勇者ヤキを入れる① ~つわものどもがゆめのあと~
「勇者様、勇者様」
朝、カーテンの隙間から日差しが差し込む。天蓋付きの特注ベットで、俺はまだまどろんでいた。小鳥のさえずりが聞こえ、コーヒーの香りが俺に鼻孔を刺激する。
「もう、勇者様ったら、お寝坊さんなんだから……えいっ♪」
頬を、彼女の指がつつく。目を覚まさなくたってわかってるよ、ハニー。
彼女は、俺専属の巨乳メイドだ。俺の身の回りの世話を進んで買って出てくれる。料理がとっても上手で、コーヒーを淹れるのだって名人だ。
「う、う~ん」
俺は、寝ぼけた振りをして彼女の胸を鷲掴みする。
揉む。
「いや~ん♪」
どこまでも続く天国への階段のように甘い嬌声。右手に伝わるおっぱいの貼り。指先の指紋の一つ一つが、そのなだらかで豊満な丘に生い茂る快楽を享受する。そして、弾力。力をいれれば、返ってくる。力を抜けば、名残惜しそうにおっぱいが反響して俺の指を逃さない。
こいつめ!
「あっれ~、コーヒーはどこかな~? どこかな~?」
揉む。モミ、揉む。
一つ揉んでは俺のため、二つ揉んではムスコのため。
三つ揉んではふるさとの、兄妹我が身といまそかり。
僕のロケットは準備万端待ちきれないぜ発射オーライ。
目指すは宇宙大気圏超え行くよロケットおっぱい星。
「ちょっと、このエロメイド! アラト様から離れなさいよ!」
突如部屋にやってきたのは、ある日異世界から突然召喚された巨乳ジョシコウセイ。
「えぇ~、でもぉ~? 勇者様を起こすのは私の役目ですよぉ~?」
おいおいハニー、そんなこと言っちゃ他の子が嫉妬しちゃうだろ?
「なによ、その役目役目って! そんなに役目が好きなら、役目と結婚すればいいじゃない!」
おいおいハニー二号、何いってるのかよくわからないゾ?
「まあまあ、まてよ二人とも。俺は一人しかいないけど、なんと手は二つもあるんだ。さ、そこに並んで」
ハニーと、ハニー二号をベットに招き入れ、川の字になってみんなで寝る。
右手には、優しく疲れた体を癒やす、神から与えられたおっぱいを。
左手には、生意気だけど本当は知ってる、その気持ちのよいおっぱいを。
揉む。
幸せ。
揉む。
幸福。
揉む。
ジャスティス。オールオーケイロッケンロー。世界は平和だウォウウォウウォウ。
そんな幸せな生活が、長く続くはずもなく、窓ガラスが割れたくさんの女の子が俺の部屋にやってきた。
エルフの国からやってきた妖精おっぱい竜巻起こすぜハニー三号。
ありとあらゆる道具をつかうぜおっぱいマスターハニー四号。
森の方からやって来ました野性味おっぱいハニー五号。
鍛えぬかれたムチムチボディ喰らえ少林ハニー六号。
なんて素敵なパラダイス。
これが望んだ勇者の生活。
日替わりおっぱい揉み放題、寝ているだけでお金がもらえる。ノーおっぱいサンド、イエスおっぱい四面楚歌。
「勇者様♪」
「アラト様~」
「あーらーとさん♪」
「ゆーうしゃーくんっ?」
周囲から聞こえる甘い声は、まさに俺の故郷の歌。
あれが、おっぱい星の歌。
聞こえるだろうか同士たちよ、これが、世界を包む平和な歌だ。
「アラト、あんたさっきから何言ってんの? さっさと起きなさいよ」
むっ、お前はおっぱいがないから屋敷の燃えないごみ係に任命したローリエじゃないか。だめだぞおっぱいヒエラルキーの欄外にいるくせに俺の部屋に土足で入るなんて!
悔しい―ッ!
