あ・そ・ぶ
ただの日常。
太陽が鬱陶しいくらいに自己主張してくる夏。
今日の授業が終わる合図を示すチャイムが鳴った直後
隣の席から2つ目の太陽が擦り寄ってきた。
太陽は遠いから許容範囲なのに。
この煩い太陽はこんなにも近いし自己主張も激しい。
「 夢ちゃぁぁん、暑いよぉおお」
怨念のような声を出そうとして失敗しているこの声は私の暑さと苛立ちを更に増幅させる。
「暑いならくっつかないでよ。 愛佳」
引き剥がすように手を突き出す。
それでも彼女は一向に離れようとしない。
座ったまま私はもう一度正論を投げる。
「くっつくから余計暑いじゃない。 離れて」
そう言うと恍惚とした表情を浮かべる愛佳。
またか と溜息を吐く。
「その冷たさに癒されるよ......」
すると横から声がかかる。
「愛佳ちゃん、夢ちゃん暑がってるよ。 愛佳ちゃんも暑いでしょ?」
不思議な事に彼女が女神に見える。
ただ女神の威光にあっさり屈するような女の子ではないのが愛佳だ。
案の定更に寄りかかってきてまた一層幸せそうな表情を浮かべた。
「暑いねぇ......夢ちゃん」
もう相手にしていられない とそのまま足に力を入れる。
肩に強い圧力。
「自分で歩いてよ。中学生にもなって1人で歩けないの?」
私の冷たい挑発も馬の耳に念仏といったところか。
「歩けませぇーん。だから連れて行ってー」
と元気な笑顔で言う。
溜息をもう一度ついて
「もう良いや。馬鹿は無視して行こう 彩葉」
彼女は優しいね と微笑み、頷いた。
それで終われば良かったのに。
愛佳はわざとらしく唸って落ち込んで見せた。
「馬鹿とはなんだー。愛佳掛け算出来るんだよ」
誇らしげな声で私に身を任せたまま言う。
「掛け算ぐらい小学生でも出来るよ、早く離れて」
口に出した瞬間後悔する、無視すべきだったと。
予期した通り彼女は意地の悪そうな笑みを浮かべた。「反応してくれてありがとねっ」
すごく良い笑顔なのに何故こんなにもイラつくのだろう。
今度こそ無視して愛佳を引きずったまま1-2と書かれた表札の下を通りすぎる。
そして3人で部室へと向かう。
「着きましたー!」
3階 茶道部の隣に当たる部室に着いた途端愛佳は気力が回復したようで手を大きく振り上げながら飛ぶ。
反応しないと決めたばかりなので馬鹿みたいにはしゃぐ愛佳に視線すら向けずに夢は部室に入る。
それに彩葉、愛佳と続いて入る。
「今日は議論をします!」
愛佳は真剣な表情を作って1人立ったままだ。
すでに彩葉は座っている。
「お茶でいい? 彩葉」
彩葉へと視線を向けて夢が紙コップを取り出す。
彩葉は笑顔で頷いてありがとう と言った。
愛佳はまだ立ち上がったまま。
無視して鞄から取り出したペットボトルを片手に冷たいお茶を注ごうとするともう一度愛佳が叫んだ。
「今日は議論をします!」
今度は手を突き上げるというジェスチャー付きで。
彩葉は何を言い出すか少し楽しみにしているようだ。
聞くしかないのか と思いを全く隠さずに冷たい視線を愛佳へと向けた。
「で、何?」
冷たい声に表情。
だが今更この程度では愛佳はくじけない。
「夢ちゃんが私に冷たい事に関して!」
これは2人にとって聞き覚えのある議題だった。
「愛佳ちゃん前もそれ言ってたね」と彩葉。
愛佳は満足そうに頷いた。
「はい! そうなんです。夢ちゃんなんとかならない?」
未だに立ったままの彼女に関して座れば良いのに と思う。
ここで無視すると更に面倒になるのを知っていたしもう無視しない。
「無理、諦めて。」
下された回答は否、泣き真似をする愛佳。
「うぅ、夢ちゃんひどいよ......」
そんな愛佳をニコニコと見つめる彩葉。
彩葉になんとかしてもらいたいが彼女は見守る方針のようだ。
「まあ愛佳ちゃん とりあえず座ったら?」
立ったままである事にようやく気付いたのか音を立てて勢いよく座る。
「私にもお茶!」
元気に手をあげてお茶を要求する。
用意しておいた愛佳の紙コップにも冷たいお茶を注いで手渡す。
音を立てて飲み干す愛佳。
無言でもう一杯を要求している。
仕方ないな と息を吐く。
愛佳が「今だけは優しい......今だけは」と囁く声が私へと届く。
「愛佳がこんな風に鬱陶しくなかったら良いのに」
そう愛佳に聞こえるように呟く夢。
このようにいつも何もしないのがここ 遊部の部活動風景だった。
続きはゆっくりと書いていきます。
溜まり割と出来そうなので投稿頻度高めに出来るかもです
あくまでもただの日常です。
少なくとも二学期編入るまではほぼ詰まり切ってるので恋愛要素もしばらく皆無予定。
途中から出る恋愛要素と言っても作中では誰も付き合いません。
あとイベント編は一回が長くなります。
それでもよければ次も読んでいただけるとありがたいです。
N9050DJ←連載版です