婚約破棄
一話は、短編「妊娠した私を婚約破棄するって、気は確かですか?」と同じ内容になります。
新規の話はニ話からになります。
突然、婚約破棄を告げられたマイコ。
天と地がひっくり返る程衝撃を受ける。
それもそのはず、結婚式を数ヵ月後に控え、私は妊娠6カ月目。
婚約者の隣には親友のノゾミ。昔から友達の彼氏を寝取るのが癖だった子。
だが、私はそんな彼女を何度もかばってきた。
他の皆が彼女を批判する中、私だけは彼女の味方をしてきたのだ。
―――でも・・・それなのに・・・・その仕打ちがこれですか・・・
―――優しさの代償がこれですか・・・
―――いいでしょう。
―――私は本気を出します
◇登場人物
マイコ 主人公。妊娠6ヶ月。20代前半のOL
ノゾミ マイコの親友。ユルフワ系VER3.0。すごくモテル。20代前半OL。
麗蒔 マイコの婚約者。日本の名家の跡取り&日本有数の資産家一族。20代後半。
――――
私、マイコ。
結婚式を数ヵ月後に控え、お腹を大きくなってきた妊娠6カ月目 。
最近はお腹もよくすきます。
そんな私は、突然ファミレスに呼ばれた。
美味しいものが食べれるかもしれないと、楽しい気分で向かう。
呼び出したのは婚約者、早乙女麗蒔。
名家の跡取りであり、日本有数の資産家一族でもある。
「なんだろう?」と思って出向いてみれば、彼の隣には親友のノゾミ。
麗蒔は開口一番告げた。
「マイコ、別れて欲しいんだ。つまり、婚約破棄したい」
私は衝撃を受けた。
開いた口が塞がらなかった。
天と地がひっくりかえり、目の前が白くチカチカしたぐらいだ。
(これは店内の照明が悪いわけではない。比較的新しい店だ)
精神的なショックでこうなったのだ。
「マイコ、ごめんね。でも、愛しちゃったの」
麗蒔の隣では、子リス系ユルフワ女子であり、私の親友のマイコが申し訳なさそうに謝る。
彼女はそこらの量産系ユルフワ女子の上位互換のような存在だ。
ユルフワ系女子VER3.0ともいうべき女子力を放っている。
その影響力はすさまじく。
旧世代というか、普通の女の子に属する私はその影響力に度々たじろぐぐらいだ。
その彼女、ノゾミが「愛しちゃった」と可愛く告げている。
私の婚約者の服の袖をぎゅっとにぎっている。
まるで小さな子供の用に。
私は何が起こっているのか今いち分からなかった。
なので言葉が出ない。
本当に驚いた時は、呆然とするのだ。
今の私はまさに唖然としていた。
でも、何とか言葉を搾り出す。
「な・・・・なんで?どういう意味?」
「マイコ、察して欲しい」
麗蒔はゆっくりと言葉をだした。
(え?何?察して欲しいってどういう意味?)
