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第六章 六話

 ミルトは傷だらけになりながらも森の中を懸命に逃げ回っていた。

 大山椒魚の魔獣と対峙していて周りを獣に囲まれそうになった時、ミルトは本隊のほうからも戦っている気配があって心配でいてもたってもいられなかった。

 だが本隊が土壁に中に隠れたのを見てもう大丈夫だと分かると、安心してこの場を離れて森の中に逃げ込んだのだった。

 しかし自分一人なら何とか逃げ切れると思ったのだが、とにかく獣の数が多すぎた。

 しかも地の利も良くなかった。木や岩の障害物だらけでとても視界が悪いのだ。もう逃げる先々に獣の姿があるような気がする。

 獣の牙や爪をひたすらかわして右に左に跳ぶように走っているのだが獣達を全く振り切れない。

 しかも直接的な攻撃だけではなく小さな針や液体の弾が飛んでくる遠距離攻撃もあるのでいつまでも気を抜く事が出来ない。

 ミルトが握りしめている火宿りの剣の炎はとうに消えていて、火の力を注ぎ込む少しの隙さえも見つけられなかった。

 ミルトは横から飛びかかってきた猿のような野獣の爪をかわして右に走ったが、すぐ目の前に牙牛の角が迫って来ていた。

 反射的に横っ飛びでさけれたが、地面を転がってしまい、すぐに立ち上がったものの方向感覚がまるで分からなくなってしまった。

 もうどちらに逃げれば良いのか全く判断がつかない。

 自分が今かなりの至近距離で何匹もの獣に囲まれていると言う冷酷な事実だけが感覚で分かる。

 ミルトの目にすぐ目の前の木立の陰から痩猟犬が勢いよく飛び出してきたのが見えた。それと同時に右から茂みを掻き分けて何かが勢いよく向かって来るような音も聞こえる。

 ミルトはこれはもう駄目かもと心が折れかけて、半ば諦めかけたその時、耳元で最後に聞きたいと思っていたあの声が聞こえてきたのだった。

「ミルトっ!そのまま後ろに十歩跳んでっ!」

 ミルトは咄嗟に考えるまでもなくその声に従って一気に後ろ向きのまま十歩下がった。

 森の中でしかも獣に囲まれた状態で何も確かめずに後ろ向きで動こうなど正気の沙汰ではないが、ミルトは無条件にその言葉を信じて動いていた。

 ミルトが十歩後ろに退いてから周囲を見渡すと、その視界に五匹もの獣の姿を捉えることが出来た。

 一番近かった獣達の包囲網から一瞬で抜け出せていた。

 ほっと一息つけたミルトが首すじから後ろを見ると、白く輝く少女の幻影が背中におぶさるようにくっついているのが分かった。

 ミルトにはそれが何なのか考えるまでもなかった。

 少女の幻影はミルトの耳にささやいた。

「さあミルト。次行くわよ。まず三字の方向を見て。あのとんがり岩を零点ね。あれに向かって二十歩。そうしたら十一字の方向に十歩よ。そして二字の方向に真っ直ぐ。あとはその都度指示を出すわ。今よ、行って!」

 ミルトはその指示通りに駆け出した。

 奥には獣の姿が複数見えているのだがもう構わなかった。

 歩数を数えて走り言われた方向に曲がる。

 獣の姿はまだまだ周囲に見えていて、どれもそんなに自分から遠くはない。

 少女の幻影の澄んだ声がミルトの心を落ち着かせる。

「いいわ。その調子よ。これから少し細かくなるけど頑張って。あの目の前の獣の十歩手前で三字に五歩。すぐに九字に十五歩。そうしたら一旦戻る感じで六字に十歩。そうしたら三字方向に真っ直ぐよ」

