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第三章:釈迦生誕の紅の夜明け(慶長六年四月八日)

彼は全身が震えていたが、それでも立ち上がった。

I. 聖山に暗雲が立ち込める

陰の時3時15分(午前3時45分)、昼夜の境界は最も混沌としている。比叡山にある延暦寺の旧本堂跡は、一夜にして整地され、黒と白の砂利で舗装された広大な円形広場が現れた。広場の中央には、彫刻されていない巨石で造られた高さ3丈の祭壇がそびえ立ち、その古びた姿は荒々しく野性的な雰囲気を醸し出している。祭壇は三段構造で、最上段には純白の翡翠で陰陽のシンボルが象嵌されている。陰陽の目の位置には、二つの青銅製の火鉢が置かれ、その燃えさしは冷たい青白い光を放っている。祭壇の周囲には、純白の狩猟服をまとい、無面の仮面をつけた800人の僧侶と僧侶が、天上の位置に従って厳かに立ち、儀式用の道具を手に、まるで800体の粘土像のように静かに佇んでいる。


さらに外側には、3000人の精鋭兵による鉄壁の陣形が築かれている。東西の軍勢は、それぞれの制服が混ざり合いながらも、互いに警戒しながら明確に隔てられ、広場の端で儀式を「見物」することを許された大名、朝廷の貴族、そして京都から来た有力な町民たちがひしめき合っている。古木の杉林を吹き抜ける山風の物悲しい唸り声と、遠くから聞こえる延暦寺の僧侶たちの微かな、抑えられた読経だけが、重苦しい夜明けに不気味な「神聖さ」を添えていた。


朝の光は鉛色の雲を突き破ろうと苦闘し、雲海と山々の間に淡い光の筋を差し込もうとしたが、広場に集まる人々の心に潜む深い影を照らすことはできなかった。ほとんどすべての人が、目に見えない、触れることのできない、しかし身の毛もよだつような気配を感じていた。まるで、二つの巨大で冷酷な、容赦のない目が祭壇の上に浮かび、これから始まる不条理で恐ろしい儀式を見下ろしているかのようだった。


II. 囚人の入場と貴族の着席

朝の始まり、低い角笛の音が死のような静寂を破った。輿が東の通路からゆっくりと入ってきた。八人の屈強な戦士に担がれ、重々しい黒いベールをまとった輿は、厳重な警備の下、広場の東側に特別に設営された台座の下に到着した。ベールの端が持ち上げられ、無表情でたくましい二人の侍女が、簡素な白い絹の衣をまとった女性を、半ば支え、半ば抱えるようにして運び出した。その女性は紙のように痩せ細り、長い髪が顔の大部分を覆い隠していた。侍女たちは彼女を、細かな鉄柵で部分的に囲まれた壇上の最前列の特別な席に座らせた。


チャちゃん(淀殿)が現れた。


数十メートル離れた場所からでも、柵越しでも、頭を垂れていても、彼女から漂う狂気の気配、死のような静寂、そしてある種の不穏な「集中力」は、彼女の姿を垣間見た周囲の人々の背筋を凍らせた。彼女は不気味なほど静かで、抵抗もせず、つぶやきもせず、ただじっと座り、両手を袖の中にしまい込んでいた。まるで魂のない人形のようだった。山風が彼女の額から数本の髪を揺らし、青白い顔に不釣り合いなほど深く見える瞳を露わにするとき、時折、その瞳に一瞬、ほとんど触れることができるかのような冷たい憎悪が宿り、そして……何かを「聞き取ろう」あるいは「感じ取ろう」としているかのような、理解しがたい表情が浮かぶことがあった。


ほぼ同時に、西の通路から、さらに威厳のある一行が到着した。徳川秀忠は、燕尾服に身を包み、井伊直孝や本多政純といった重臣たちに囲まれ、西の壇上に上がった。表情は穏やかで、立ち居振る舞いは落ち着いており、彼に向けられる畏敬の念や詮索の視線には全く気づいていないようだった。鉄柵で囲まれた席を通り過ぎ、お辞儀をされた茶碗や皿に視線が触れた時、袖に隠された指が、ほとんど気づかれないほどわずかに動いた。彼はぞっとするような共鳴、一種の相互反発を感じ取った。それは、愛する者に裏切られ、運命に追い詰められ、絶望的な賭けに出た者たちのオーラだった。


