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青色☆サンタクロース

「ねえ、僕、あれが欲しい」


 少年は、キラキラと光るディスプレイたちが飾られているショーウインドウの向こう側を指差して言った。


「…少年、そういうことはオレじゃなくて、サンタに言え?」

「あんた、サンタじゃん」


 二人の口からは白い息が洩れる。季節は冬、クリスマスイヴの日に、町にサンタの格好をしている者は少なくなかった。

 青年もその一人で、店の案内をデカデカと記した看板を持って客寄せのアルバイトをしていた。サンタクロースの赤い服を身にまとい。

 少年はそんな青年の赤い服の裾を軽く引いて、言ったのだった。

 青年は少し困った表情をする。


「いや、オレはだな……」


 ただのアルバイトでサンタじゃないよ、と続けようとして、止めた。

 少年にとってどう答えるのが一番良いのかと、迷ってしまったからだ。

 その時まで、青年にとっての少年は、サンタを信じているような純粋な子供に映っていたのだ。



「知っているよ、サンタなんていないって言いたいんでしょう。そんなこと、わかってる」


 と、少年は静かに言った。

 青年は少し驚いた。




「だけど、サンタの格好、してるじゃん。あんたは偽物でも、サンタだろう?」


(確かにそうだ。)

 子供によって定義されるサンタクロースが、プレゼントをくれる奴、というだけで、一般にサンタクロースと呼ばれる者の衣装を身に纏う青年は、サンタクロース以外の何者でもなかった。



「……あの電車のプラモデルが欲しいのか?」


 さっき少年が指さしたショーウィンドウの中に飾られたプラモデルを、青年は覗きこんだ。



「ちがう」

「じゃああっちのか?」


 少し後ろに隠れたプラモデルを青年は指差す。

 しかし少年は今度は静かに首を二回、横に振った。



「クリスマスツリー」


 もう一度、少年はショーウィンドウの中を指さした。

 青年は、その小さな指が示す方向を、しっかりと見た。

 小さな小さな、手の平サイズのクリスマスツリーが、その先にあった。


「あんなちっさくていいのか?」


 ショップの入口にビカビカと光る電飾に包まれた大きなクリスマスツリーには目もくれず、少年はその小さなクリスマスツリーを見つめていた。



「ママが買ってくれたんだ、あれくらいの大きさのクリスマスツリー。パパが、燃やしちゃったけど」



 と、少年は呟いた。

 青年は、返す言葉を上手く選べなくて黙り込んだ。


 それ以上、二人は何も言葉を発さなかった。

 白い息だけが生まれては、ゆっくりと空に消えていった。




    *  *




「お疲れー、今日の余りだけど、持ってけー」


 帰り際に、青年なケーキを一箱受け取った。

 箱には小さなクリスマスツリーが乗っていた。少年が見つめていた、あの。


「あの、コレは?」

「オマケだよ。俺からのクリスマスプレゼントだ」


 店長はそう言って笑った。

 青年も笑って、頭を下げた。



 青年は、少年のことを思い出す。そしてすぐに後悔した。

 名前や住所だけでも、聞いておくべきだった、と。

 そうしていれば、このクリスマスツリーを届けることが出来たかもしれなかったのに。







『空から捜そうか』

「!?」



 人気の少ない通りにさしかかった所で、頭上から降ってきた声に驚いて、青年は空を見上げた。

 そこには、木製のソリに繋がれたトナカイが、ぷかぷかと浮いていた。

 青年は唖然とした。トナカイとソリ以外、そこにはなかった。

 幻聴でないのなら、言葉を発することが出来るのは、かろうじて今目の前にいるトナカイだけだろう。もちろん、トナカイが喋るとも思えないのだが、目の前のトナカイがにんまりと笑ったのを見て、青年は確信した。



『さあ、早く乗れよ。』


 くいっと、トナカイはソリの方へと首を動かす。


『届けたい人がいるんだろう?』

「……でもオレ、サンタの格好をしていない」


 青年は、ブルーのパーカーを着ていた。

 さっきまでは赤い服を身にまとって、格好だけでもサンタクロースらしかったというのに。

 肩をすくめて青年はバツが悪そうに言うと、トナカイは悪戯に笑う。



『服なんか関係ない。誰かに贈りたい、その気持ちがあるだけで、君はもう立派なサンタクロースだよ。

 ほら、そのフードをかぶったら、それっぽい青色サンタの出来上がりだ。』




(―――そうだ、今日はイヴなのだから。)

 不思議な出来事も、サンタの格好をしていないサンタクロースも、青年は全部アリな気がした。



「ああ。」


 青年は持っていたケーキと、クリスマスツリーをしっかりと持ち直し、いつの間にか地面に降り立ったソリに乗り込んだ。





 ソリは簡単に、再び空へと舞い上がった。

 青年もすぐに、バランスをとれるようになって、少年を捜す。


「――――いた!あそこだ、公園!」

『おう兄ちゃん、目いいな。サンタに就職しないか?』

「冬限定なら、考えとくよ!」


 ソリは急降下して、少年のいる公園へと向かう。






 リンリンと鈴が鳴る。

 ソリはブランコに座る少年の目の前で浮かんだまま停止した。


「ハッピーメリークリスマス!」


 青年はケーキとクリスマスツリーを少年に差し出して、笑った。


 少年は、初めは驚いていたけれど、すぐに元の表情に戻って、ゆっくりとソレを受け取った。



「……青い、サンタクロースだね。」



 そして少年は、青色に包まれた青年を見て、笑ったのだった。





(おしまい)

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