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週末のニチブくんち  作者: 雨宮さいか
6/6

夏の怪談

皆さんめっっっっっっちゃくちゃお久しぶりです。

久しぶりすぎて、前回のチキンレース火脚編がどんな構成だったかまったく思い出せないのでぶった切って夏の怪談をお届けします。


追伸

仕事が忙しすぎて究極のマイペースになっていますが、ちゃんと「不老不死」も執筆は続けています。

今回は息抜きで「ニチブ」更新です!

長くなりましたが、お楽しみ下さい。


 チキンレースの翌週。


 今宵も始まる暴走トークを先導するのは、“土屋(つちや) 勝喜(かつき)”。

 特定のインドア趣味に傾倒する、社会不適合者である。



「とあるネットゲーマーの男がいた──────」



 そんな序説から始まるのは、夏の怪談。

 なぜ今宵の話題が“夏の怪談”なのかと問われれば、“夏だから”と言えば終わりなのかもしれないが、ことの始まりは本日の参加メンバーの一人である“水樹(みずき) 小百合(こゆり)”が動揺する姿を誰も見たことがないから怪談話でもして怖がらせてみようというようなくだらないものであった。



「まぁ予想はしてたけど、ネットゲーム(特定のインドア趣味)の話だね」


「だからモノローグを読むなっつってんだろ風見鶏」



 初っ端から呆れ気味に相槌を打つのは、この飲み会の皆勤賞を持つ暇人ナヨナヨゴミ風見鶏、金木(カナキ) (シゲル)



 「ついに“イケメン”表記が消えた!?」


 「何度も言わせるな脱線するから黙って聞いてろゴミ」


 「ゴミィーーーーーーイ!?」



 クスクスと笑う小百合を入れて、今夜のメンバーは4人だ。

 最早ツッコミの体をなさない奇声を発して仰け反るカナシゲを無視して“土屋(つちや) 勝喜(かつき)”───愛称“カッチン”は語り始めた。



「そのゲームは数年前からちらほらと広告が目立っていた、有名なMMORPGだった」



 実はそのゲームは俺───“日武(にちぶ) 児慈(こちか)”も一緒にプレイしていた経験がある。

 “ほのぼのRPG”を謳った、ガチガチの刃物や殺傷力全開の魔法で殺し合う殺伐とした大規模(M)多人数同時参加型(M)オンライン(O)RPGだ。


 当然リア友(現実の友達)という事で、同じギルド(チームのようなもの)に所属し、俺のネットゲーム全盛期には“カッチンコッチンコンビ”などと呼ばれて暴れまわったものだ。

 就職してからは足が遠のいてしまったが、カッチンは未だに第一線のプレイヤーとして活躍してるようだ。



「暇を持て余した男は、気まぐれから広告をクリックし、気づけばインストールが完了していたという」


「ニートだからね」



 正確に言えば、始めた頃はまだ学生だったのだが、都合の悪いことは完全にスルーする特殊なフィルターを耳に持つカッチンはカナシゲの言葉を意に介さず言葉を続けた。



「その男は持ち前のコミュニケーション能力で、たちまちに人間関係を築いていった。現実世界の充実感に乏しい男が、その世界にのめり込んでいくのは自然な流れだったと言えるだろう」


「ネット限定のコミュニケーション能力ね」


「今のところ怖くなりそうな気配を感じないのですが……」


「まぁこの典型的なネット弁慶っぷりと、異常なのめり込みっぷりが怖いっちゃ怖いが」


「……まぁ確かに」


「そして男は、ブロンドのセミロングヘアを揺らす可憐な少女に出会った」


「アバターの話ですよね!?」



 不穏な流れを感じ取った小百合は、カッチンの言葉の真意を測りかねるように言葉を挟む。



「初めは、新実装ダンジョンをクリアする為の野良パーティー仲間という利害関係だけだった」


「あ、続けるんだね」



 しかし熱の入ってきたカッチンの語りは止まらない。

 つーかメタい事言って悪いんだけど、今回の文中でコイツ誰とも会話してなくね?



