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聖剣はケツに刺す ~勇者だけど世界救ったら暇になった~  作者: ああああ/茂樹 修
第一章 勇者だけど世界救ったら暇になった
16/22

勇者作る① ~男たちの夢とロマン~

 海賊。


 その言葉が表すものは、俺と爺さん達の世代ではずいぶんと違うらしい。


 昔、海は平和だた。


 国営の商船が沈むんじゃないかってぐらいの交易品を乗せて大海原を縦横無尽に駆けまわっていた頃、海に魔物なんて連中はいなかった。

 そんな平和な船を襲い、生業としていたのが昔の海賊。

 行きの船を襲っては、中の荷物を奪い取る。

 帰りの船を襲っては、売上金を奪い去る。


 それが、昔の海賊。


 だが魔王と魔物が現れて、状況は一変した。


 海賊なんて比べられないほどの凶悪な魔物が、海を満たした。

 おまけに命と船だけはと懇願しても、会話も成り立たない連中。

 これなら余程海賊に襲われていた時代のほうがマシだったと船主達は泣き叫んだ。


 だから、海賊を雇った。


 昨日の敵は今日の友。海上戦においてどこの軍隊よりも武装とノウハウを持った海賊達は海の魔物どもを次々と蹴散らした。

 おまけに、払うものは金だけでいい。命までは取られない。

 

 かくして嫌われ者の海賊は、頼れる海の守り神となったわけだ。


「ところで勇者殿、なぜ拙者は簀巻きにされて引きづられているんですかね」


 海賊のギルドの近くまで魔法で移動した俺たちは、とりあえずセルジアを頑丈な縄で縛り付けた。


「だって、ソフィアの親父さんあいつのこと溺愛してるだろ。お前みたいな変態が寄り付いたら、俺達だって追い出される」

「ううん? 拙者の周りに変態なんてどこにもいませんぞ?」

「いいかセルジア、大人しくしてるならソフィアには会わせてやる。だがそれ以上余計なことを言ったら、目隠しもするぞ」


 そう言うと、セルジアの無駄口が止まった。どうやらわかってくれたらしい。

 さあて、あいつは元気だろうか。




 時代の変化に合わせて海賊団にも寄り合いが作られた。仕事の斡旋管理に報酬未払いの連中に対する制裁。

 ソフィアの親父は、荒っぽいままの連中のまとめ役だ。

 だから、ソフィアに会いに行くのは簡単だ。

 一番偉い人のところに行って、聞いてくればいい。ここの連中を救ってやったことがあるので、どっかの堅苦しい場所のように身分証明とかは必要ない。


 顔パス、勇者様、どうぞどうぞ。


 というわけで、俺達は難なくソフィアの親父に会えたわけだ。


「よっ、船長さん」


 船長。今は事務机で書類整理をこなしてはいるが、まだ大海原を駆ける気持ちを忘れたワケじゃない。

 だから、誰もが彼をそう呼ぶし、そう呼ばないと返事してくれないのだ。


「お?」


 顔を上げ、船長は俺の顔をじっと見る。俺が誰だかわかったようで、すぐに大きな笑顔をしてくれた。


「おーう、勇者じゃねぇか! なんだなんだ、海賊にでもなりにきたのか!?」


 書類を投げ捨て席を立ち、俺の肩をバシバシと叩く。


「それから、ローリエちゃんにセルジアか。なんだあいっかわらずお前らは面白い遊びしてんな」


 簀巻きにされて紐を付けられ、黙ってニヤニヤしてるセルジアを見て、船長はそんなことを言う。

 セルジアの性癖がまだバレていないことは、きっと幸せなことだろう。

 もちろんその両者にとって。


「いや、ソフィアに用があって。会いに来たんだが部屋にいる?」

「ソフィアに、か……」


 船長が、言葉に詰まる。

 それから自慢のヒゲを指先でいじり、腕を組んで、うんうんとひと通り頭を捻らせる。


 そして、船長は勢い良く土下座した。


「頼む、勇者! こんなことお前にしか頼めねぇんだ!」


 額を床に擦り付け、建物全体が反響するぐらいでかい声で、船長は俺に頼み込む。


「あいつを……救ってやってくれ!」




「救うたって、なあ」


 船長が言うには、ソフィアはおかしくなったらしい。


 どこがどうおかしくなったかといえば、怪しい宗教にハマっているらしいとか何とか。別に生活態度が悪いとか、部屋から一歩も出てこないとか、非行に走っているとか、反抗期で親父のパンツと一緒に洗濯しないでくれとか、そういう事は無いんだとか。


 なら、別に救う必要はないんじゃないのと聞いたが、部屋から変な笑い声が漏れたりととにかくまあ不気味らしい。ついでに誰も部屋には上げなくなったようで、それが一番の心配の種だとか。