 ミルトはその声の通りに駆けて行った。

 あれだけ苦労した森の中の移動がまるで嘘のようだった。

 獣に接近して襲われる事もなく、まるで先の見通せない森の中に入っても何に出会う事もなく、木々や岩の障害物もないまるで無人の平原を駆けているような感じさえしてきた。

 しばらく走ると石畳の街道に出た。

 舗装の様子から今までずっと辿っていたあの道だろう。

 どっちを見渡してもまだ道の終わりは見えない。かなり森の中を迂回して戻って来たのだろうと分かった。

 ミルトは周囲に獣の気配がないのを確かめると首を回して少女の幻影に話しかけた。

「ミラー!ありがとう。本当に助かったよ!あのままあそこにいたら多分もう無理だったよ。その様子だとみんなも無事なんだよね。……ところでそれはどうやっているの?」

 少女の幻影の姿のミラーが答える。

「貴方を助ける事が出来て本当に良かった……。もちろん私達は無事よ。いま私達はポムお爺様が作ってくれた土壁の中にいるわ。私はその中から貴方に話しかけているの。この術は……どう言えば良いのかまだ分からないのだけど、色々な術を組み合わせて創り上げているの。でもこの術の基本はあの時の魔封具なのよ。遠くの人と会話が出来る〈交心翔晶〉ね。その魔封具に私の精霊探査術と毛摸乃耳の機能をつなぎ合わせたの。これらの術と道具の融合なんて不可能とも言えるとても難しい事なのだけど、ポムお爺様が私の希望通りに仕上げて下さったわ。それもかなりの短時間で」

 ミラーはまだ話の途中だったが、誰かに呼び掛けられたかのように話を中断した。

「えっ?何?……あっそうね。分かったわ。すぐに伝える」

 ミラーは改めてミルトに話しかけた。

「ごめんなさい。ミルト。取りあえず話は後で。まずは炎撃の準備をって、キルチェが」

「ああそうだね。よし。炎の働きよ!刃に宿れ!」

 ミルトは剣を持ち替えると、右手の指先に精神を集中して剣先を撫で上げた。火宿りの剣は火の力を宿して赤い炎を纏い燃え上がった。

「……はい。……はい。なるほど。分かりました。ミルト。今度はポムお爺様から。これからの戦いでは火の出力に注意してみろって。一気に全ての火の力を注ぎ込むのではなくて加減をしながら敵を倒して行けって。防御の弱い敵や小型の敵相手に一気に力を使ってしまうのはもったいないし無駄が多い。もっと効率の良い戦い方を工夫していけ……だって」

 ミルトはミラーを通してポムの教えを受けて確かにその通りだと深く納得した。もしも一回の斬撃を振るうだけで力を充填していたのを二回三回と続けて斬撃を振るえるのだとしたらそれだけで戦術自体が大幅に変わる。そして出力の調整だけならば何度か練習すればこれからでも何とか出来そうに思えた。

 それに今ならばミラーが後ろにいてくれるこの時ならばいくらでも練習する機会が作れそうだ。

「ミラー、まずは早めにその力の加減って言うのを試してみたいな。どこか近くにその訓練が出来そうな手頃な相手がいないかな?」

「手頃な相手?そうね……。……うん、近くに一匹見つけたわ。じゃあ案内するわね。これからはミルトの身体の正面が向いている方向を零点とするわ。では行きます。目標三字の方向五十歩の位置、相手は一匹の小型の獣で気配と歩幅から猪型と推測。そこに向かう道筋は二字に五歩、十一字に二十歩行った後に三字に三十歩で目標に到達です」ミラーの指示はよどみなく的確でその声は自信に満ち溢れている。

