大自然、ヒグマ格闘編(石狩鍋) 8
「タイラー、後ろっーー!!!」
振り返るタイラー。
「ぐっ、3体1とは卑怯なっ!」
タイラーは苦い顔をして銃を取ろうとするが・・・距離が遠い。
そのため、素手で相手をすることにしたようだ。
(ダメ、タイラー、さすがにタイラーでも、3体1は無理)
私の頭にはオカリナの言葉が浮かぶ。
『彼はちょっと強情なんだ。掟を強く守ろうとするからね。
君は冷静なタイプだろうから話すけど、彼が無茶しそうになったら止めて欲しいんだ』
『タイラーは掟で君を守らないといけない。だから、君のいうことなら大概聞く。
今回は何が起こるかわからないからね。無謀なことをすれば命を落とす。いいかな?』
(そう、今こそ私の出番。タイラーを守らないと)
私は銃を構えてクマを狙う。
だけど・・・・
(ダメ、クマとタイラーが近すぎて。撃つとタイラーにあたるかも)
私は照準をあわせようとするけど・・・上手く行かない。
タイラーとクマがやっぱり近すぎるのだ。
(もう・・・どうしよう?)
その間も。
「くそ、このクマ、囲みやがって」
タイラーは叫びながら、クマの相手をする。
シュ シュ シュ ボシュ
シュ シュ シュ ボシュ
クマパンチを避けながら、相手の体にパンチを浴びせるタイラー。
だが、クマの体は分厚いのか、ダメージが通っているか怪しい。
「GUOOOOOOO!」
「GUOOOOOOOOO!」
「GUOOOOOOOOOOOOO!」
クマは叫んでいる。
クマと壮絶な打ち合いをするタイラー。
筋肉同士がぶつかっている。
まるで小さな恐竜、ラプトルとでも戦っているような絵だ、
「オラアアァアアアアーー!」
タイラーがクマを一匹弾き飛ばすが、すぐさま2匹がフォローする。
連係プレイ。
彼らは互いに互いをかばいあっているのだ。
「こいつら・・・・クマのくせして・・・」
タイラーも焦ってきているようだ。
息が荒くなっている。
余裕がなくなってきているのだ。
で、タイラーは私を見た。
「ノゾミ、逃げろ。ここは俺がなんとかする」
でも、私は逃げない。逃げられない。
タイラーを置いて逃げるわけには行かない。
「だめ、私も戦う」
(そう、私も戦う。彼の役に立たないと。守られてるだけじゃなくて)
私は銃を持ってクマに近づく。
(そう、狙いが上手くいかないなら、上手く行くようにすれば良い。つまり外さない距離、凄く近くで撃てば良い)
私は無我夢中でクマに近づき、クマの後頭部に銃口を押し当てる。
(これならはずさないっ!)
バンッ
私が銃を撃つと、クマの頭が弾け飛び、一匹倒れた。
私の目の前で倒れたのだ。
(やった・・・倒した・・・私・・・できた・・・できたよ)
私が驚いていると・・・・
「の、ノゾミ。馬鹿、逃げろっ!近すぎるっつ!」
「えっ」
そう思った瞬間。
クマが直ぐ近くで私を見ていることに気づいた。
今の銃撃で、クマが私の存在に気づいたのだ。
(今銃撃できたのは、クマの注意がタイラーに向いていたからなのだ)
クマが私に向かって腕を振りかぶる。
(ヤバイ・・・・殴られる・・・あんなのくらったら死ぬ)
そう思った瞬間。
私の体は吹き飛んだ。
クマの攻撃ではない。
タイラーが私を吹き飛ばしたのだ。
そのおかげで空を切るクマパンチ。
クマパンチがあたっていたら、私の体はひとたまりもなかっただろう。
が、気づく。
私の手には銃がなかった。
(ヤバイ、銃を落としちゃった)
すぐさま周りを見ると・・・私とクマの間の距離にある銃。
私とクマはお互いに見つめあう。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
(どうしよう?銃をとるか?それとも逃げるか?)
