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聖剣はケツに刺す ~勇者だけど世界救ったら暇になった~  作者: ああああ/茂樹 修
第一章 勇者だけど世界救ったら暇になった
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勇者再び旅に出る① ~暇だからといってやりたくないことをやってもいい訳じゃない~

 聖なる篝火よ我が右手に集いて、生み出されゆく邪悪なるもの全てを焼き払いたまへ。


 生産者のトーム村のロイズさんの顔が見えるサツマイモよ、我が肛門に力を与えたまへ。


「くらえっ、新魔法! インモラルエクスプロオオオジョオオン!」


 右手に宿った聖なる火が、サツマイモパワーで生まれたオナラに引火するという、新たな魔法。まさにインモラルまさにエクスプロージョン。


 今、この世界に新たな魔法がひとつ生まれ―


「あっ、やべ」


 なかった。


 失敗した、これはまずい。


 いやオナラも火もちゃんと出たんだが、普通にズボンに火がついた。急いでそれを叩いて消せば、漏れてくるのはここ最近口から出っぱなしのため息。


「はぁ……」


 俺は大の字になって、そのままズボンを脱ぎ捨てる。パンツにTシャツ一枚のこの姿が、世界を救った勇者の成れの果てだった。


 そう、勇者。


 勇者となって世界を旅し、魔王を倒し、それから後付でやってきたような大魔王をボコボコにしてそろそろ一年になる。


 別に元から旅をするのは好きじゃなかったから旅を続けたりはしなかったし、王族のお姫様は全員ブサイクだったので全部結婚を辞退したし、城の衛兵の仕事は体育会系だったので断った。だから、俺は家でゴロゴロ、じゃなくて日々新たな魔法を自室で研究していた。


 ただ、それもほとんどが失敗に終わっている。


 まず、最初に挑戦したのがエターナルテクノブレイク。いわゆる快感は電気信号だと適当に話しかけたどっかの城の学者が言っていた気がするので、それなら俺の得意な雷魔法を使って永遠に快楽を享受できるのではと考えたのが発端だった。


 なお結果は感電して失敗。


 次は、土の魔法を作って等身大の女の子を再現するという魔法、いでよ萌えキュンメイドゴーレム(仮)〜人形だけどあそこは本物〜だった。夜中全裸で人気のない森に行って試してみたが、俺の造形センスが悪いのか出来上がったのはなんかもうかろうじて人型と分かる程度の物体だった。


 とりあえず胸のところを触ろうとしたが、その瞬間にあえなく自壊。あの出来じゃ役に立つ日は来ないだろう。


 他にもいろいろ思いついたが、今日はインモラルエクスプロージョンだ。


 お腹をなでれば、またガスが溜まってきたような気がする。


 ――よし、どうせ暇だしやろう。


 諦めないことが大事だと、俺たちを守って星になった賢者のクロイツ爺さんが言っていた気がする。あれ、まだ生きてたっけ? 


 まあいいや、もう一回やろう。


 と、四つん這いになったところで気づく。そういえばさっきズボン燃えていたな、と。


 そして今履いているパンツはズボンより薄い。と、いうことはこれは燃える。





 よし、脱ぐか。しかしあれだな、平日の昼間からパンツを下ろすのは背徳感があっていいな。言い換えれば、インモラル。ということは、これが。




 見えた。




「くらえっ、新魔法! インモラル」

 

「アラト、いるー!?」

 

 突然、扉が開かれる。あわててそちらを見たせいで、炎の位置がずれる。脱ぎかけで膝の所にキープしていたパンツが炎上し始める。


 それも急いで叩いて消火する。んで顔をあげれば、魔法使いのローリエが腕を組んで立っていた。


 彼女は子供の頃からの知り合いで、一緒に世界を救った仲でもある。藤色の長い髪とスレンダーな体型のはたしかに魅力だが、いかんせん胸がない。顔も良いが、おっぱいは小さい。


 大魔王を倒したあの魔法使いのお店! ということで変な魔法ショップを開いて金を稼いでいるらしい。大魔王は俺が一騎打ちで倒したのに、畜生。


「……あんた、なにやってんの?」


 しかし相変わらず失礼な女だ。親しき中にも礼儀ありという言葉があるのに、いきなり部屋の扉を開けるなんて。しかも、タイミングが悪い。一日の半分ぐらいはパンツを履いているのに、パンツを履いてない時間に来るなんて。


「イ」

「イ……?」


 冷たい目をして、ローリエが聞く。怖い。


「インモラル、エクスプロージョン、です……」


 そう答えると、彼女は大きなため息をついた。どうやら、会話が成立していないらしい。


「とりあえず、話があるからあとで店に来て」


 なんだよ、家に来ておいて呼び出すなんて。本当に不躾なやつだ。


「あと、ズボン履いて来なさいよね」


 吐き捨てるようにそう言って、彼女は部屋を後にする。残ったのは、パンツが燃えた俺だけだった。






 完成させたかったぜ、インモラルエクスプロージョン。


 


 とりあえず適当な服を着た俺は、彼女の店へ向かっていた。 

 正直な話、俺があまり外出しなくなったのは人の目というのがある。

 特に帰って来た直後は大変で、街を歩く度に勇者さま勇者様勇者サマと声をかけられ、両手を掴みありがとうありがとうと涙を流す人もいた。こんなのでは、お菓子すら買いにいけない。