彼の隣でノゾミが耳打ちする。
とても親しそうに。
いつの間にそうなったのか、私は知らなかった。
「マイコ、婚約破棄して欲しいんだ。それと、お腹の子は僕らが育てるよ。
僕ら、僕とノゾミがね。子供には両親が必要だろう。優しいマイコなら分かるだろ?」
「え・・・・」
(二人で私の子供を育てる?麗蒔と親友のノゾミが・・・)
「それと、子供に母親が二人いると子供が混乱する。だから、生んだ後は二度と会わないで欲しい、いいね?」
「はぁ・・・・・」
(子供が混乱?混乱しているのは私なんだけど・・・)
私は呆然としてしまう。
麗蒔が何を言っているのかまったく分からなかったのだ。
意味は分かるが、まるで知らない言語のようだった。
しっくりと理解できなかったのだ。
「それと、婚約指輪も返して欲しい。あれは内の家では大事なものでね」
続ける麗蒔。
ノゾミは申し訳なさそうな顔をして。
「マイコ、心配しないで。ちゃんと子供は私が責任持って育てるから。
もう、服だって買ってあるし、ベビーベッドだってあるのよ」
私を気遣うように。
それに、子育てを想像して嬉しそうに告げるノゾミ。
(なにいってるの?この人たち?全然おかしいよ。婚約者は私で、子供の親も私なのに)
「ちょっと、よく分からない・・・」
「マイコ、察することが出来ないか?この数ヶ月を思い出せば分かるだろ?」
麗蒔が諭すように話す。
だが、私は分からなかった。
彼が何を言っているのか。
「じゃあ、話そうか。君は最近、妊娠のせいか、ずっと我侭で、わめきちらしていただろ。
それにお腹も膨らんで体系を崩れている。まるでゲームに出てくるゴブリンみたいだ。すごく醜い」
「・・・・・・」
(ゴブリンって・・・)
「それにノゾミから聞いたんだ。
君が僕のあることないこと、それにプライベートなことまで皆に言いふらしていると。
僕はショックを受けたよ。
いつ僕が君を殴った?
それに変態プレイを強要した?
誰が早くて短い?
誰が無制限のATMだ?
僕を愚弄するのも、いい加減大概にしろっ!」
麗蒔は若干声を荒げる。
「そんなこといってないよ」
本当にそんな事いっていないのだ。
嘘や悪口をいいふらすことなんて。
それに本当のことでも、最低限の事は周りに言わないようにしている。常識の範囲内だ。
「マイコ、君のせいで僕の心も体も疲弊した。でも、そんな僕をノゾミは慰めてくれたんだ。
ずっと優しく支えてくれた。天使みたいだった。
僕は思ったよ。マイコ、君とは一緒に暮らせない。僕に本当に必要なのはノゾミだと」
「・・・・・・・」
「ええ?分かるかマイコ?」
「何が?」
「僕はね、この歳になって初めて真実の愛をみつけたんだよ」
「・・・・・・・・」
「だから、別れてくれ。歩む道が違ったんだ。つまり・・・そういうことだ」
キリっと言い放つ麗蒔。
自分に酔っているのかもしれない。
きっとそうだ。
怪しく目が光っている。
で。
隣のノゾミも。
「ごめんね。私たち、マイコの分もきっと幸せになるから」
とかわいく謝る。
幸せオーラいっぱいだ。
新婚ビデオみたい。
だがそれとが逆に。
私はふつふつとした怒りが溜まっていた。
ここまで一方的にまくし立てられたが、どれも嘘なのだ。
嘘で話がドンドン進み・・・
最終的には私と婚約破棄?
子供を取り上げる?
私たち、マイコの分も幸せになる?
(はぁあああああああーーー!!!!)
―――これ、絶対におかしいでしょっ!
―――ちゃんちゃらおかしいよっ!
―――絶対におかしいっ!
