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聖剣はケツに刺す ~勇者だけど世界救ったら暇になった~  作者: ああああ/茂樹 修
第一章 勇者だけど世界救ったら暇になった
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勇者再び世界を救う③ ~エターナルテクノブレイカー~

「……やったか!?」


 爆炎が、俺を包む。やってないことを真っ先に理解したのは、おそらくエルザだろう。彼女のメイスを俺が片手で受け止めていたから。


「なあ、ローリエ」


 伏せている彼女を抱きかかえ、移動魔法を展開する。


「すぐ終わらせるから、先に帰っていてくれないか」


 彼女はここにいなくていい。

 いないほうが、いいんだ。

 今の俺は、ちょっと普段と違うのだから。


「パレード、さ。やるんだろ? 一人も出ないってのは、まずいからな」


 彼女の存在が、希薄になっていく。

 見送る側って、いつもこんな気分だったのだろうか。


「お願いアラト」


 震えた声で、彼女は言う。


「せめて、服を着て」


 やべ、服全部燃えてた。




 勇者。

 全裸。

 ケツに聖剣。


 ゆえに最強。ゆえに無敵。世界中の誰よりも、俺は強い。


「アラトオオオオオオオ!」


 魔王が、いつものもったいぶった口調を捨てて雄たけびを上げ突進してくる。奴の抜き手が、俺の心臓を貫き、抜き取る。


 だから、操作する。


 三秒前の俺は無傷だったから、その状態に巻き戻す。俺自身を修理する。


 傷はない。


 心臓はまだ鳴っている。


「へえ、便利だなこいつは」


 呆気に取られた魔王の首をつかみ、軽く締め上げる。


「降参しろ。お前らに勝ち目はない」


 余裕があった。


 今こいつを逃がしたって、いつでも好きなときに気分良くボコボコにする余裕が。


「ほざくな!」


咳き込みながら、魔王が吼える。負け犬の遠吠えが心地よい。


「一年間、お前への復讐だけで生きてきた! こんなところで終われるものか!」




 ああ、そうだろうな。

 強くなったよ、本当に。




 この場所で頼むから命と城だけはと懇願したお前の姿は、もうここにないんだな。


 だけど、そいつはお前だけじゃない。




 俺は、強くなった。




「奇遇だな、俺もここ一年ぐらい修行してたんだ」


 毎日、新しい魔法を研究した。

 毎日、新しい世界を目指した。

 

 失敗しかしなかったが、いまの俺ならできるはず。


「見せてやるよ」


 俺は、笑う。


 くだらない悪口だらけの手紙をよこしやがった、因縁の宿敵の努力をあざ笑う。


「ケツからウンコ以外のものが、出てくるとこを」


 最先端の魔法で、お前をあの世に送ってやる。




 理性も倫理も捨てた最凶の魔法。


 俺は、魔王を上空に放り投げる。空を飛び、追撃する。


 俺の通ったすべての軌跡が実体化し、今、呪文を唱える。


 聖なる篝火よ我が右手に集いて、生み出されゆく邪悪なるもの全てを焼き払いたまへ。


「インモラル」


 生産者のトーム村のロイズさんの顔が見えるサツマイモよ、我が肛門に力を与えたまへ。


「エクスプロージョン」


 軌跡。

 無数の俺の放屁が、聖剣にあたる。

 それはかすかなものだったが、聖剣に触れた全ての時空が歪んでいく。


 さっきまで、あったもの。

 これから、あるもの。




 その全てが『今』に集まり、聖なる炎に引火する。




「フルバーストオオオッ!」


 一つの爆発が、また聖剣に触れる。一は十、十は百。百は千に千は万。

 

 今、宴会芸以下の爆発が。

 空を焼いて、赤く染める。


 黒焦げになった魔王が、瓦礫の上に落下する。目を凝らせば、よろけながらも立ち上がろうとしていた。


「なんだ、まだ生きていたのか」


 あいつは、後でよさそうだ。




 辺りを見回す。

 まだ、敵が四人も残っていた。

 数の利は、まだ向こうにある。


「相手が多いな……」


 だから、こっちも足す。

 そういう魔法を、俺は開発していた。


 ソフィアのロボットを見て、気づいたことがある。必要なのは動力。あいつの場合は聖剣だったが、そんな立派なものは必要ないだろう。


 俺は横一列に移動し、無数の自分を実体化する。

 その全てが、股間の陰毛をむしる。毛って奴は魔力の貯蔵庫として優秀らしいなんて事を、俺は今になって思い出したからだ。


 結構取れた。

 それを、地面に撒いてやる。

 

 凄惨たる瓦礫の山よ、我が呼びかけに応じ動きたまへ。

 