「しばらくの時が過ぎた頃、男はふとそれまでの日々を思い返していた。様々な窮地を乗り越えた。様々な冒険を繰り広げた。様々なドラマを目の当たりにした。そんな時、側にはいつも彼女がいた。気づけば男は、その少女に恋をしていた」


「…………」



 カナシゲと小百合は、絶句するように口を開けたまま固まる。

 それは一緒にプレイしていた俺も同様だった。俺がゲーム止めた後の話か?

 ゲーム上での恋愛、とかそういう意味じゃなく、カッチンの色恋沙汰という時点で驚きなので仕方がない。



「男は二人が始めて出会ったダンジョンで、直接その少女に告白することにした」


「…………なるほど。ゲーム内でのチャットを“間接”とすれば、ゲーム内で会うことは“直接”、と」



 カッチンの言葉を何とか飲み込もうと相槌を打つカナシゲ。

 近頃の若者にありがちな表現ではあるものの、その理論はおかしいからね?



児慈(こちか)くん児慈(こちか)くん。えっと、『メールじゃなくて直接言う』という場合の『直接』は、『電話で言う』と『現実で会う』、どっちで捉えたらいいんでしょうか?」



 いやお前(小百合)も困惑しすぎて微妙に脱線してるからね?



「彼女は応えた。『みんなには秘密の関係で良いのなら』、と」


「まさかの成就!?」


「というか、これは怪談なのでしょうか……?」



 そうは言いながらも、いつの間にかカナシゲと小百合───そして俺も、カッチンの語りに聞き入っていた。



「男は当惑した。男の恋愛観では、恋人同士とはそのコミュニティの中で関係を認識され、受け入れ認められるべきものだと考えていたからだ。単純に言えば、仲間たちに祝福して欲しかった。可愛い彼女を自慢したいという浅はかな願望も否定できないだろう」



 “ゴクリ……”と息を呑んだのは誰だったのだろうか。

 迫りくるように次々と飛び出るカッチンの言葉を咀嚼しようと、俺達は必死だった。


 “俺の恋愛観”!? “仲間達に祝福!?”


 幼馴染であるのに、俺達はカッチンの恋愛遍歴を何も知らなかった。

 簡単に言うと、この話は俺達のカッチンのイメージとかけ離れすぎていたのだ。



「“互いさえいれば何もいらない”。ふいに男の脳裏に昭和のメロドラマの様なフレーズが走った。駆け落ちなど、物語の中の出来事だと思う。悲恋など、恵まれた環境に生きる男にとって遠い世界の出来事だと思う。しかしそういった考えがあることは、なんとか理解することができた」


「……カッチンがまともなこと言ってる」


「……ついに社会に適合できたのでしょうか?」



 いや、お前ら茫然自失なのはわかるけど、割りとヒドイ事言ってるからね?



「『いずれ胸を張ってみんなに報告できるように、俺、がんばるから』。男はあえて挑発的に彼女の提案に乗った。何をがんばればいいのか、具体的にはわからなかったが、とにかくがんばると男は決意した」


「エンダアアアああああああああああああああ!!!」


「アアアア~~~~~アアアア~~~~!!!」



 そして凡そ幼馴染(カッチン)の口から出たとは思えない衝撃の台詞に、ついに小百合が壊れたのである。



「そして、甘い蜜月の日々が続いた…………」


「……いや、待って。冷静に考えると何このノロケ話?」


「意外すぎて、最早怪談とかどうでも良くなって来ましたけどね」


「いや、狙い通り小百合の動揺してる姿は見れたから、これはこれで……」




















「その少女は、おっさんだった」



「「「こええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」」」




インターネット、コワイ話。

も、もちろんつくり話ですよ?

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