でも、私はノゾミの顔を見て察してしまう。
(あぁ、とうとう、ノゾミは私にまで癖を発揮したのかと・・・)
私とノゾミは高校時代からの仲だった。
かれこれ、もう8年以上の付き合いになる。
で、そんなノゾミには悪い癖があった。
昔から友達の彼氏を寝取ることが多かったのだ。
だが、私はそんな彼女を何度もかばってきた。
他の皆が彼女を批判する中、私だけは彼女の味方をしてきたのだ。
「つい出来心で」「相手がいいよってきたの」「とっても反省している」と。
泣いて謝る彼女を私は優しく慰めてきたし、彼女は私の彼氏にだけは手を出さなかった。
私はノゾミを信用していたのだ。
だからこそ、今回の件の真相にも、うすうす気づいてしまう。
聖女みたいな顔をしたノゾミが、あることないこと麗蒔に嘘を吹き込み。
ちょっと馬鹿で人を信じやすい、ナルシスト気味な麗蒔を精神的においつめて、その後で優しく慰めたんだと。
これはノゾミが彼氏を寝取る際の得意技だったから。
私は彼女の隣で、何年もこの手法を見てきたのだ。
何故だか不思議だが、大抵の男は面白いほどこの方法で落ちていたのだ。
―――でも、私は何年もずっとノゾミを信じ続けてきたのに・・・・
―――それなのに・・・・その仕打ちがこれですか・・・
―――優しさの代償がこれですか・・・
―――妊婦の私の婚約者を奪い、あろうことか子供まで奪う
―――こんなこと・・・・絶対に許せない
―――許してはいけない
私はショックを受けると同時に決した。
―――いいでしょう。
―――私は本気を出します
私は「きっ」と麗蒔を見る。
これからが本当の私だ。
「麗蒔、あなた本気で私を婚約破棄して、ノゾミと婚約しようとしているの?」
「あたりまえだろ。一生そいとげる」
よどみなく答える麗蒔。
自信満々だ。
「といことは、ノゾミのことをよく知っているのでしょうね?結婚するぐらい」
「勿論だ。彼女の心は僕の心だ」
「ふん」っと鼻を鳴らす麗蒔。
「そう。それなら、ノゾミが会社の上司と不倫しているのは勿論知ってるわね。相手は妻子がいるのよ。
子供はまだ3歳の男の子」
「はぁ、?なんだそれ」
麗蒔は目が点になる。
そしてノゾミをみる。
ノゾミは慌てて顔を振る。
「な、なんことだか・・・」
ノゾミはとぼけるが、私は続ける。
「それと、ノゾミが不倫しているのは一人じゃないから。
社内でもう一人の上司とも不倫しているから。そっちも妻子持ちね。子供は4歳の女の子。
ノゾミは子供好きだからね」
ノゾミははっとした顔をする。
そんなことまで私が知っているとは思わなかったのだろう。
「何言ってるんだ。マイコ、そんなデタラメ」
麗蒔は動揺しながらも、信じないそぶりを見せるが。
「証拠があるわ。見せてあげましょう」
私はスマホにとってあった写真を見せた。
それは、偶々ノゾミが不倫相手とホテルに入る写真だった。
麗蒔は固まる。
「ど、どういうことだ、ノゾミ」
麗蒔はノゾミをみるが。
「べ、別人よ。すごく似てる人。私、知らない。何も知らない」
ノゾミが拒絶するが、私は彼女を逃がさない。
「そうなんだ?いいの?ノゾミ。不倫相手のこと、あなたの会社と、全ての不倫相手に連絡するけど。
勿論この他にも証拠があるから。
ノゾミ、面白いことになるんじゃない。苦労して入った会社なのに、上司もノゾミも左遷かクビかもね。
それに、不倫相手はみんな怒るでしょうね」
「・・・・・」
黙るノゾミ。
私は麗蒔を見る。
「で、麗蒔は婚約破棄の慰謝料はちゃんと払えるんでしょうね?それと養育費も」
麗蒔は暫くノゾミを見て悟ったのか。
少し黙ってから。
「いや・・・まってくれ・・・その、今の話は知らなかったんだ・・・ノゾミがそんな女だとは」
たじろぐ麗蒔。
汗汗している。
「もう、遅いわ。ノゾミを信じたあなたが悪いんです。
さっきの話は全て録音しました。私、あなたのご両親と仲が良いのを知っていますね?」
「違う。これは・・・違う・・・その時間を・・・・」
私は一気に攻める。
攻撃の手をやすめない。
「麗蒔、あなたのご両親は厳格な人です。
まさか妊婦を捨てて、不倫女と婚約するなんてことを許すのでしょうかね?」