 その名を、呼んだ。


「いでよ、ジャイアント萌えキュンメイドゴーレム」


 瓦礫が集まり、巨大な人型を形作る。


「「「「はーい♪ アラト様ぁ~!」」」」


 ひいふうみい、4体。ちょうどいい、敵の数と同じだ。


 うーむ、やはりこいつは失敗だ。あんまりかわいくないというか、それを通り越して不気味だ。やっぱり色が足りないな、色が。もっとこう肌色が多くないと。


 まあいいか、戦力には変わりない。


 ジャイアント萌えキュンメイドゴーレムが、逃げ惑う連中を追いかける。

 走って逃げるが、その歩幅には追いつかない。

 攻撃しようが、瓦礫を吸収し元に戻る。


 チェックメイト。どうやら最強の仲間すら自力で作れてしまったようだ。

 ゴーレムは次々に敵をつかみ、その大きな手で奴らを握る。


「どこがだよアラト! メイド要素ゼロじゃん!」


 どこぞのガキが不満なようだが、どうやら修行が足りないようだ。


「うるせえ! 心の目で見るんだよ心の目で!」

「ゆ、勇者殿! 違うんです、これほんの出来心なんですよ! やだなあ、あは、あははは」

「そうですよ勇者様! イノウエ、一生荷物持ちするって誓ったじゃないですか! ね、エルザさん?」

「アタシ? アタシは別に戦えるんなら」

「いいから、とにかく今は謝らないと! せーの」


 連中がなにやら言い合いをはじめ、大人しくなったと思えば、ふざけたことを抜かし始めた。




「「「「ごめんなさい!」」」」




 なに言ってんだろう、こいつら。


「悪い、聞こえないんだけど! ほら、今聖剣ケツに刺さってるから!」


 いや本当、わかんないな何言ってんだろうな。今俺それどころじゃないからなー。


「「「「勇者様、ごめんなさーい!」」」」


 やっとわかったか、この馬鹿共め。誰が一番偉くて、誰に従えばいいのかを。


「仕方ない、許してやるか」


 ただ、まあそれでもこいつらは俺の仲間だって事に変わらない。

 じゃれるのだったら付き合うって、さっき言った手前もある。




 ようやく立ち上がった魔王の元に、ゆっくりと降下する。真魔王が肩を貸し、立っているだけでやっとのようだ。


「それで、どうするお前ら? 大人しく引き下がるなら、まあ見逃してやらない事もないが」


 俺も鬼ってわけじゃない。

 もうこいつらが懲りてその辺でひっそり暮らすなら、それも悪くないって思う。

 顔を見にいこうなんて、これっぽっちも思わないが。


「我ら誇り高き魔族……白旗などありはしない」


 涙目で、真魔王がそう答える。

 魔王は、ただ黙って頷いた。


 そうだな、お前らってこういう奴だよ。




「なら、ここで逝け」




 呪文は、無い。

 雷はもう俺自身だ。

 魔方陣は必要ない、ただ願うだけでいい。


 空気が弾ける。


 瓦礫は浮き、衝突してはまた弾ける。

 一瞬で魔力を全部雷にして、その一瞬を繰り返す。

 俺が操れる領域を、徐々に徐々に広げていく。


 半径十キロ、これが俺の操る世界。


 何だって、出来る。


 俺は今、自由だから。




 ――派手にイこうぜ。

 



「エターナル」


 帯電する雷を、生物という生物に干渉させる。


「テクノ」


 電気信号信号って奴ならば、俺が操れない理由が無い。


「ブレイカアアアアアアアアアアッ!」


 エターナルテクノブレイク。いわゆるイクときの快感は電気信号だと適当に話しかけたどっかの城の学者が言っていた気がするので、それなら俺の得意な雷魔法を使って永遠に快楽を享受できるのではと考えたのが発端だった。


 その矛先を、少し変える。

 イかせるのは俺じゃない。

 半径十キロ。

 そこにいる全ての生物を、絶頂させては昇天させる。

 



 ん? 十キロ?

 こいつら以外に、ほかに誰かいたような。




「やべ、あいつらもいたんだった」


 後ろを見れば、仲間たちが全員だらしない顔をしていた。ゴーレムもイってた。鳥はその辺に卵を産んで、花は咲いて花粉が舞う。


 美しいと、俺は思った。いつか彼女と、こんな場所を見に行こう。

 

 その時は、まあ服を着て。


 気がつくと、足元に血が垂れていた。恐る恐る肛門に手を伸ばすと、真っ赤な液体が付着していた。


「そりゃ」


 それは、全てを切り裂く最強の剣。俺のケツが裂けない理由がこの世のどこにあるのだろうか。


「そうだよなあ……」


 意識が朦朧として、その場に倒れこむ。だれだよもう、こんな聖剣作ったの。


『お疲れ様でした。このまま電源をお切りください』


 誰かの声がする。

 

 それはきっとメッセージ。


 ありがとうの言葉に代えた、精一杯の感謝の気持ち。

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