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聖剣はケツに刺す ~勇者だけど世界救ったら暇になった~  作者: ああああ/茂樹 修
第一章 勇者だけど世界救ったら暇になった
17/22

勇者作る② ~組み立てはあいつがやってくれた~

 ロボットは、まだ一般の人には知られていない概念である。


 だが俺達は知っている、そういう敵がいたからだ。

 初めて見たのは、どこかの敵の潜む城だっただろうか。ゴーレムとかと違い、全身が機械だったのは今でも覚えている。普通モンスターは倒せば消滅するが、こいつだけは違った。なんと部品単位でバラバラになったのだ。

 ソフィアは機械に強く、そいつを見て誰よりも目を輝かせていた。自分の手で、いつかこんなのを作りたいと語ってくれた。


 まさか、それに俺の大好きなメイド要素を付け加えるなんて。

 まったくこれだから信頼の置ける仲間は違うぜ。


 ソフィアが案内してくれたのは、屋根裏部屋だった。こいつの自室からハシゴで登れて、無理やり改造したかのようにところどころ建物自体の格子がむき出しになっている。


「ここに人いれるのさ、アラトが初めてなんだぜ」


 それ以上に目立つのは、文字通り部品の山の数々。ほとんど人間の手足と遜色ないようなものもあり、若干怖い。だがそれ以上に目を引くのは、部屋の中央に置かれた大きなベッド。 大きな布がかけられており、何が寝ているのかはわからない。


「ここが僕の工房さ。汚いけれど、まあいいさ」

「それでメイドロボは?」


 やれやれ、なんて言いたそうな顔でソフィアは首を横に振る。


「まあ、落ち着いて。それより僕の話を聞いてくれると嬉しいかな。やっぱり、目的を理解してくれないと手伝って欲しくないし」


 適当な所に腰をかけ、ソフィアがはあとため息をつく。

 若干偉そうだが、まあメイドロボのためなら仕方ない。


「なら、念のため聞いておこうか」

「いいかいアラト。僕はね、君らと世界中を旅してさ、わかったことがあるんだ」


 人差し指をピンと立て、真剣な目でソフィアが言う。


「言ってみろよ」


「女はさ、クズかブスしかいないって」


 なるほど、そういう事だったか。

 

「ローリエだろ? エルザにイノウエだろ? 色んな所のお姫様は基本的にブスばっかりで、僕に迫ってくる女の人もぜーんぶ僕の見た目に興味があるだけ。僕のこと、ちゃんとわかってくれる人なんて一人もいない」


 他に、もっといるんじゃないか?


 そう当たり前の世間様みたいな事を言おうとしたが、ダメだった。俺が今まで獲得してきたサンプルの数々を比較しても、ソフィアの言い分の方が正しい。しかも世の中にはクズでブスがいるもんだからもっと始末におえない。普通ならどっちかだろっての。


「だけどさ、違うんだよね」


 天井を見上げ、足をプラプラと動かしながら、ソフィアは語る。


「二次元はさ、僕のことちゃんと見てくれる。現実の女と違って、かわいいし、綺麗だし年取らないし」


 確かに、最初は違うかもしれないが後半は正しい。


「だから、山ほど資料を集めて部品とか買ってパーツは特注で作らせたんだ。あと、服もね」


 あ、資料だったんだあれ。

 趣味じゃなかったんだ。


「わかるだろう、アラト? 僕がこの一年どれだけ頑張ってきたか」


 ソフィアは、きっと絶望していた。それもそうだ、海賊なんて基本男しかいないような集まりだし、俺達が旅で出会った女はだいたいクズがブス。


「ソフィア、俺はお前に謝らなきゃならないな」


 だから、俺はこいつに対して責任がある。


「なんだよ、急に。もしかして僕の理想がわからない?」


「パーティに、可愛い子が一人も加入していなかったことを、さ」


 ――俺の罪。


 強いとか、便利とか、盾になるとか。

 そういう理由だけで仲間を選んでしまったこと。もっと可愛くて料理しかとりえの無いような子を、連れて行かなかったこと。


 それは間違いなく勇者一行の代表者たる俺の責任。


「すまなかったソフィア」


 深々と頭を下げる。思春期の少年に対して、あの旅は残酷すぎたんだ。


「いいんだ、いいんだよアラト。君のお陰で僕は理想を見つけたんだ」


 ソフィアが優しく、俺の肩に手を置いてくれた。顔をあげれば、こいつは笑っていてくれた。


「ああ、わかるよすごくわかる」

「見せてあげるよ、僕の嫁を」


 ソフィアは歩き出し、ベッドにかけられていた布を大げさに取って見せた。


「彼女は、アイ」


 髪はピンクで、少し控えめなツインテール。おっぱいはちょっと平均より大きいぐらいで、背はソフィアよりは高い。


「彼女は元々異世界で普通の学校生活を送っていたんだけど、平行世界の運営の歪に巻き込まれ僕らの世界に迷い込んでしまったんだ。僕らが倒した魔王とは違う系統の魔族……ああこれを血族っていうんだけど。この血族との戦いに勝利したものの体はボロボロになって、魂だけを別の器に入れ替えたんだ。聞いてるアラト? それで、彼女の魂の器は僕が偶然見つけて、僕が体を作ってあげることになってね。メイドっていうのは、実は彼女の希望なんだ。彼女の世界ではメイドがとても格式高く女の子の憧れの職業で、自分はもうそうなれないって気づいて。でも、そんなの違うじゃん可哀想じゃん。だから僕がその夢を形だけでも叶えてあげることにしたんだ」


