大自然、ヒグマ格闘編(石狩鍋) 7
私はタイラーと逃げた。
クマの足は速い。
そのため私の足では逃げられない。
タイラーが私を抱きかかえて逃げる。
「はぁーはぁーはぁー」
タイラーの息は荒い。
「大丈夫?タイラー?」
「ノゾミ、口を動かすな。舌をかむ」
「う、うん」
とにかく走って逃げた。 (タイラーが)
そして、なんとか逃げ切った。
タイラーが片手で銃を撃ちながら逃げたのが、こうをそうしたのかもしれない。
それに、散り散りになった私たち。
クマは誰を追うか数秒迷ったようだ。
幸い、私たちを追ってくるクマは少なかった。
(他の皆が無事だと良いけど・・・)
私は川で水をくみ、タイラーに渡す。
「水だよ」
「ありがとう」
タイラーが受け取る。
彼は息を落ち着けたようだ。
「皆、大丈夫かな?」
私は不安をぶつける。
「ちりぢりになった。でも大丈夫だ、奴らは皆子供の頃から訓練を受けている。クマに遅れをとることはないだろう」
タイラーはそういうけど、ちょっと自身がなさそうだった。
凄い数のクマがいたのだ。
不安に思う気持ちも分かる。
「そうだといいね」
「それより俺達だ。集合場所の『秋山の峰』に行くには、まずは現在地を確認しないと」
タイラーは周りを見るが、ここは森の中。
私はよく分からない。
彼もよく分かっていないようだった。
「まずは、高い場所に行こう。そこにいって目標を見つける」
「だね」
タイラーは私を見る。
いや、私というより、私の銃を。
「ノゾミ、銃の使い方を教える。今から実弾発射だ。こうなった以上、ノゾミも銃を使う機会が来るだろう」
「う、うん」
私は緊張した。
まだ一発も銃を撃ったことはなかったから。
「いいか、こうやって撃を構えて・・・」
タイラーが銃を構える。
私もマネをする。
「そして、撃つ」
バンッ
音が響く。
「音はきにしなくて良い。クマは銃声で逃げる」
「うん」
「じゃあ、やってみて」
「分かった」
私は引き金を引く。
バンッ
「きゃっ!」
私は反動で後ろに倒れてしまう。
それぐらい銃の反動は強かった。
「しょうがない。でも良い出来だ。次は銃床を肩に当てて衝撃を体でうけとめるんだ」
タイラーが後ろから抱きかかえるようにして、私の姿勢を治す。
「よし、この姿勢で引き金を引く。今回は俺が衝撃を受け止める」
「いくよ、タイラー」
「こいっ」
バンッ
今度は倒れずに澄んだ。
肩には衝撃がきたけど、後ろでタイラーが抑えてくれていた。
でも、手が痺れる。
「これでいい。筋力がつかないと連発は無理だ。でも、今すぐにはつかない。だからこれだけできればいい」
「分かった」
「なら、移動しよう。高い場所にいけば、近づいてくるクマも分かる。平面は危険だ。夜までには安全な場所に移動したい」
「そうだね」
私は痺れる腕を感じながらも、タイラーと移動したのだった。
◆
暫く進むと。
「ノゾミ、待て」
タイラーが叫んで止まる。
「何?」
「いる。クマがいる」
タイラーの視線の先を見ると、そこには一匹のクマがいた。
2m程、ヒグマにしては小柄だ。
でも、私達よりは大きい。
クマもこちらい気づいたのか・・・・
「GUOOOOOOOO!」
クマが吠える。
私たちを威嚇する。
私はとっさに銃をクマに向ける。
だが、タイラーが私の前に手を出す。
「待て、ノゾミ!」
「な、なんで?」
私は驚いた。
どうして私を止めるのか。
「相手は一匹だ。この周りにも仲間はいない。なら素手でいく」
「!?」
私は彼が一瞬何をいっているのかよく分からなかったが・・・
タイラーは銃を地面に捨て、パシャンと地面に落ちる銃。
素手でクマと向かい合う彼。
なんと、わざわざ自分の武器を捨てたのだ。
「な、なんで、タイラー。死んじゃうよ」
「大丈夫だ。俺は負けない。それにこれが部族の流儀だ。素手でのタイマン。ノゾミは見ていろ」
タイラーは腕を鳴らしながらクマに向かい合う。
クマの前に出ていく。
私は心配でたまらなかった。
タイラーが無謀なチャレンジを始めたのだ。
だが、私にはとめる手段がなかった。
にらみ合う二人。
タイラーとクマ。
そして、先にタイラーが動き出した。
ガツンッ!
相撲の様に、タイラーとクマがぶつかった。
鈍い音が響く。
190cm近いタイラーと2m近いヒグマ。
二人がぶつかりあったのだ。
筋肉の鎧同士がぶつかった。
取っ組みあうふたり。
「GUOOOOOOO!」
クマが吠える。
「うおおおおおお!」
タイラーも吠える。
力は拮抗し、タイラーはステップを踏んで距離を取る。
相手のクマは二本足でたっている。
シュ シュ シュ
クマパンチが飛んでくる。
ササッ ササッ ササッ
上半身を動かした、クマパンチを交わすタイラー。
ザザッ
タイラーがクマの隙をついて、内側に入り込む。
そしてくまの腕を取り、地面に投げ飛ばした。
ドスンッ
地面に仰向けになるクマ。
すぐさま相手のクビに腕をかけるタイラー。
「GUAAAAAA!」
クマは悲鳴を上げるが、タイラーは腕を緩めない。
腕で首を絞めていくのだ。
「GUAAAAAA!」
「GUAAAAAAAAA!」
「GUAAAAAAAAAAAAAAA!」
クマは悲鳴を上げるが・・・・
「GUAAAっ!」
バタンッ
ヒグマは倒れたのだった。
タイラーが勝ったのだ。
(か、勝っちゃった・・・本当に素手で倒しちゃった・・・すごい)
私は開いた口が広がらなかった。
タイラーは素手でクマを倒したのだ。
目の前の光景が信じられなかった。
そんな中、タイラーはヒグマの口を開き、牙を抜き取る。
勝者の証をとったのだ。
それが終わるとこちらに戻ってくる。
「ノゾミ、やったぞ」
タイラーが笑顔でそういった瞬間。
私は衝撃の光景を見たのだった。
な、なんと・・・こちらに猛スピードでかけよってくる黒い影を。
そう。
3m級のヒグマが3体、いきなりどこから現れて突進してきたのだ。