく聞くと・・・
二宮君も苛立ってきたのか。
「なんで今日はそんなにつっかかるんだよ。何かあったの?」
逆に質問された。
逆にね。
「何もないよ」
ポツリと私は呟くが、もやもやは溜まっていた。
「なら、そんなに怒るなよ」
彼がなだめるように言う。
「怒ってないよ」
私は明らかに怒っていたが、反対のことを言う。
怒っている時に「怒るなよ」といわれる時ほど、怒りたくなる時もあったもんじゃない。
明らかに機嫌が悪そうな彼。
「怒ってるだろ。なに、めんどくさっ」
二宮君がポツリと呟く。
私の顔を見てではなく、遠くを見て言い放った。
(めんどくさっ!・・・はぁ?・・・誰がめんどくさいって!)
私は何故か彼の言葉がものすっごくカチンときたので、彼を睨む。
「今、めんどくさいっていった?」
二宮君は失言だったと思ったのか、急いで表情をとりつくろう。
「細かいこと気にするなよ。なんで今日はつっかかってくるんだよ。どうでもいいことに、なぁ?」
笑って誤魔化そうとする二宮君。
早く話を終わらせたかったのだろう。
だが私は話をやめない。
「ちゃんとしてくれないからでしょ。
いつもいつも、適当に謝って、ちゃんと電話するっていったら、ちゃんとしてよっ!」
気づいたら声が大きくなっていた。
自分でもビックリだ。
「分かった、分かった、今度からするから」
二宮君はまだ私を抑えようとする。
まだ大丈夫だと思ってるのだ。
「嘘」
「するっていったろ」
「嘘。嘘。嘘っ!」
念仏の用に唱える私。
彼の姿に無性に苛立ちを覚えた。
「ウザイこというなよっ」
ぽつりと呟く彼。
(うざい・・・・うざいこと・・・)
私はなんだか急に力が抜けた。
(もう、どうでもいいや・・・)
そう思った。
急に彼の事がどうでも良くなった。
そもそも何でこんなに怒っているのか分からなくなった。
(なんだか疲れちゃった・・・それに私、何だか馬鹿みたい)
「・・・私、帰る」
私は宣言してベンチから腰を上げる。
「はぁ、待てって。話の途中だろ。悪かった、謝るからさ」
二宮君が私に手を伸ばすが。
「触らないでっ」
私は彼の手を振り解いて、一人夕暮れの公園を後にした。
その日。
二宮君からメールや電話が何度もきたが、私は全て無視した。
自主的に音信不通にした。
意見の食い違い、ささいなことから始まった喧嘩。
寝ておきて、一日経てば私の心も直っているだろうと思ったけど、もやもやは消えなかった。
彼へのわだかまりは残り、喧嘩は一日で終わらなかった。
私は二宮君のことを学校でも無視した。
私は久しぶりに気合をいれた。
彼が近づいてくると離れたし、話しかけても知らん顔した。
「おはよう」という挨拶されても、聞こえない振りをした。
私は常に女友達と一緒におり、二宮君が中々近づけないようにした。
友達のマイコ達にケンカしたことを話、防波堤になってもらったのだ。
私たちは団結した。女友達のありがたさを知った。
彼が私に近づくと、ささっと友達が体を割り込んでくれて、彼を遠ざけてくれる。
それでも彼が追ってくると、女子トイレに逃げ込む。
ついでに、女友達から二宮君に助言してもらった。
「今、彼女話したくないんだって」「反省した方がいいよ」等々。
直接彼に話したくなかったので、彼女達に『私が会いたくないこと』を伝えてもらった。
女友達は皆仲間になってくれて、彼を追い払った。
相手が女の子ということもあり、彼も中々強く出ることはなかった。
そんな日々が続く。
それまで毎日一緒に楽しく過ごしていたのに、今は拒絶する。
とりあえず二宮君と離れていたかった。
彼の影響がないところで、自分の感情を落ち着けたかったのだ。
だから、積極的なことはしない。
別れ話などはせず、微妙な関係が続いていた。
私としてみれば、彼に対する反省期間のようなものだったのかもしれない。
彼にとっては、その期間は思いの他つらかったようだ。
―――今思えば、これほど私が強く拒絶しなければ・・・
―――あんなこと・・・
―――全ての起点になる事件は起こらなかったのかもしれない
―――でも、この時の私は何も知らなかった