彼の視線は闘技場全体を見渡した。東側の舞台には、小野春長をはじめとする豊臣秀吉の側近たちが既に陣地につき、緊張した表情を浮かべていた。さらに遠く、宮廷の貴族たちの間には、石田三成が密かに接触していた見慣れた顔がいくつか視線を移していた。広場を取り囲む武士たちの列の中には、本多忠信から事前に知らされていた、絶対的な忠誠を誓う世襲家臣たちの顔がいくつか見えた。そして、徳川衛兵の中から彼が選んだ、真実の一部を知る数人の刺客たちの顔もあった。すべては整っていた。


彼の左手は、まるで無意識のうちに刀の柄に置かれていた。布越しに、冷たい鍔が確かな感触を与えていた。「鬼切」は鞘の中で静かに眠っているか、あるいは行く手を阻むもの全てを切り裂く力を蓄えているかのようだった。


III. 二日祭壇への参拝 毛尾の三時15分(午前5時45分)、朝の鐘が再び鳴り響き、その長く深い響きが山々や野原にこだました。


同時に、祭壇の南北に伸びる二つの主要道路沿いに、澄んだ美しい青銅の鐘が鳴り響いた。人々は息を呑み、その音に目を凝らした。


南の道路では、金と深紅に塗られた御輿が、純白の四頭の駿馬に引かれ、壮麗な戦装束をまとった無数の赤い装束の武士たちに囲まれ、ゆっくりと祭壇へと近づいてきた。御輿の幕は低く下ろされていたが、その派手で奔放、そしてややせっかちな存在感は、既に圧倒的だった。馬車は祭壇の前で止まり、幕が上げられると、濃紺の衣をまとい、黒い帽子をかぶった「若者」が、二人の屈強な従者に支えられ、緋色の絨毯が敷かれた階段に足を踏み入れた。彼は落ち着いた足取りで、まるで大人のような威厳さえ漂わせていた。小顔は後ろに傾き、視線は辺り一面を見渡し、やがて北の道へと向けられた。年齢にそぐわない、挑発と興奮が入り混じった笑みが、彼の口元に浮かんだ。


豊臣秀頼(秀吉)は祭壇に昇った。


同じく壮麗な一行を従えた北の道は、全く異なる、抑制された、厳粛な雰囲気を醸し出していた。黒を基調とした御輿は、黒牛に引かれ、黒羽織を身にまとった侍たちに囲まれ、鉄のように静かに進んでいた。馬車が止まり、扉が開くと、最初に降りてきたのは春日坪根だった。表情は依然として無表情だが、その目は鷹のように鋭かった。彼女は振り返り、恭しく両手を差し出した。


そこに、子供の細くしなやかな手が彼女の手に重なった。続いて、黒の半袖の着物の上に徳川家のタチアオイの紋章が刺繍された羽織を羽織った「少年」が、ゆっくりと馬車から降りた。彼は誰の手も借りず、同じ緋色だがやや濃い色のフェルトの絨毯の上を、一歩一歩祭壇へと歩みを進めた。その歩調はゆっくりと、まるで慎重に、しかし驚くほど安定しており、まるで千回も測ったかのようだった。彼は視線をやや伏せ、周囲の無数の視線には無関心な様子だった。最後の段にたどり着き、南の方角にいる「秀頼」と視線が交わった時、彼の深い茶色の瞳が持ち上がった。静かで穏やかでありながら、あらゆる光を飲み込むかのような力強さを秘めていた。


徳川家光(家康)は祭壇に上がった。


東西の二人の「巨匠」は、この入念に設えられた、象徴的に重要な祭壇の上で、公然と、厳粛に、そしてどこか不気味な雰囲気の中、ついに初めて「対面」した。


二人は陰陽のシンボルの陰陽の目の前で向かい合って立っていた。身長はほぼ同じで、顔にはまだ若々しい無邪気さが残っていたが、二人から放たれるオーラは、広場全体の気温を数度下げるほどだった。挨拶も、形式的な言葉も、視線を交わすことさえなかった。ただ軽く頷き、形式的な挨拶を交わしただけだった。


しかし、その短い視線の交わりの中で、視覚を超え、魂にまで届くさざ波が、静かに二人の間に広がった。秀吉(秀頼)は、目の前にいる同じく古風で冷たい存在に刺激されたかのように、自身の「若き秀吉」の断片の中に、激しい動揺を感じた。一方、家康(竹千代)は、竹千代の残滓の魂のすすり泣きをはっきりと「聞き」、その瞬間、それは鋭く甲高い声となり、言い表せない恐怖と……奇妙な親密さが入り混じったものとなった。