「ば、ばか。そんなこと許すわけないだろっ!」
逆切れする零蒔。
「でしょうね。あなたはご両親から財政支援をうけていますからね。
それにこんな話が広まれば、あなたの名前、家、会社の評判は落ちます。株価も落ちるでしょう。
社長の座も落ろされるでしょうね」
麗蒔は親の会社の社長を務めているのだ。
「ま、まってくれ、マイコ、なぁ。マイコはそんなことしないだろ。優しいマイコは」
諭すように話すマイコ。
(甘い。優しいマイコは去ったのだ。今いるのは本気のマイコだ)
「世間というのは評判&信用が大事ですからね。
会社の評判、家の評判を落とす者が表の世界にいられないでしょう。
部下も従いませんし、会社の利益も落とすのですから」
青くなる麗蒔。
「で、麗蒔、慰謝料と養育、払ってくれますね」
「まってくれ、婚約破棄は無しだ。ぼ、僕は、マイコ、君を愛している。こんな不倫女じゃなくて、マイコ、君を」
慌てて叫ぶ麗蒔だが。
私は「ふんっ」とい鼻で笑う。
「イヤです。もう愛想が突きました。
それに、あなたがノゾミと浮気しているかもしれないという懸念はあったので、探偵に依頼していました。
今まで結果だけは見ないようにしていましたが、多くの封筒が揃っています」
麗蒔とノゾミは顔が硬直する。
「で、麗蒔、慰謝料と養育を払ってくれますね。そうすれば、世間には黙っていましょう」
麗蒔は青い顔で呟く。
「因みに・・・いくらだ?」
「慰謝料で5億。養育費で月100万で20年です。勿論税抜きの金額です」
「ば、ばかいうなっ」
「あなたの会社と家の評判を守りたくはないのですか?」
悩む麗蒔。
「だが・・・・」
「方法は任せます。養育費の10年分は先払いです。今月中に慰謝料と一部の養育費合わして、ざっと5億は払ってくださいね」
「そんな大金、すぐに用意できるわけないだろ」
「税抜き額ですからね。方法はあなたの会社の税務部と相談してください。きっと合法的な良い方法がみつかるでしょう」
「だから、無茶な」
「株価が少しでも動けば何十億の損がでるんです。それにあなたの家の資産は数千億あるでしょう。
それに比べれば大したことないと思いますが。今、あなたの会社は業界再編で大変な時期だと思いますけどね。
ここに悪評の追い討ちは厳しいんじゃないかしら」
「ま、まってくれ」
「では、ごきげんよう」
私はさっそうと去ったのだった。
一ヵ月後。
月末。
あれから麗蒔の両親とも話し合い、今回の話を他に漏らさないことを条件に、慰謝料と養育費を貰った。
こちらから提示した額より減少したが。
慰謝料2億。
養育費月70万で20年分、10年分は先払い。
計2億8400万円が口座に入金されていた。
私はそれをみてホクホク顔になった。
1年付き合って約3億円か。
税抜きの額だから、日本野球界、最高年棒と同じぐらい。
しみじみと思いながら。
私は、新しく出会った恋人と一緒に、生まれてくる子供を育てようと思ったのだ。
NEWマイコになったのだ。
余談~
ノゾミ。
結論だけいうと、彼女は北国送りとなった。
どうやら、麗蒔と結婚するために、不倫相手と別れ話を進めていたらしいが、うまくいかなかったらしい。
で、もめた。
不倫相手が思った以上にノゾミに入れ込んでおり、分かれようとした彼女を金で引きとめようとしたらしい。
そのために会社のお金を着服したが、杜撰だったためにそれが発覚。
不倫相手は刑務所送りとなった。
その余波で社内の不倫も明らかになり、ノゾミは北国、極寒の北海道に送られたのだ。
麗蒔。
彼は一連の騒動で、一種の女性不審になったらしい。
真実の愛を見つけた、天使みたいだと思っていたノゾミに裏切られたのだ。
心の傷は深かったらしい。
今は私に慰謝料と養育費を払うためか、心の傷を癒すためか、一生懸命働いている。
彼は両親にもこってり絞られ、暫くは誰とも付き合えないだろう。
マイコは、悪いことはするべきでないなと、つくづく思うのであった。
1,2章は婚約破棄系ですが、3章から少年漫画テイストです。
10話程読んでいただければ、雰囲気が分かるかと思います。