「出て行け貧乳! 貴様のような洗濯板に手足が生えた人間に、俺の寝室に入る権利を与えた覚えはない!」
言った、言ってやったぜ。
後悔はない。
ずっとこの一言を、俺は言いたかったのだから。
「そう、あんた死にたいらしいわね」
「かかってこい、このペチャパイ帝国女幹部ローリエ! 貴様の巨乳全員を殺すという企みを俺は許さない! いくぞハニー達よ、力を貸してくれ! うおおおおおおおおおおお!」
目が覚めると、氷漬けになっていた。
「あっ、おはようございますローリエ様」
思わず、敬語になる。犯人に対して下手に出る辺り、俺はまだ紳士的なのだろう。
「おはようアラト。出来れば永遠に目を覚まさないでくれると嬉しかったわ」
辺りを見回せば、見慣れない景色が広がっていた。暗く、狭く、鉄格子。どこからか吹く隙間風の音が、一層侘びしさを演出する。
なるほど、ここは牢屋らしい。
だが、心当りがない。
「なあ、俺たちどうしてこんなところにいるんだ?」
「覚えてないの? 村に着く度、いきなり後ろから殴られたじゃない。それで気づいたら牢屋の中。武器も全部奪われたわ」
「……まさか、魔物が復活しているのか?」
「違うわ、気を失う前に聞こえたけれど、オーブ様とか言ってたからあいつのせいよ」
「誰だよ、オーブ様」
冗談みたいな名前。
「イノウエ」
ああ、そんな芸名あいつだっけ。
「よし、殺すか」
「そうね、それが一番いいわね」
ローリエも快諾してくれた。なぜ俺達が牢屋に入れられたのかは分からないが、少なくとも今後の方針だけは決まった。
ここを脱出し、武器を回収し、イノウエ捕まえ、拷問にかけ、殺す。
「ところでセルジアは?」
「まだ寝てるわ、さっさと起こすわよ」
ここはどこだろう。
気がつけば、拙者は白い花の咲く丘の上に寝転んでいた。
風が、頬を優しく撫でてくれる。
自然が優しく包み込んで、世界は輝いていた。
思えば、長い旅をしてきた。勇者殿と共に世界を救った。それは長く険しく果て無き旅路。
平和を、人を守りたかった。
ただ、誰かの涙を見たくなかった。
ちゃんと、できただろうか?
ちゃんと、救えただろうか?
その証明は、きっとここに。
「お兄ちゃん……お、は、よ♪」
拙者を、弟が起こしてくれた。優しく、美しく、純粋で傷つきやすい。
だから、守ろうと誓った。生涯をかけて、ともに歩いて行こう。
「ごめん、ごめんよぉ。お兄ちゃん、ちょーっとおねむだったかな……さあ、今日はなにしてあそぼうか」
そう尋ねると、弟はうれいそうにピョンピョンとはねて、こんな事を言うのだ。
「じゃあね、じゃあね。ぼく、かけっこがしたいな!」
「ようし、じゃああの木の下まで、きょうそうしようか!」
拙者が走りだそうとすると、弟は袖をぎゅっと握りしめ、顔を真赤にして抗議してきた。
「もーう、ちがうよお兄ちゃん! そのかけっこじゃないもん!」
「グ、グヘヘ、な、何をかけるのかなあ~?」
フラグ、フラグがビンビンですぞ!
拙者のフラグもビンビンですぞ!
「お兄ちゃんが、ぼくにかけて……ぼくがお兄ちゃんにかけてあげるの!」
「よ、ようしじゃあさっそくあの物陰にいこうか! 拙者、グへ、グヘヘ、がんばっちゃうぞ~!」
ここは天国、ポコチンヘブン。
夢見た世界、永遠に開かない蕾の楽園。拙者、いまなら死んでもいい。
「なあ、ローリエ」
端っこにいるモブその壱がなにか喋る。
「何よ」
モブその弐が答える。
「あいつ、疲れてるんだよ。休ませてあげようぜ」
「そうね、そうしましょうか……少し働かせすぎたかしら」
そんな台詞を言い残して、モブ壱、弐は世界から消失した。
そんなことより、かけっこかけっこ!
「あいつ、弟いねぇだろ……」
モブその壱の声が聞こえた気がした。
だけど、それはきっと風の声。