ギリギリ発言チキンレース その3
怒られそう。
「転生モノって色々パターンがあるじゃない」
新たな切り口を攻め始める友愛。
確認の意味を込めて、カナシゲが具体例を上げていく。
「異世界って意味じゃなくて、“前世の記憶を取り戻すパターン”とか、“魔物に生まれ変わるパターン”とか、“物語の登場人物になるパターン”とかってこと?」
「そうそう、それよ。自分が自分じゃなくなるって、もっと深刻なことだと思わない?」
「もっと主人公の苦悩を描くべきだと?」
「そうよ。前世の自分を簡単に切り捨てられる様なつまらない人生を歩んできた人間が、降って湧いた力を手に入れた途端にドヤ顔で大活躍! ハーレム誕生! っていう流れが気に食わないのよ」
「うーん……僕は同意しかねるね」
昨今のファンタジー小説をまとめてぶった切るかの様な友愛の主張に、カナシゲが異論を唱える。
「さっきの奴隷描写にも言えることだけど、最低限納得に足る理由が入っていればあえてストーリーのテンポを悪くしてまでやることじゃないと思う」
「よくある理由としては、“細かいことは気にしない性格である”、“天涯孤独で前世の人間関係に未練がない”、“新しい肉体に精神が影響を受けている”って所か」
「そうそう、定番で良いからそのくらいの理由が描写されていれば問題ないよ。この手の物語が大好きな読者が求めてるのは爽快感なんだから、最低限の整合性がとれてれば後はスピード感を重視すべきだ」
カナシゲの主張を受け、友愛は熟考する。
「言ってることはわかるけど、やっぱりあたしは一度大きな過ちを犯すぐらいじゃないと納得できないわ」
「俺TUEE好きとしては珍しいな。しかし主人公の失敗というのは扱いが難しいと思うぞ」
「どういうことよ?」
「……失敗の仕方が重要」
俺の指摘の意味するところを正確に捉えたのであろう、火脚が口を挟んだ。
「……主人公が切れ者、冷静沈着、信念を持っている……そういう作品は安心して読める。どれだけ感情移入しても、主人公が後ろ指を指される様な失態を犯すことがないから。または失敗しても大義名分があるから。例え主人公の成長を描く物語であっても、情けない主人公を是としない読者は一定数存在する」
「青臭い失敗とかを嫌う人、結構いるよねぇ」
「逆に『リ○ロ』なんかは、何度失敗しても立ち上がる格好いい主人公を魅力的に描写してるよな」
「『リゼ○』は転移モノだけどね」
ファンタジーにも色々あるが、異世界転移、異世界召喚と言えば、生まれ変わりではなく主人公が生きたまま異世界に迷い込む物語だ。
「でも言いたいことはわかったわ。要するにこれもバランスが重要ってことなんでしょ」
「意義なーし」
「……意義なし」
「身も蓋もないが、蓼食う虫も好き好きってやつだ」
結局は先ほどの奴隷描写と同じ結論に至り、議論が終わる。
数瞬もしない内、“じゃあ次”と前置きして再び友愛が切り込んでいく。
「セッ○ス描写について」
「おお、切り込むな」
「某ランキング王者である、『無○転生』でも普通にヤっちゃってるね」
「あれは直接的な描写は無いだろ。次代が生まれてるし、物語に必要な過程だった」
性交の描写自体は今どき珍しくないが、実際に主人公の子孫が登場するパターンは意外と少ない。
そして大抵の場合においてその存在には、主人公の行動理由となったり、精神的成長を描くためのスパイスとなったりといった様々な物語上の役割があるのだ。
「でも主人公交代だけはできないよね」
「なんでよ?」
「タイトルから外れちゃうし、現代知識を持った主人公じゃないと、なろう読者の共感を誘う二次元サブカルチャーに毒されたモノローグができないんだよ」
「なるほど、確かに。大抵ニートとかオタクとかって設定だし、雰囲気ががらっと変わっちゃうわね」
「一人称形式で『チート』とか、『テンプレ』とか言えたら、読者に伝えるのが楽じゃない?」
「今やタイトルにも入ってるわね」
「……牢屋を賃貸物件のように語る所とか、面白かった」
「おお、ヒークンも読んだんだ。『○職転生』」
「……4回は読み返してる。むしろ書籍版も買ってる」
むしろファンタジーものを読むようなやつがランキングで輝き続けるあの作品を読んでいないわけがあるまい。
しかし昨今の転生ものは、ある種『なろう』特有の俗語とも呼ぶべき単語が余りに増えすぎているようにも思える。
「俺としては極力そういう身内ノリみたいな単語は控えて欲しい所だけどな。まぁあらゆる意味で最初から一般層は置いてけぼりなんだから、大した意味はないが」
「それは転生モノどころか転移モノ、TSモノ、ファンタジー全般に言えるね」
書籍化はともかく、アニメ化までされる作品は、やはりそういう言葉選びが行き届いているように思える。
「もろに○ックス描写して、作者が『なろう』から怒られたって言ってた作品もあったな」
「ああ、モン○ターズハー○ム……。正直あれは興奮よりも爆笑した」
「むしろ、作者の後書き次回予告で笑わされたね。“次回、初めての○ックス!?”の予告後に、次話がまさかの伏せ字なしの直球だったり」
「あたし、それ読んでない……」
「まぁチーレム(チート+ハーレム)モノって完全に男性向けだし。それに今は修正されちゃってるからね」
「書籍版を買え」
“チーレムかぁ……”と思案する友愛。
正直妙齢の未婚女性をここまで引きずり込んだことに罪悪感がなくもない。
せめてその素養だけは無いことを祈りたい。
「セッ○スしてるとミスリードさせて、実は耳かきでした、みたいな展開もよくあるわよね」
「使い古された手法だねぇ」
「後ちょっと口つけただけでキスマークついちゃうアレ、ああいう童貞丸出しの描写はやめて欲しいわ」
「はい、友愛ちゃんストップ。それはちょっとギリギリ」
「むしろ友愛のその非処女丸出し発言がアウトだな」
「ッ!?」
「いやいや、コッチン。僕らは一応同級生設定で25歳だよ。この年齢なら許されるんじゃないの?」
「設定って言うな。それと処女厨二次元ヲタの拒絶反応なめるなよ。『かん○ぎ事件』をもう忘れたか」
「あれはネット特有のノリみたいなところもあったと思うけどなぁ……」
「……絶対に許さない」
「ヒークン!?」
呪詛のように搾り出された言葉に、火脚の闇を垣間見る。
戦々恐々とした気持ちで火脚から視線をそらすと、顔をトマトのように真っ赤に染めて俯いている友愛に気づく。
「……あ」
「あ?」
「児慈としかしたこと無いわよ!!」
突然の友愛の爆弾発言に場が凍りついた───と思っていたのは俺だけのようで。
「うん、それならセーフかな」
「……むしろポイント高い」
いや、お前ら冷静に応えてるけど多分友愛は素だからね?
次回のギリギリ話題は、また社会問題依りにシフトしていきます。
コッチンとフィリアの過去編については、何かの機会に書こうと思っています。