表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣はケツに刺す ~勇者だけど世界救ったら暇になった~  作者: ああああ/茂樹 修
第一章 勇者だけど世界救ったら暇になった
7/22

勇者転職する② ~思ってたのとちがう~

「ハイランドは堕落した!」

 

 リーダーが、壇上に立って叫ぶ。

 

「この国を見ろ! 拝金主義者が跳梁跋扈、権力者共は贅沢三昧!」

 

 メンバー達は、思い思いの得物を持って、肩を震わせじっと待っていた。

 クワ、カマ、包丁。彼らは武器を買えるほど、立派な職につけなかったのだ。


「見ろ、あの無駄な道を! 歩け、その足で! 敷かれたレンガの一つ一つが、我々の血と税で出来ている!」


 ハイランドは、文化と芸術と宗教の国だ。だが、それだけで国は賄えない。

 減った腹は、絵に描いた餅で膨れない。


「あの城を許すな! あれはそびえ立つ糞だ! 小汚い糞尿で作られたあの醜悪な塔を、今すぐ浄化せよ!」


 だが、彼らはその絵を恨まなかった。音楽を、捨てなかった。

 だから教会を憎んだ。それが道理だ。


「壊せ! 奪え!」


 壊せ、奪え。

 その声が反芻され、怒号になる。

 壊せ、奪え、壊せ、奪え。


「奴らが奪ったものの重さを、今こそ思い知らせる時だ!」


 そして、彼らは叫んだ。


「「「我ら、ロリコン党の名の元に!」」」


 うんちょっと待て。




「あのさあ、話違わない? 君ら革命するんだよね?」


 リーダーに肩を揉ませながら、俺はコーヒーを啜っていた。


「そうですよ、勇……アラト様」


 先ほどまで雄々しく演説していたと思えないぐらい腰の低くなったリーダーは、接客業みたいなわざとらしい笑顔で質問に答えてくれた。


「いやまあ、俺は良いんだけどね? あの城を壊せればそれで」


 そう、利害は一致している。

 しているのだが、教義が合わない。


「けどさ、俺ロリコンじゃないんだよ。わかる? 別に小さい子とか好きじゃないわけ。こうさ、おっぱいがゆっさゆっさ揺れてさ、こうさ、フフ、顔埋められそうなやつ?」


 俺が真摯な返事をすると、リーダーはコーヒーのおかわりをくれた。

 どうやら、本格的に取り入る気らしい。


「まあそう言わないでくださいよアラト様。 アラト様が入れば、我々の作戦は完璧になるんですよ。もーう百人力、いや千人力! 期待してますよ、本当」


 まあそう言われて悪い気はしないけどな。


「それに、ロリも良いんですよ? 例えばあのすべすべした肌。純真無垢な笑顔で、おじちゃん、なにしてるの? って聞かれるんです。だからね、僕はいっつもこう答えるんですよ。おじちゃんのおしっこって白いんだよ、みたいかい? って」

「まてお前その手で触るな、汚ねぇだろどう考えても」

「そんなあ、ちゃんと洗ってますってばあ」


 思わずリーダーの手を払いのけて、肩を払う。

 洗濯しなきゃな、これ。


「それで、要求は何なんだ? 塔をぶっ壊すだけじゃないんだろう? どうせ」

「ええ、我々の要求はですね、結婚可能な年齢を7さいまで引き下げることです。今は16ですから、半分以下です」


 別に年齢が下がったところでロリコンが実際に結婚できるのは別じゃないのかと聞こうとしたが、やめた。士気を下げるだけだ。


「それで、引き下げるのは女だけ?」




「男の子もですよ、勇者殿」




 どこからともなく、セルジアが現れる。ちょっと、いやかなりびっくりした。


「同士セルジアよ、お前もわかってくれたか……」

「ええ、リーダー殿。確かに我らが目指す終着点は違うものかもしれません。ですが、通る道が同じならば、不肖セルジア、助力させていただきましょう」


 そして、二人は握手をした。

 ロリコン変質者の右手と、ショ○漫画家志望の右手が、いましっかりと合わさって。


 未来に対する希望は、何一つ見えやしなかった。




 当初の作戦では、城に侵入して内部から破壊する予定だった。

 だが、俺とセルジアがいるなら、そんな事はまどろっこしいだけ。

 俺とセルジアとロリコン党員達は、全員目出し帽を着用し広場に立っていた。ここからまっすぐと城が見え、見晴らしが良い。きっとカップルがあの城を見ながら談笑したりするのだろう。


 畜生、死ねばいいのに。


 人数編成はこうだ。俺とセルジアで城を壊し、リーダーが街宣活動、残りが人払いである。


 まず、あの城をでかいケーキだとしよう。

 俺とセルジアが協力して、まず巨大なナイフを作る。

 それから入刀するのだが、まず頂上に刃先をあてる。それから要求が飲まれないとか時間がかかるとかそういうアクシデントが起きる度にちょっとづつ刃を下ろしていくという算段だ。

 完璧な作戦だ。

 

