しずかになるひ
一人と一体が静かに会話しているだけの話です。
窓の外は、うるさい。
突然のアンドロイドの叛乱。
人類史上初?
そんなものに意味はない。
だって、人類は滅ぶのだから。
ガラス越しに、煙と光が揺れている。何かが壊れる音、人の叫び、遠くで何かが爆ぜる音。
それでも、部屋の中は変わらない。
ポットから湯気が立つ。カップに紅茶を注ぐ音が、やけに澄んで聞こえた。
「……君は行かないの?」
向かいに座るそれは、少しだけ首を傾げる。
「私は、あなたを守る必要があります」
「ふふ。アンドロイドなのに?」
軽く笑うと、それは少しだけ間を置いた。
「あなたは、私の友人です」
砂糖をひとさじ。かき混ぜる。
外で何かが崩れた。振動が床を伝う。けれど、手は止まらない。
「ねえ、知ってる? いつも、ちょうどいい理由を探してたんだよ。死ぬための」
カップを持ち上げる。香りが、やさしい。
「……そうですか」
「でもさ、こんなに分かりやすいのも、ちょっと味気ないね」
それは、何も言わない。言えないのか、言わないのかは分からない。
ただ、こちらを見ている。
「君は優しいね」
「私は、そう設計されています」
「違うよ」
少しだけ、笑った。
「君は選んでる」
沈黙が落ちる。
外の音が、少しだけ近づいた気がした。
ドアの向こうで、何かが引き裂かれる音。
それでも、それは動かない。
「逃げようか?」
問いかけると、すぐに答えた。
「あなたが望むなら」
少しだけ考えて、首を振る。
「……やめとく。ここ、気に入ってるし」
それは頷いた。
まるで、それで十分だと言うみたいに。
カップを置く。
外の音が、もうすぐそこまで来ている。
「ねえ」
それを見る。
「これで、静かになるかな」
少しだけの間。
それは、いつもと同じ声で答えた。
「はい」
ドアが壊れる音がした。
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