この感覚は束の間のものだった。ほぼ同時に、二人は強靭な意志力で、内なる動揺を抑え込んだ。表面上は、二人は相変わらず、どこか不気味なほど早熟な子供のままだった。


IV. 血の生贄 プロローグ 「神官」は、京都の朝廷によって任命された、非常に尊敬されているが長きにわたり統治してきた皇子であった。彼は震える手で金色の墨で書かれた弔辞を広げ、老いた抑揚のない声で、天照大神、八百万の神仏への賛美、そして「二つの太陽が共に輝き、聖なる君主が統治し、日本を守護しますように」という祈りを唱え始めた。長く、空虚で、陳腐な弔辞は、重苦しい広場に響き渡り、まるで退屈な前置きのように、これから始まるメインイベントの舞台を整えているかのようだった。


観衆のほとんどは、緊張、疑念、恐怖、期待――静寂の中で沸き起こる無数の感情――に思いを馳せていた。緊張していたのはごく少数だった。


チャナは袖に隠した指先で、あらかじめ用意しておいた「血墨」の入った油紙の包みをそっと破った。粘り気のある冷たい液体が指先に触れ、かすかな灼熱感を感じた。彼女は頭を垂れ、極めて低い声で呪文を唱え始めた。それは彼女自身も完全には理解していない浄化の呪文だったが、彼女は「役に立つ」と感じていた。一音一音を発するたびに、彼女はかすかなめまいを感じた。まるで体から何かが吸い出され、指先の血墨に、そして血で繋がった胎児へと流れ込んでいくかのようだった。腹部からは、ほとんど感じ取れないほどの微かな脈動が伝わってきた。


秀忠の左手は「鬼切」の柄に添えられ、指の関節は圧力で白くなっていた。彼の視線は祭壇上の小さな黒い人影に釘付けになっていた。彼は待っていた。儀式が核心に達するのを、あの「もの」の霊が最も集中し、おそらくこの肉体との繋がりが最も「微弱」になる瞬間を待っていた。袖の中に隠された右手は、「絶対毒」の針が入った革の鞘を握りしめていた。その冷たい感触が、彼の意識を保っていた。


石田三成が送り込んだ刺客団の首領、島左近は、広場の外縁にある供物を保管するための粗末な木造小屋の陰に身を潜めていた。彼は隙間から覗き込み、祭壇に視線を固定し、衛兵の交代間隔と茶奈様の居場所から退却路までの距離を計算していた。刀の柄を握りしめ、手のひらは汗ばんでいた。主君(三成)が既に伏見城への奇襲攻撃を開始しているはずであり、最大限の混乱を引き起こすためには、この行動をそのタイミングに合わせて行わなければならないことを彼は知っていた。


本多忠信は、宮廷貴族の席の後方に座っていた。表情は穏やかで、「神聖な儀式」に対する完璧な敬意さえ感じさせた。しかし、彼は視線の端で、そこにいる重要人物たちの動きを注意深く観察していた。彼は秀忠の緊張した横顔、茶奈の不自然な沈黙、そして祭壇上の二人の「王子」の、どこか子供じみた無関心さを目にした。袖には、前夜伊達軍の腹心から受け取った秘密の報告書が挟まれており、その内容は彼の心に深い影を落としていた。彼は決断を下さなければならなかった。おそらく、すぐに。


寧寧(北のまんどろ)は観衆の中にはいなかった。彼女は今、比叡山の奥深く、木々に隠れた場所に立っていた。ここは数年前、秀吉に同行して山に登った際に偶然見つけた場所だった。眺めは素晴らしく、眼下の広場の輪郭と人々の姿をぼんやりと見ることができた。静香は高台寺に無理やり置き去りにされた。一人、濃い灰色の外套をまとい、簡素な竹杖に寄りかかる彼女は、まるで普通の老巡礼者のようだった。彼女の胸には、前夜に書き終えた「魂の憑依」に関する禁忌と対策についての要約と、茶話や古代の医学書を参考に自作した薬草の小袋が挟まれていた。薬草は「心と魂を鎮める」効果があるとされていた。彼女はここで何ができるのか分からなかったが、自分の目で確かめなければならなかった。もっと近づかなければ。そうすれば……必要と判断した時に、何かできるだろう。