「ところでセルジア、ローリエはどこ行ったんだ?」

「なんでも気分が悪いから適当な宿を取ってるとか言ってましたよ」

「そうか、なら安心だな」


 これで、邪魔者はいない。思う存分あのババアのいる場所を、ぶった斬れるという寸法だ。


「でもアラト様、そんな簡単にあの城を切れるのですか? 正直信じられないのですが……」

「まあ、見てろって。行くぞセルジア、いつ以来だっけな、これ」

「最後の方だった気もしますがね」

 

 俺は、聖剣を天にかざした。

 だが、一ミリ足りとも伸びやしない。それは、わかっている。


 だからここでセルジアの出番だ。


 伝説の弓から放たれた矢が、天を穿つ。そして垂直に降りて、ちょうど聖剣の刃先で止まる。

 行って帰ってくるので、6秒。重力なんてあてにならず、その距離はおよそ片道一キロ往復ニキロ。

 使うのは後半の最大点から戻ってくるまでの間なので、3秒だけ固定出来ればいい。


 この矢の特性は、軌跡の貫通を維持することだ。

 

 一度矢が通った空間を、そっくりそのまま消滅させる。だが持って数秒、すぐに消滅してしまう。

 本当ならそういうものだ。


 ここで聖剣の出番だ。


 時の剣はその剣の軌跡を数秒間自在に操れる武器だが、実は自分の剣以外の事象をあてればそれすらも干渉できる。

 戻ってくる矢の軌跡を、聖剣で3秒巻き戻す。

 すると、丁度上から戻る矢の軌跡が最大点に戻り、三秒後に剣先に戻る。


 正確に言えば、これはでかい剣ではない。

 3秒の間に最高点から剣先まで矢が永久ループするレールだ。


 だがこの矢が軌跡の貫通を維持するものだから、なんでもきれる剣が出来るわけだ。


「納得したか、リーダー。これが俺たちの力だ」


 天を貫く軌跡を見て、ロリコン党員達が歓声を上げる。どうやら、気に入ってくれたらしい。


「なら、行きますか」


 城を見る。豪華で派手な、そびえ立つ糞。


「ケーキ、入刀」


 満面の笑みで、俺は聖剣をゆっくりと下ろした。

 



 塔のてっぺんが、刃に触れる。

 瞬間、何かに誘爆したのか盛大に爆散した。


 ああ、なんて気分がいいのだろう。

 

 随分とでかい音がしたのか、街中がどよめき始める。

 それもそうだ、国のシンボルが今半分になろうとしているのだから。


「教会に告げる!」


 すかさず、リーダーが拡声器でしゃべり始める。それでこれがテロなんだと、周知された事だろう。


「これは、神の裁きである! 私腹を肥やし、血税を使い、国を堕落させた教会への報いである!」


 正直な所、このリーダーはなかなか扇情的な言葉を喋る。

 きっと彼にはこういう事が向いているからリーダーなのだろう。


「教会が、何をした? 何をしてくれた!?」


 少しづつ、戸惑っていた聴衆たちが彼の言葉に耳を傾け始める。

 どうやらこの国は、変わり始めている途中らしい。

 確かに俺は世界を救ったかもしれないが、一人ひとりは救えなかった。

 町中で叫ぶ若者を、国を変えたい連中を。


「金だ、金を奪った! 信仰を盾に恫喝し、我らから血の一滴まで吸い上げたのだ!」

 

 今、熱気が街を包む。民衆たちは声を上げ、教会に非難の言葉を全力で浴びせる。

 積み上げられた恨みが、爆発する。


「だから、我々は要求する! さもなくばあの城を断罪する!」


 そして、男は叫んだ。

 



「結婚可能な年齢を7さいまで引き下げろ!」




 セルジアも叫んだ。




「男の子もだよ!」




 引くわ。もうドン引き。

 

 完全に熱が冷めて民衆たちから落胆の声が漏れる。

 だよね、そうだよねそうなるわな、うん。

 そりゃね、税金がどうとか、特権がどうとかそう来ると思うじゃん、みんな。

 というかそういうの期待してた空気だったよね完全に。

 

 もう、民衆が俺達の事を汚いものだと思っている。視線が冷たく、噂話さえし始める。

 俺はそんな連中のど真ん中で、馬鹿でかい剣を持ってテロ行為の真っ最中なのだから、当然代表者だと思われているだろう。

 

 ロリコンじゃないのにロリコン代表と間違われた男、俺。

 俺は勇者だよって言えば、ああ確かにそうだよねって書類がなくても納得してくれるだろう。

 

 ワガママを言うんじゃなかった。

 先にイノウエと合流して、アイツを囮にして城に潜り込めばよかったんだ。


 畜生、俺の馬鹿。


 などと自己憐憫に浸っていると、一人の男がこちらに歩いていた。

 特大のメイスを担いで、黒く長いコートをはためかせ、手持ちの瓶をラッパ飲みしながら。


 ――訂正、女だった。


 彼女はメイスを片手で回し、笑いながらこういうのだ。

 

「なんだ坊や、おっぱい星人から鞍替えしたのかい?」


 髪は伸びたかも知れないが、エルザがそこに立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