(でも、逃げちゃダメ。逃げたら後ろからやられる)
私はすぐに駆け出した。
クマも同時に駆け出す。
どんどん距離が縮まる。
ぶつかる程の距離。
クマと私の距離は1mもない。
ザザザー
スライディングの如く銃にとびつき、狙いもつけずに、すぐさま引き金を引く。
バンッ
乾いた音が鳴る。
「GUAAAAAAAAA!」
偶々クマの頭に銃弾があたり、クマが倒れた。
私に覆いかぶさるようにして倒れるクマ。
私はなんとかよけようと思ったけど、片足をとられる。
片足だけクマの下敷きになり、身動きが取れない。
(く、くるしい・・・・すっごく、重い)
私はクマから足を引き抜こうとしながら周りを見る。
まだ後1匹生きているははずなのだ。
こうしちゃいられない。
(もう一匹はどこ?)
辺りを見ると、もう一匹はタイラーのソバにいた。
「今までさんさん3体1でなぶってくれたな」
タイラーが素手でクマと向かいっている。
シュ シュ ボシュ ボシュ
彼は残り一匹のクマを殴り続けている。
左、左、右。
ジャブ ジャブ ストレート。
ボシュ ボシュ ボシュ
「GUAAA!」
ワンツーでクマの顔を殴るタイラー。
左、左、右。
ジャブ ジャブ ストレート。
ボシュ ボシュ ボシュ
「GUOOO!」
さらにくまがよろめく。
その隙を突いて、タイラーがクマの腹を殴る。
ボシュ ボシュ ボシュ
鈍い音が響く。
タイラーが一方的に攻め続ける。
それまで3体1で戦っていたタイラー。
1体1になれば勝負は見えていた。
つまりタイラーの圧勝だ。
その姿はまるでゲームのようだった。
昔私がやっていたゲームだ。
クマと人が戦う格闘ゲーム『鋼鉄拳』に似てる。
私はクマ使いのゲーマーだったのだ。
タイラーは最後に回し蹴りを決めて、クマを吹き飛ばす。
ドスンッ
地面に転がるクマ。
そして、タイラーはクマに近づき、腕で首を締めて殺した。
瞬く間にできた3体の死体。
だが、私はぼっとしているわけではなく、タイラーを呼んだ。
「た、タイラー助けて」
私はクマに押しつぶされそうになっていたのだ。
「おう、大丈夫かノゾミ」
彼はクマをどかしてくれた。
私は解放される。
「あ、ありがとう」
「でも、ノゾミもよくやったよ。クマを2匹倒したんだ」
「偶々だよ」
「でも、倒したんだから。自分で牙をとるといい。戦士の証を」
「え・・・・あたしが」
「そうだ、下処理は俺がやってやるから」
タイラーはナイフを取り出し、倒れているクマの口の中をきる。
切れ込みを入れて、牙をとれやすくしたのだ。
「いいか、この牙をこうやって持つんだ」
「うん」
タイラーが私の手をクマの口の中に入れる。
「握ったか?」
「うん」
「じゃあ、いっきに引き抜け」
「えいっ!」
バシュ
クマの牙を引き抜いた。
私の手の中にあるクマの牙。
「よかったな。これでノゾミも立派な戦士の仲間入りだ」
タイラーが笑顔で私を褒めてくれる。
彼は私の腕をとって掲げる。
私は何だか認められて気がしてうれしかった。
「ほら、もう一匹の牙も」
「うん」
同じようにして牙を抜いた。
「よくやったな、ノゾミ」
「えへへへ、無我夢中だったから」
私は不思議な高揚感を感じていた。
「じゃあ、暫く休憩したらここをさろう。死体に狼がよってくる前に移動しないと」
「そうだね」
それからタイラーは自分の分の牙を回収し、私たちは移動したのだった。