「分かった。じゃあ行くよ!」

 ミルトは改めて森の中へと飛び込んだ。

 樹木が生い茂っているので相変わらず先が見通せない。

 しかしミルトがミラーの案内の通りに動くと、そこだけにきちんと空間があり速度をほとんど落とさずに走る事が出来ていた。

 更には普通ならならどこに獣が潜んでいるか、どこで鉢合わせをするかと不安でしょうがないはずなのだが、今はそのような不安は全くなかった。

 それは何故かと言うとミラーが耳元で周囲の状況と目指す相手の位置情報を詳しく教えてくれるからだった。

「距離二十五……二十……、あと十……方位十一字、目標あの大きな木の陰。会敵します!」

 ミルトは剣を構えて一気に木の裏に回り込りこんだ。

 相手はミラーの予測通りの猪型の野獣でミルトの突然の出現に驚いてすでに半ば逃げ腰になっていた。

 ミルトはそれを冷静に見定めてあまり踏み込まずに相手に一太刀を浴びせた。

 以前は自然と刃から流れ出る火の力をあまり気にしていなかったが、今回はポムの助言の通りにその力の流れを意識して制御を試みた。  

 獣につけた浅めな傷から炎が吹き出す。

 しかし吹き出す炎の量はいつもより少ない感じがする。それに以前ならその炎が一瞬で相手の全身に回り火だるまになるのだが、今回は半身以下にとどまっていた。

 猪の野獣はミルトを完全に無視し、身を地にこすりつけ火を消そうと必死だった。やはり身体に火が点いているという恐怖は凄まじいらしい。

 しかし火はその内に全身に回り、やがて頭まで火に包まれるとその獣は絶命した。

 ミルトはその様子を眺めてまずは無事に一戦を終えれたと思うとふうと大きく一息ついた。

 火宿りの刀身にはまだ炎がうっすらと揺らめいている。

 力の制御は一度目でも何とかうまくいったようだ。

 ミラーが話しかけてきた。

「お疲れ様。ミルト。キルチェからの助言なのだけど、炎撃の分割が出来ても隙があったらすぐに改めて刀身に火を宿し直して常に炎の最大充填状態を保つようにしておいたほうが良いって。」

 ミルトはなるほどと思いすぐに実行した。ミラーは続けて話した。

「それでこれからの動きね。ここからは木々が邪魔になって見えないけど五字の方向六百歩の位置に高い土の杭が立っているの。それは私達のいる居場所の目印としてポムお爺様が地中から生み出した物なのだけど、その杭はこの森のどんな樹より高く空に向かって突き出しているわ。とにかくミルトは周辺の獣を退治しながらそこに向かって欲しいの。私達は足止めされていて今いる土壁の中からどうしても出られないのよ。それは何故かと言うと私達のそばにいる獣達がかなり厄介だからなの。その獣達は遠くから広範囲に拡散する飛び道具を撃ってきたり、姿を隠しながら身を潜めてじっと攻撃の機会を待っていたり、宙を舞って鋭い羽を飛ばしてきたりする魔獣達なのよ。ポムお爺様でもこれらの獣達に同時にかかって来られると対処に困るらしいの。私達三人もいるし、あとこの三匹の獣どれも土の精霊術では対応しづらいみたい」

 ミルトは頷いた。

「分かった、とにかく向かおう。まずは五字の方向か。こっちだね」

「うん。でもここから私達のいる本隊の間にはまだかなりの獣達がいるわ。囲まれないように案内はするけど気を付けて進んで」

 ミルトは視界の悪い森の中を慎重かつ大胆に駆けて行った。

 緑がかなり濃いがミラーが走りやすい道を教えてくれるのでまるで苦はない。

 そしてミラーの索敵能力のおかげで獣の位置も丸わかりでほとんど危なげない移動だった。

 ミルトは少数の獣を狙っての戦闘を何度か繰り返し、約十数匹の獣を倒してやっと土の杭の根元が遠くに見える所まで来た。 

 ミルトはその場に真っ直ぐ向かおうとしたが慌てたようなミラーの声に止められた。

「あっ、待ってミルト!あの辺りには魔獣がいたはず。今のところ気配が掴めないけど潜んでいる可能性が高いわ。ナマスさんが言うにはあの辺りにいるのは水の魔獣の〈酸撃の隠れ山椒魚〉って奴らしいの。そいつは擬態して背景に身を隠す事が出来て口から危険な液体を飛ばしたり身体の表面から毒の霧を撒き散らしたりするとても厄介な相手みたいよ」