 まあそれでも、最近はマシになった。


 勇者様は勇者さんにランクダウンし、やれアレが安いとかやれこれも買っとけといろいろ言われるようになった。現にローリエの店に行く前に三回声をかけられた。

 彼女の店は、元は彼女の実家だった。

 二階建ての普通の家だったが、今は一階を店屋に改装している。昔は結構遊びに行っていたが、店になってからは一度も行ったことはない。理由は、まあ特に無い。


 普段はそこそこ繁盛しているらしいが、準備中の札がかけられたおかげで誰もいない。ドアノブに手をかければ、鍵がかかってない事がすぐにわかる。扉を開ければ、見覚えのある景色と見たことのない商品が同居している。


 よくわからない小瓶を一つ手に取り説明を読むと、絶対男を惚れさせる! なんて書いてある。

 どうやら魔法使いは詐欺師に転職したらしい。


「やっと来たわね、アラト。それで話なんだけど」


 カウンターに腰をかけ、彼女は偉そうに茶を飲みながら話を振ってきた。


「そろそろ、っていうか二週間後ね。大魔王討伐一周年記念のパレードがあるんだけど、聞いてる?」


 なにそれ。


「聞いてない」

「まあ、そんな気がしてたわよ。それで、勿論あんたが主役。先頭に立って、でかい馬車で街中練り歩くんだけど」

「うわ、超やりたくない」

「ダメよ、強制参加」


 まじか、逃げよう。


「別にいいんじゃない? ご馳走も出るらしいし、小遣いぐらいせびれるでしょう」

「行くしか無いな。よっしゃ二週間後だな」


 そう、だいたい世界を倒して救って何も特典がなかった方がおかしいのだ。

 金と、ご馳走と、あと女。それが国から無限に支給されるぐらいがちょうどいいはずなのに。

 人の笑顔だけでなんとかなるとか思っていたのだろうか。


 畜生、お金ぐらいくれよ。


「じゃあ、帰るか。二週間後だな」

「ちょっと、ちょっと話はこれからよ」


 なんだろう、もっと良い物が貰えるのかな? アレ欲しいな、アレ。萌えキュンメイド。


「あのねえ、パレードに参加するのがまだ二人しかいないのよ。私と、あんたね。さて問題です。大魔王の城に乗り込んだのは全部で何人?」

「六人」


 そう、六人。


 まずは俺。

 ある日国王が神託? を受けて勇者になると言われた男。まあ実際に才能があったらしく、勇者にしか使えない道具とか魔法とかはひと通り使えた。特に大義名分は無かったが、暇だったのでやることにした。


 次にローリエ。

 元々魔法使いになるべく学校とかも行っていたが、俺が旅立つと決まった時に仕方ないからついていって上げると顔を真赤にして言っていたのは今でも覚えている。多分、風邪でも引いていたのだろう。

 まあ戦闘では何かと便利だった。


 後は、狩人のセルジア。

 やたらと生真面目なイケメン野郎だったが、弓の腕は一級品だった。ここから近くの少数民族が住むネクト村で過ごしていたが、妹が魔物に襲われた事をきっかけに俺たちの仲間に。イケメンなくせに妹以外の女性に免疫がなく、女の目を見て話せない。いつも女の胸ばっか見てる超ムッツリスケベ。ローリエは胸がないので顔を見て会話できる。

 一人称が独特。


 もう一人は、シスターのエルザ。

 隣国ハイランドで色々戒律を破ったらしく、修行の一環で大魔王討伐の仲間に。まずは酒。次に酒。さらに酒。ほぼアル中の彼女だったが、おっぱいはデカかった。ただガタイも良かった。俺より背が高かったのと、常に酒臭かったのと、片手でメイスを振り回すその姿が怖かったので残念ながら恋愛対象にはならなかった。でもちょっとエロかった。


 忘れちゃいけないのが、吟遊詩人の自称スペシャライズド=ギフテッド=オーブ。

 通称イノウエ。

 本名イノウエ。

 実はどこかの王妃や貴族かとおもいきや、普通の村人だったイノウエ。特技は歌で夢はビックになることだったが、戦闘ではクソの役にも立たなかった。ただ、こいつに芸をさせたことで踏み倒した代金がいったいいくらになるのか俺にも計算出来ない。わりとビジュアルは良かったが、毎日顔を合わせるには性格がウザかったので恋愛対象にはならなかった。

 たまにニャンとかいうのがウザかった。


 あとは、海賊の息子ソフィア。

 欲しいのは船だけだったが、一人前になるためだとかなんとかでついてきた。最年少で、顔も声も女みたいだったが男だった。生まれてくる性別を間違えたとしか思えない。機械関係が得意だったので船の操舵や怪しい兵器を扱ってくれた便利な奴。

 たまにセルジアが怪しい目で見ていた気もするが、きっと俺の気のせいだろう。


 今にして思い返せば、よく世界を救えた面子だなと思う。


「正解。それで王様としては、全員呼びたいわけ。手紙は出したらしいんだけど、全員返事はなし。まあ、まともに手紙を読むような連中なんて一人もいないけどね」

「セルジアは? あいつ真面目だし」

「それがやたらと長文過ぎて、イエスかノーかはっきりしてなかったみたい」


 ああ、確かにそれっぽいかも。


「じゃあ……とりあえずセルジア迎えに行く? ここから近いし」

「そうね、そうしましょうか」


 話は決まった。

 あいつ、元気だろうか。

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