 あっこれ違うな。

 俺の理想とちょっと違うな。

 俺はもっとこう、エッチな奴が良かったんだけどな。


「それで、なんで聖剣が必要なんだ?」


 これ以上話を聞いてると大変そうなので、本来の目的を聞いてみた。


「実はさ、パーツの強度が持たない上に動力が無いんだよね」


 そう言うとソフィアは横たわるアイの体を起こし、背中を開いた。露出度の高いメイド服なので、服を脱がす必要はない。


「ほら、これ。ここの歯車。これが全部の部品のスターター兼動力なんだけど、これが脆い。あとうまく回転させる動力が長続きしないんだ」


 内部には俺が理解できないぐらい機械がぎっしりと詰まっていたが、ソフィアが指をさしてくれたものがなんだかはすぐに分かった。それぐらいでかい歯車だった。


「なるほど、これを修理し続ければいいんだな」

「そういうこと。修理の段階で、破損したものは元に戻るんでしょ? なら、全部解決すると思うんだけど」

「じゃあ、やってみるか」


 聖剣を取り出そうとすると、ソフィアが慌ててそれを押さえた。


「ちょっと待って!」

「……かっこいい服に着替えてくる」

「おう、行って来い」


 この思春期ボーイめ。




 遅いな、なんてぼんやりと考えていると、ソフィアの声が聞こえてきた。


「アラト、助けてくれ!」


 慌てて、ハシゴを降りてソフィアの部屋に戻る。そこには着替え途中だったせいかパンツ一丁のソフィアを羽交い締めにするセルジアがいた。


「勇者殿がいけないんですよおおおおお!」


 セルジアは、おかしくなっていた。いや結構前からおかしかったか。


「ソフィア殿とふたりっきりでええええ! はなし声も、声もきこえなくなるからああああああ!」


 きっとこいつのことだから、ドアに耳を当てて俺たちの会話を盗み聞きしていたのだろう。俺達が屋根裏部屋に上がったせいで会話が聞こえなくなり、それで耐え切れず出てきた、と。


「落ち着けセルジア」

「そうだよセルジア! お前僕の事変な目で見てただろ! キモいんだよ、キモいんだよこのこのっ!」


 事実を連呼しながら、半裸のソフィアが頑張ってセルジアの足を踏んづける。


「キモ……い?」


 何か悟ったような顔で、セルジアは語りだす。


「違います、これは愛です」


 そして、腰を振ってソフィアに押し当てる。さすが変態、もはや犯罪そのものを体現している。


「愛なんですよ、これこそがあああああああ!」


「そんなの、僕と彼女の絆に比べればゴミみたいなものさ!」


 物凄く嫌そうな顔をしながら、ソフィアがそんな事を言う。


「かっ、かのじょぉ!?」

「アラト、いや勇者……彼女を連れてきてくれないか」


 いいけど、お前パンツ一丁だぞ。かっこいい服はどうしたんだ。


「本当の愛ってやつを、見せつけてやりたいんだ」


 苦痛に歪みながらも、精一杯の笑顔でソフィアが言う。


「ああ、まかせとけ」


 俺が応援するのは、ソフィアの愛だ。断じてセルジアの下半身ではない。


「勇者殿!?」

「悪いんだけどセルジア、俺の理想はソフィアのほうが近いんだ……お前とは敵同士だ。というかお前の仲間と思われたくない」


 本当、ソフィアにはパーティの人選に関しては悪いことしかしていない。セルジアを仲間にしたこともいつかちゃんと謝ろう。


「キモっ、人のことそういう目で見てたのかよさっさと離せよ!」

「違います、違いますぞおおおお!」


 腰を振りながら変態がなにか言うが、俺は天井に向けて聖剣を突き立てる。


「じゃあなんかさっきから股間あたってんだけどなんでだよ!」


 瞬時に天井を切り裂き、粉々にしてやる。ちょうどいい場所だった。空からベットが振ってきて、鈍い振動が俺達を襲う。


「アイ……お前のご主人様がピンチだ」


 彼女の体をもう一度起こし、空いたままの背中に聖剣を刺す。




「動け」




 聖剣に念じ、思い描く。

 俺達が望んだ、未来そのものを。

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