ギルドカードはファンタジーへの片道キップ
所変わってギルドマスター室の奥にある部屋。どうやらここはロウグの家を兼ねているらしい
良くも無く悪くも無く。言ってしまえば普通の木造の家だ
そして、俺が通されたのはその家の奥にある倉庫
中に入ると埃が舞うが意外と少ない。誰かが定期的に掃除をしているようだ
ただ本が乱雑に積まれているのはどうかと思う
「ふむ……火と水の魔術書はどこにいったかのう」
かがんで本を探しているロウグ。必然的に尻が俺の目線に入り込む。目の前で揺れるロウグの尻。……ぶん殴ってもいいか?
「お、あった。これじゃ」
本の山からロウグが発掘したのは二冊の古びた小冊子
渡されたそれらの表と裏を見る。タイトルはない。素材は紙ではなくなんらかの動物の皮をなめした物
そして、ほんの僅かだが魔力を感じる
「それには火と水の既存魔法がほぼすべて記載されておる。まあ、精進することじゃ」
火の魔導書の方をパラパラとめくってみると火の呪文の消費魔力やら呪文やら効果やら範囲が載っていた
この世界の魔法は大分形式化されていて自由度が結構ないんだな
ドラゴン的なクエストみたいに
「オリジナルで創れたりはしないのか?」
オリジナルマジックスペル。略してOMSとか憧れるじゃないか!
自分だけの魔法ってのは
「創れるがかなり高度な技術がいるぞ?今までに染み付いた魔法のイメージが邪魔をして、のう。これは今まで自身が魔法を使ってこなかったものも必然的に魔法を見て生きてきた。そのイメージを振り切るのは並大抵のことではないのう」
異世界人である俺にとっては余裕である
想像力が膨らむぜぇ……
「いや、それだけわかれば十分だ。ありがとな、爺さん」
ありがたくその二つの魔導書を異空間にしまい込む
暇なときにでも読んでしまえばいいだろう
「便利じゃな。その魔法」
まあ、異空間にしまい込むわけだから重量もないし容量も無制限だしな
まさに、歩く倉庫
ただ、時は止めてないから食料等は魔方陣を刻んだカバンに入れないといけないが。時魔法の維持ってすごい魔力を食うから魔方陣を使わないとすぐガス欠してしまう
「でも、いろいろ面倒なことに巻き込まれそうな属性だよな」
「確かにのう」
そう言い合っているとノックの音がした
「ジンです。レイン様のギルドカードをお持ちしました」
「おお……入ってくれ」
「失礼します」
そう言って入ってきたジンの手には黄土色のカードが
「こちらがレイン様のギルドカードになります。ご確認ください」
ジンからカードを受け取ると表と裏を見る
……どう確認しろと?
「魔力を流していただければ、その魔力に反応して情報が現れます」
俺の顔から察したジンが付け加えてそう言った
とりあえず軽く魔力を流してみるとホログラフのような画面が現れた
名前:レイン
二つ名:無し
年齢:19
魔法:火、水
ランク:C
「魔法の属性の方は空間と時は隠して起きました。ギルドカードという物は財布と身分証であるため、記載は避けた方がよろしくかと」
それには賛成である。ばれたら……あー、めんどくさい
ロウグは俺がそのギルドカードを受け取ると一つうなずいた
「言い忘れておったのじゃが、そのギルドカードを持つことでの利点と義務について……そう険しい顔をするでない。義務と言っても大したものではないからの」
ロウグはジンに目配せを送った
「まずは利点についてです。ギルドカードを持っているとギルドと関わりのあるすべての店で割引をしてもらえます。もちろんランクが高ければ高いほど割引額が多くなります。義務の方ですが、街にいる間に魔物等の集団が襲ってきた場合、ギルド主宰の魔物総掃戦に参加してもらいます。もちろんケガなどで動けない場合は免除されます」
「まあ、それぐらいなら構わないか」
時と空間を使わないで頑張れば問題ないだろう
ギルドカードを懐にしまい込む
「再発行には1000Gが必要になりますのでご注意ください」
「なにかあったら儂を頼るといい。必ず力になろう。これでも無駄に権力はあるのでの」
「わかった」
是非もないのでうなずいておく。あまり利用される心配のない後ろ楯があると気が楽だ
「では受付の者を呼んで送らせよう」
そう言って机の上にあったボタンの様な物を押した
察するに受付を召喚するためのボタンみたいな?