V. 嵐の目――儀式の核心 長々とした弔辞がようやく終わった。老王子の声が、わざとらしく震えながら高まった。「……心からの誠意をもって、この供物を天に捧げます!神仏の慈悲を賜り、清らかな意識の光がこの世を清め、真の姿を照らし出してくださいますように!どうか――殿下――清らかな意識の座へと昇天してください!」


「清浄なる意識の座」とは、陰陽のシンボルのやや手前に置かれた、紫黒色の翡翠で彫られた蓮の形をした二つの座布団のことである。それぞれの座布団の前には、同じく黒色の翡翠でできた小さな鉢が置かれている。


秀吉(秀頼)と家康(武千代)は、無表情で一歩ずつ前に進み、紫黒色の蓮の座布団の上に胡坐をかいた。二人の動きはほとんどシンクロしており、不穏なほど親密な様子だった。


「近親者の血は導火線となり得る。穢れを清めるには、同じ源から始めなければならない。」老皇子は、静まり返った広場に響き渡る、残酷な詩情を帯びた声で、そう唱え続けた。


二人の老婆が、それぞれ無表情で、純白の衣をまとい、刃が冷たい青い光を放つ古びた翡翠の剣を手に、秀吉と家康に近づいてきた。彼らの動きは、まるで神聖な儀式を執り行うかのように、ゆっくりと厳粛だった。


観衆からは、抑えきれない驚きの声が漏れた。「近親者の血」という噂は流れていたものの、生贄を思わせるこの光景を目の当たりにし、多くの人が身体的な不快感と恐怖を感じた。


「近親者の血」という言葉を聞いた途端、チャナの体は激しく震え、慌ててそれを抑え込んだ。袖に隠した指先についた血は、すでに熱く、自ら唱えた逆転の呪文が頭の中で激しく反響していた。「今だ!血が滴る前に!この汚れた血で『浄化』の触媒を汚染するのだ!」


ヒデタダの瞳孔は針の先ほどに縮こまった。「今だ!儀式の核心、精神の集中、血の引力……まさにこの時、『鬼切』が最も強く感知する時だ。そして、介入、あるいは……攻撃する絶好の機会だ!」左手は刀の柄をしっかりと握りしめ、親指は鍔に押し当てられていた。


木造小屋の陰で、志摩左近は背後の刺客たちに準備の合図を送った。血の生贄が始まれば、必ず一瞬の騒ぎが起こる。それが彼らが柵を突破し、茶奈様を捕らえる好機となるのだ!


本田忠信は無意識のうちに袖の中の数珠を指でくるくると回していた。祭壇の上では、二人の「王子」が静かに手を伸ばし、翡翠の鉢に手を置いていた。老婆は翡翠の剣を掲げていた。忠信の視線は思わず西側の高台へと向けられた。そこには秀忠の背が槍のようにまっすぐに伸び、破壊的な力を秘めているように見えた。


背後の山の上で、ねねはかすんだ老眼を細め、祭壇の細部をじっと見つめていた。山風が強く、彼女はよろめきそうになったが、竹杖に寄りかかり、微動だにしなかった。


祭壇の上。


老婆が翡翠の剣を手に、秀吉(秀頼)の伸ばした指先にゆっくりと刃を近づけた。秀吉(秀頼)の顔は無表情だったが、その目は熱意と期待に満ちていた。秀頼の近親者の血の一滴が落ち、それに続く秘術と相まって、彼は…


翡翠の剣が彼の肌に触れようとしたまさにその時――突然、変化が起こった!


ドーン!!!!


祭壇からでも、見物人からでもなかった。


巨大な獣の咆哮のような、それでいて鋭く耳をつんざくような轟音が、比叡山の東麓、延暦寺の塔林付近から突如響き渡った!大地は激しく揺れ動いた!直後に、さらに激しい爆発音と木々が砕ける轟音が響き渡る!炎と混じり合った濃い黒煙が空高く立ち昇った!


「敵の攻撃か!?」


「砲撃か!?」


「タリン方面から!」広場はたちまち混乱に陥った!訓練された侍たちは本能的に刀を抜き、隊列を組み、爆発の方向を向いたが、その陣形はたちまち崩れ去った。傍観していた貴族や大名たちはさらにパニックに陥り、立ち上がって周囲を見回す者、身を寄せ合う者、護衛の後ろに隠れようとする者など、様々な反応を示した。叫び声、悲鳴、そして足音が混じり合い、混沌とした騒音となった。


祭壇の上で、刀を握る老婆は震え、玉の刀身は秀吉(秀頼)の指先から浅い血の筋を刻んだ。数滴の血が玉の鉢に染み込んだが、「導火線」に火をつけるには程遠かった。儀式は中断された!