 ミルトは魔呼奴と対面していた時を思い出した。

「ああ、あいつか。あの時足止めさせられた奴と同じだね。同じのがもう一匹いたのかそれともあいつがこっちに来たのかもな。でもまあ感じはだいたい掴めているから何とかなるよ。それに隠れているとは言え今はミラーがついているから大丈夫でしょ。水の魔獣ならその属性の攻撃をする時必ず水の精霊を使うからたぶんすぐ居場所が分かると思うよ」

 ミルトとミラーは慎重に回りを見渡して何かおかしな所がないか確認しながら歩を進めていった。

 ゆっくりと前に進みミルトが目の前の土の杭にだいぶ近づいて来たなと思った時に背後のミラーから鋭い声で警告を受けた。

「ミルトっ!右後方四字の方向に感あり!攻撃が来ますっ!」

 ミルトは即座に横っ飛びでそばにあった木の陰に隠れた。

 するとさっきまで自分がいた場所に黄色の液体が飛んで行くのが見えた。

 ミラーがささやいた。

「これで場所は確認出来たわ。私達が通り過ぎた左手の曲がった木の少し奥まった所に隠れていたみたい。あっ、移動を始めたわ。このまま逃げるのかしら?」

 ミルトは首を横に振った。

「いや、奴は攻撃が外れたと分かってただ距離を取ろうとしてるんだと思う。あいつの性質は隠密系の狙撃手型だからね。あいつの攻略法はもう考えてある。場所さえ分かればこっちのもんだ。いくよ!」ミルトは足に風を纏った疾走術で相手に向かって進んだ。

 ミラーが相手の位置を案内する。

「もう少し左のほう……距離は四十……三十、見えたわ!」

 そこには周囲の色に同化したような体表の肌をぬらぬら光らせている山椒魚が地を這っている。ミルトが近づいて行くとそれに気が付いた山椒魚は白い肌に戻り体表から黄色い霧を周囲に撒き散らした。

 しかし速度をそのままでそこに構わず突っ込んで行くミルトにミラーは少し尻込みをしたように尋ねてきた。

「……ね、ねえ。もしかしてあの霧の中に入っていくの?」

 ミルトはにやっとして答えた。

「まさか。あれに入ったらえらい目に遭いそうだよ。こうするのさ。……えいっ!」

 ミルトは黄色い霧のだいぶ前で急停止すると、大きく右足を振りかぶり前方に向かって宙を思いっきり蹴り飛ばした。

 するとそこから突風が巻き起こり、周囲に漂っていた黄色い霧を一瞬で吹き飛ばした。その場にいた山椒魚の姿が丸見えになり、ミルトは素早く駆け寄ると剣を背に突き刺した。

 火の力を体内に注がれた山椒魚の魔獣は一瞬で絶命した。

 ミラーが周囲の気配を感じとって言う。

「少々騒がしい戦闘になってしまったので、周囲の獣がここに集まってきているみたい」

「それはまずいね」ミルトはすぐにこの場から離れることにした。

 目印の杭の回りを大きく迂回するような感じで移動を始めた。

 獣の群れは避けて、一匹でいるの獣は出来るだけ狩っていき、今度は逆から杭に近づいていった。

 そこでミラーがすぐに一度対峙した敵の気配を感じ取った。

「この小さくすばしっこい足音と身体が草木をこすった時に出る乾いた高音……これは間違いなくあの獣ね。私達が足止めされた魔獣の一匹、ナマスさんいわく〈針筵の棘山嵐〉ね。この魔獣は風の精霊術を使った鋭い棘を飛ばす遠距離射撃を得意としているわ」