……察するまでもないか
「お呼びでしょうか?」
数分後、ノックの音と共に俺をギルドマスター室まで連れてきた受付の女性の声が聞こえてきた
「レイン君の用事が終わったのでな。表まで連れて行ってやってくれ」
「わかりました」
「では、の。レイン君。君の行く末に幸あらんことを」
「ありがとう」
俺は素直に礼を言うとギルドマスター室から外に出て受付の女性の後についてその場を後にした
「あなた、何者ですか?」
「何者とは?」
表に戻る道すがら受付の女性にそんな質問をかけられた
「登録に来ていきなりギルドマスター直々の試験。いくらと……あの属性を持っているからっておかしいです」
時と言いそうになったのでちょっと威圧してみました
……結構使えるな
「いや……あの戦闘狂っぷりならあり得るぞ」
なにかと理由をつけて毎週一回は決闘を申し入れている気がする
「た、確かにそうですね」
あの戦闘狂っぷりは周知の事実だったらしい
「ギルドマスターったらいつもいつも……」
話は逸らせたのだが、ギルドマスターの愚痴が始まってしまった
いろいろと溜まっていたらしく出るわ出るわ……
曰く戦闘を行う度にギルドが揺れる
曰く戦闘を行う度にギルドの金が(主に修理費)消える
結局表につくまでずっと受付の女性のマシンガントークは続くのだった
〜おまけという名の字数稼ぎ〜
理不尽だ……
僕はそう思う
ただ不可抗力とはいえ女性の裸を見てしまった以上はしょうがないかもしれないけれど
「勇者様。今度はあの店に行ってみたいです!」
僕を召喚した張本人。第一王女のアリスベル……愛称アリス(そう呼んで欲しいと言われた)は俺の腕を掴んでアクセサリー店へ突撃していく
女性に振り回されることが多い僕だが今までは凛がいたから結構楽できていたんだなーと今更ながら思った
「勇者様! これなんてどうですか?」
そう言ってアリスが見せてくるのは金でできたネックレス
「うん、可愛いんじゃないかな?似合ってるよ」
実際にアリスの醒めるような金髪と金色のネックレスはとても似合っている
「そうですか。ありがとうございます……」
僕がそう言って微笑みかけると顔を赤くして俯いてしまった
……僕の顔、そんなに変だった?
「あ、お会計してきますね!」
そう言って店員さんのいるところへ小走りで行ってしまうアリス
嫌われちゃったのかな?
アリスのおかげで今まで落ち着いて見れなかった店内を改めて見回す
どれもこれも綺麗な装飾が施されていて貴族御用達といった感じである
そんな中に一人でいる一般人である僕
……とても場違いな気がする
「お待たせいたしました、勇者様!」
帰ってきたアリスが普通に声をかけてくれて安心した
よかった……嫌われてなかったんだ
「次はギルドに行きましょう」
「えっ……ギルド?」
王女がギルドってなんかすごい似合わないんだけど……
「資金はもらえますが、旅費をすべて賄うことができるとは思えないので……。それに、経験も積めるので」
なるほど。確かに理に適っている
しかしギルドかぁ……
行ってみたいと思っていたんだよね
わくわくしているのが顔に出ていたのかアリスはにっこり笑うと僕の手をとった
「早く行きましょうよ、勇者様!」
「ちょ、ちょっとアリス!?」
早く行きたいのは山々だけど引っ張らないでください……
〜勇者(笑)の今〜
ギルドに突入一分前
〜作者の一言〜
とりあえず何も言わずに勇者(笑)は爆発すべき
自分で書いといてなんだけど鈍感すぎるわっ!←
今回は魔法を得るのと出会いフラグ建て
次回は勇者(笑)と凛が異世界で初の邂逅……の予定。たぶん
今思ったけど勇者(笑)の名前が未だ出てきていない件