秀吉(秀頼)は突然爆発の方向を振り向き、初めて見る激しい怒りで顔を歪めた。「何が起きたんだ!? どこから爆発したんだ!?」家康(武千代)はさらに素早く、そして冷徹に反応した。爆発と同時に手を引っ込め、稲妻のように視線を伊達軍が待ち伏せしているはずの方向へと走らせ、それから秀忠がいる西側の高台へと素早く視線を向けた。その目には冷たい光が宿っていた。これは計画外だった!事故なのか?それとも…誰かが先に攻撃したのか?


しかし、本当の嵐はあの爆発から始まったわけではなかった。


爆発音が響き渡り、皆の視線が一斉に注がれたのとほぼ同時に――


西側の高台!


「今だ!」徳川秀忠は心の中でそう思った。

咆哮とともに、抑え込んでいた怨恨、苦痛、そして決意が、ダムを決壊させた激流のように噴出した!チーターのように飛び出し、左手で「鬼切り」の柄を握りしめ、親指を凄まじい力で引き抜いた!


「ガチャン!」布が裂けた!夜のように暗い刀身が鞘から抜き出された。眩い光は微塵も宿さず、冷酷で魂を蝕むような軌跡を残した!刀身に刻まれた自然で複雑な模様は、抜刀された瞬間にまるで生きているかのように、かすかな暗赤色の光を放ち始めた!


秀忠は祭壇へと急がなかった。数百人の精鋭戦士と複雑な儀式の守備隊が彼らを隔てている以上、一撃で成功できるはずがないと分かっていたからだ。彼の目的は混乱、さらなる大混乱、魂の奥底にまで及ぶ破壊だった!


彼は両手で刀を握りしめ、持てる力、意志、そして魂の奥底にある衝動――父への疑問、息子への罪悪感、この歪んだ世界への憎しみ――すべてをこの一撃に注ぎ込んだ。祭壇に向かって、数十フィート先に立つ小さな黒い人影を見つめ、空中で斬りつけた!


「斬っ祭壇の上で、家康(竹千代)の体は、まるで強烈な一撃を受けたかのように、突然硬直した! 底知れぬ怨念と断固たる決意に満ちた、骨まで凍りつくような力が体中に襲いかかった。それは肉体に作用するのではなく、この肉体との繋がり、竹千代の残魂、そして「徳川家康」という概念の根幹にまで直接的に作用したのだ! まるで、真っ赤に熱せられた鈍いナイフで、魂の最も歪んだ、最も脆弱な部分を容赦なく切り裂かれたかのようだった!


耐え難い激痛! 肉体的な痛みだけではなく、魂の源泉から湧き上がる、存在そのものが攻撃され、否定される、身もだえするような激痛! 長らく抑圧されてきた竹千代の残魂は、この強烈な外的衝撃と内なる苦悶に刺激され、かつてないほど鋭い叫び声を上げ、もがき苦しんだ!そして、「若き家康」の意識の断片もまた、この激しい動揺の中で、一瞬の混乱と揺らぎを経験した!


家康(竹千代)の体は揺れ、顔はたちまち死人のように青ざめ、喉に血が込み上げてくるのを無理やり飲み込んだ。彼は突然、西の高台を見上げた。両手に刀を握りしめた息子秀忠。その目は古代の氷のように冷たく、まるで他人のようだった。


混沌とした広場を挟んで、二人の視線が激しくぶつかり合った!


一方には、信じがたいほどの怒り、冷徹な視線、そしてかすかで、ほとんど感じ取れないほどの苦痛が…?


他方には、抑えきれない、断固たる憎悪、絶望的な狂気、そして瞳の奥底には、逃れようのない悲しみ、息子への復讐への燃えるような渇望が宿っていた。父と息子はここで引き裂かれた。いや、既に崩壊していた倫理観が、この瞬間、最も残酷で直接的な形で武器と対峙したのだ。


「秀忠――!」家康(竹千代)の声は、初めていつもの絶対的な平静さを失い、抑えきれない嗄れ声と怒り、そしてより複雑な感情を帯びていた。「お前――!」


彼は言葉を最後まで言い切らなかった。


なぜなら、まさにその瞬間、東の高台で、さらに狂気じみた、予測不能な犠牲が勃発したからだ!

それは勇気だ。

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