 ミルトは明るい声で答えた。

「ああ、あれか。風を纏った棘がたくさん飛んで来るやつだよね。囲まれている時もそんな攻撃喰らったなあ。でもあれは風の力が感じられるから僕はかなり察知しやすいんだ」

 ミルトは気楽そうに言ってきた。ミラーはそんなミルトを頼もしく思いながらその魔獣の位置を告げた。

「その獣の位置だけど現在一字の方向から六字の方向にこちらを向いて移動中。距離は二百歩。移動速度は遅めです」

 ミルトはミラーからもらった情報を頭の中で整理すると、目の前の立ち並ぶ木々にまだ見えない相手の位置を照らし合わせて自分の動きかたを想像した。

「よし!行くよミラー」

 心を決めて準備万端整えたミルトは森の中を駆け出した。

 木々の隙間を流れるように駆けて行く。倒木や低い茂みは飛び越えて一気に近づいて行った。

 だがもう少しと思ったところで突然ミラーが叫んだ。

「ミルトっ!遠距離攻撃!九字方向から!」

 ミルトは言われた方向を素早く見据えた。

 確かにこちらの動きに合わせたように向かって飛んで来る大きな棘が五本見えた。しかしミルトには風の力が見えるのでその棘は周囲から浮きだっているように見えてとても分かりやすい。

 ミルトは充分引きつけてから少し身を捻って最小限の動きでかわしていた。

 ミラーがすまなそうな声で話しかけてきた。

「ミルト、ごめんなさい。離れた場所にもう一匹潜んでいたみたい。たぶん同種の棘山嵐ね。距離は百五十歩くらいかしら。いつの間にか見つけられてたのね」

「ううん、問題ないよミラー。ミラーが先に察知してくれて僕が離れた所から確認出来ればあれはそんなに怖い攻撃じゃない」

「うん……。あっ!待って。近くの相手が撃ってきたわ。方位三字!」

 ミルトはその言葉を聞き、敢えてそちらの方角に向かって走り始めた。飛んで来る棘をしっかりと見定めて、流れるような動きでそれらをかわすと、その獣に向かって一直線に向かって行った。

 ミルトの接近を認めた棘山嵐は針のような体毛を全て逆立てて防御姿勢をとった。熟練の狩人でも手こずると言われるこの棘山嵐の防御の技だがミルトにはまるで無意味だった。

 ミルトは火宿りの刃を撫でるように相手に軽く切りつけすぐに距離をとった。

 火宿りから流れ込んだ火の力は棘山嵐の体毛を焼き始め次第に大きくなっていく。身体に火がついた棘山嵐は悲鳴をあげて森の奥へと逃げていった。

 ミルトはふうと体の力を抜いてそれを見ていた。別に追わなくてほうっておいてもあの火に包まれたら絶対に助からないと分かってきたからだった。

 ミルトは周囲を見渡してミラーに訊ねた。

「ミラー、向こうのもう一匹はどうかな?こっちに向かってる?」

 ミラーの幻影は頭の上の耳をぴくぴく動かして調べてから答えた。

「ううん。逆方向に凄い勢いで駆け出してる。もうこの場から逃げ出したって感じね」

「そうか、ならもういいや。あれはほっておこう。もう少し本隊のほうに近づいてみようか。そろそろみんなと合流出来るかな」

「そうね。あっでも、近くにもう一匹魔獣がいたはず。鳥形の獣で魔獣の〈風斬り羽の狩ら烏〉って言うやつが。ナマスさんが言うには本来もっと南に棲息する獣で、特徴は鳥なのに土の精霊術を使って羽を金属の刃に変えて襲ってくるのですって。……でも今はもうこの辺りにはいないみたい……。あれは普通の鳥の倍くらいあるから動いたらすぐに音で分かるのよ」

「そうなんだ。ならとにかくそばに行ってみようか」

 ミルトは慎重にポム達が避難している土壁に近づいて行った。周囲に特に異変はなくすんなりと土壁の前まで辿り着いた。

 ミルトは土壁に手をつきほっと大きな安堵の溜め息をついた。

 かなりの長い間一人旅をしてきた気分だった。途中ミラーが幻影となって助けに来てくれてからはかなり心強かったが、仲間がそばにいないというのはとても寂しいものだとつくづく感じた。

 ミラーは術を解いて自分の体の中へと戻り、そして周囲の状況を把握したポムは土の囲いの術を解いた。

 これでやっとミルトは元の仲間達と再び一緒になる事が出来たのだった。

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