ギリギリ発言チキンレース その1
試験的にスマートフォンから投稿してみました。
こういった小説とは、多少クオリティを損なってでも生産性を上げることが重要なんだろうなと思う、今日この頃です。
「へー、アンタ別れたんだ」
「その話は前回終わったっつーの」
週末の我が家。
そこでは夜な夜な、怪しげな宴が繰り広げられている。
「おい火脚!徐ろにギターで悲しげなBGMを奏でるな! また語りだしちゃうだろうが!」
「……すまん」
本日の参加メンバーは4人。
男勝りの肉体派美女、木下 友愛。
寡黙なちょび髭シンガーソングライター、火脚 啓介。
ナヨナヨ残念イケメン風見鶏、金木 滋。
そして2DKの飲み会会場提供者であるこの俺、日武 児慈である。
「僕の評価だけひどい!?」
「モノローグに反応するなカス。ちょっと黙ってろ」
「辛辣!?」
自家製のおつまみを並べながら、火脚に頼んでムーディーなBGMを弾いてもらう。
駅前の大手居酒屋チェーン店も、静かな住宅地の隠れ家的なバーも、場末のスナックも決して悪くはないのだが、自家製のおつまみと、時折流れる火脚の生演奏BGMは宅飲みにしかない良さと言えるだろう。本人も、社会人になってからは中々ギターを披露する場も無かったらしく満足気だ。
ちなみに火脚が弾いているアコースティックギターは、俺の部屋のインテリアのひとつである。
「いつも思うんだけど、児慈の話ってちょっと宗教くさいわよね」
カナシゲから先週の事の顛末を聞き出した友愛が呟く。
「フフフ、コッチンを宗教家なんかと同列視したらダメだよ」
モノローグでさらっと風見鶏呼ばわりされたことを気にしているのか、カナシゲが友愛の言葉を得意げに否定する。
「どう違うって言うのよ?」
「いいかい、友愛ちゃん。経験から導き出した真理を信条とするコッチンとは違って、宗教家って連中は大抵の場合は建前と打算で動くものなんだよ」
不穏な話題転換に嫌な予感を覚えつつも興味を惹かれてしまい、俺と火脚はカナシゲに視線を送り、無言で説明を催促をする。
「抗議団体とか、宗教団体とか、色んな主義主張を掲げる団体があるでしょ?」
「まぁ……あるわね」
「そういう団体全般に言えることなんだけどね。末端員はともかく運営までやってる連中ってそもそもどうやって飯食ってるんだとか考えたことない? 僕はね、主義主張は所詮建前であって、なんらかの形でお金を生み出す仕組みが出来てるから成り立ってるんだと思ってる」
それはさすが人間不信者というべきか、不運な男というべきか、トンデモなく穿ったギリギリの発言だった。
「お前消されるぞ……」
「誰に!?」
「いや、色んな意味で」
「ていうか、その時は心中ね」
特定の団体名を出していないだけいいものの、ある意味デリケートな話題である。
※ちなみに今更ですが、この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。
「某匿名掲示板で『プロ市民』と揶揄されるアレだよアレ。みんな思ってるけど言わないだけだよ」
「……それは違う。オレは無宗教だけど、宗教は人類に必要だと思ってる」
やや開き直ったカナシゲに異論を唱えたのは、意外にも火脚だった。
「……昔の人にとっては、『落雷』一つとっても未知の現象だった。『宗教』とは解明できない謎に、空想の設定をつけて恐怖心を乗り越える人類の発明だから……必要だと思う」
たどたどしくも珍しく長文を語る火脚の主張を、各々が黙って吟味する。
考えてみてもちんぷんかんぷんといった様子の友愛を置き去りにして、俺は火脚の意見に賛同を示す。
「確かに、『生死の概念』なんかにも言えることだな。生きていれば必ず直面する、一番身近で、最大の謎にして最大の恐怖だ」
ぱっと思いつくだけでも、天国地獄に輪廻転生と、設定も盛り沢山だ。
「うーん……でもやっぱり、落雷の原理が解明済みなのはもちろん、医者に宣告でもされない限り普段から死ぬことを意識する人もいないと思うけど」
「それは視野が狭いな。世界規模で見たら、まだまだ医学だけでは語れない様々な死生観ってもんがあるだろうよ」
「……それに落雷じゃなくても地球上には未だ解明されない謎がたくさんある」
火脚の言葉に、ふと俺の脳裏にとある名言がよぎる。話題転換をするなら今だと俺の中の何かが唸りをあげる。
熱い想いを抑えきれず、ユラリと立ち上がった俺に、3人の視線が集まった。
「とある海外アニメファンの少年はインターネットの片隅でこう呟いた。“我々は地球を冒険するには遅すぎ、宇宙を冒険するには早過ぎる時代に生まれた”、と。だが地球上には未だ、解明されない謎が多く残されている。それを追い求めることこそが現代に生まれた俺達の冒険であり、ロマンなのだ……さぁ語るぞ!! 未確認生命体を!!」
「……ッ!! モンゴリアンデスワームは見」
「はい、その話題ストップ!」
「僕も未確認生命体トークはちょっと。ていうかヒークンもそういう話好きなんだね……」
興奮する俺と、喜色満面の火脚にストップがかかる。
なんだよ。楽しいのに、未確認生命体の話。
「脱線するならせめてオチをつけなさいよ」
友愛のもっともな主張に、俺と火脚が項垂れる。
こういう正論は脳筋に言われるのが一番堪えるのだ。全然ついてこれてなかったくせに。
「現実に救われている人間がいる時点で、今回の議論は火脚の勝ち。はい、以上」
「投げやり!?」
「結論。人類に宗教は必要ってことで」
「ちょっとちょっと、僕は人類に宗教は必要ないだなんて一言も言ってないよ」
「なに?」
カナシゲの言葉に、停止した思考を再起動させる。
「大真面目に信じる意味がないって言ったの。経済的観点で見ればまだまだ宗教はその有効性を見出すことができるよ。日本のクリスマスやバレンタインの経済効果を考えてみて。僕が言ってるのは、逆にこの節操無さがいかに信仰が無意味かを物語ってるってこと」
「俺はバレンタインの経済効果を実感したことがない。はい、以上」
「お座なり!?」
「結論。イケメンは死ね」
「辛辣!? 最近コッチン僕に当たり強くない!?」
私怨で捻じ曲げたお座なりの結論に、まるで“超えちゃいけないライン”の上を歩く様な会話が一旦止まる。
「……この話題は危険すぎる」
「あたしもそう思うわ……。お座なりでも結論は出たし、さっさと次に行った方が身のためね」
これ以上の続行を望むまいと、友愛と火脚が溜息をこぼす。
しかしそう言われると、逆に切り込んでみたくなってしまうのが天邪鬼だった。
「よし、今日の議題は一つに絞らず、“禁句にあえて切り込んでいくチキンレース”スタイルにしよう」
今回はその4まで続く予定です。
また、予告なしに改稿する可能性があります。