「私達、別にそういうのじゃないんだけど」


 俺もローリエも他人の家庭環境に興味はないので、はっきり言って真剣ではない。


「何を言いますか二人とも! 仲間の危機とあらば例え地の果て空の上、助けに上がるが我々でしょう!?」


 セルジアも他人の家庭環境に興味はないが、ソフィアとその下半身には並々ならない情熱を注いでいるので当然熱弁をふるう。


「そうだっけ?」


 聞き返すと、そうだと頷いたので、俺はセルジアとこれ以上の話をするのはやめた。

 お前イノウエの時寝てただろうが。


 ソフィアの部屋は、ギルドの事務所と同じ建物の中にある。

 最上階にあるのは、きっと親父である船長の見栄だろう。


「おーいソフィア、俺だアラトだ。ちょっと用があるんだが」


 扉を叩き、呼びかける。


「んー? 久しぶり、何しに来たの?」


 存外普通の返事が、扉の奥から聞こえてきた。


「聞きたいことがあってな、まあすぐ終わる用事だよ。部屋に入れてもらってもいいか?」

「あと、私もいるわよ」

「拙者もいますよ」


 それから、しばらく沈黙。


 どうやら、部屋に人を入れないってのは本当らしい。


「んー……アラトだけなら入っていいよ。セルジアはキモいし、ローリエは乱暴だし」


 キモイのはショックを受け、乱暴なのは腹を立てる。

 そんな二人を抑え、俺は鍵が開けられたドアノブに手を掛ける。


「じゃ、そういうことで」


 二人に中を覗かれないよう、体勢を工夫しながら俺はソフィアの部屋に入った。




 誰も入れなかった理由は、すぐに分かった。


 壁をうめつくす、ポスター、ポスター、ポスター。

 

 決して写実的でも現実的でもない、ずいぶんと頭と目が大きくデフォルメされた、けれどもかわいいなと思える女の子がその全てに書かれている。


 ベットにあるのは、長い棒状の抱きまくら。勿論女の子の絵が印刷されている。


 棚をうめつくす、沢山の本と人形たち。


 本と言っても学術書なんかじゃない。

 全部娯楽で、ほとんど絵しかないような奴。


 人形は勿論女の子が遊ぶような可愛らしいやつじゃない。


 可愛らしい女の子そのものの人形なのだ。勿論フルカラー。


 ああ、知ってるこれ。

 オタクってやつだ。


「こいつは、凄いな」


 ソフィアの外見は去年とほとんど変わっていない。金髪で背の低い子供という印象は相変わらず。


 ただ、趣味の方はどうやら道を踏み外してしまったらしい。


「でしょ? 勇者ならさ、わかってくれると思ったんだよね」


 子供っぽく無邪気な笑顔で、ソフィアは本を片手にそんな事を言う。まあこういう脳筋っぽい海賊の集まりで自慢できる相手がいなかったんだろう。


「こういうの、どこで買うんだ?」


 壁を指さして、俺はソフィアに聞いてみた。自分の街で売ってるところは見たことが無い。


 ポスターをまじまじと見つめてみる。

 メイドさんを下から見上げたような構図で、短いスカートを抑えて恥ずかしそうに泣いている。しかもおっぱいがでかく、パンツが見えている。


 畜生、ちょっと欲しいぜ。


「半分ぐらいはハイランドかな。僕だって移動魔法は使えるし、お金は冒険してた時にかなり貯めこんだしね。自分で作った奴もあるよ」

「意外だな。あの国こういうのうるさそうだし」


 神がこんなの許しません!


 とか言いそうだけどそれがエッチなシスターが言うならいいんじゃないかなと俺は思う。例えばほらこの間の受付の巨乳の子とか。


 神がこんなの許しませんけど、私だけは許しちゃう!


 みたいな本、この棚のどっかにねぇかなあ。


「それがさ、こういう集まりに顔出した事あんだけど、もうウケるぐらい僧侶ばっか。あいつら相部屋だから、自分のスペースがなくて大変だって嘆いてたよ」


 なるほど、聞きたくなかったぜ聖職者の性の悩み。


「すげぇなこれ、パンツまでできてる」


 飾ってある人形を一つ手に取り、下から覗いてみる。

 皺と筋までくっきり再現。これも欲しいな。


「あんまベタベタ触んなよ? 高かったんだからさ、それ」


 何で出来てるんだろう。

 少なくとも木でも金属でもないみたいなので、とりあえず髪の毛を触ってみる。

 

 ペキッ。


 乾いた音が部屋に木霊する。どうやら加減を間違えたらしい。


「あっ前髪折れた」


 ソフィアが急いで人形に駆け寄る。


「あああああああああああああ!?」


 奇声を上げ、床に落ちた前髪を拾って、また奇声を上げる。


「なんなんだよおおおお!? 高かったんだぞそれええええ!?」


 大丈夫、それはさっき聞いたから。


「慌てんなよ、直すから」

「そんな技術あんのかよおおおおおおお!?」


 ――ある。


 俺は素早く聖剣を抜き、人形に軽く刃を当てる。

 まだ猶予はある。

 聖剣を強く握り、時間を巻き戻す。だけど効果を付与するのは、剣そのものじゃなく人形。


 1,2、3。はいストップ。


「ほらよ」


 ソフィアが持っていた部品はいつの間にか消え去り、折れた前髪はもう元通り。


「……なにそれ」


 治った人形を、ソフィアに手渡す。


「こいつを3秒前の状態に戻したんだ。な? 直っただろ」


 家でゴロゴロしている時に母親の花瓶を割った時に、身につけた新しい技術。惜しむらくは三秒しか戻せないのでそれ以上経つと効果が無いこと。


 スピードが大事。


 ソフィアは手渡された人形を、まじまじと見つめる。

 かるく指先でつついてみても、前髪は簡単に剥がれやしない。そりゃそうだ、前の状態に戻ったのだから。


「なあアラト、手伝って欲しい事があるんだ」


 神妙な顔つきで、ソフィアが言う。


「……メイドロボを、作らないか?」


 そして俺達は握手する。

 男たちの夢とロマンを、叶えるために。

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