表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第七章 揺れる感情

「暖房の件は一旦置いておく」

田所はそう言った。

山岸が眉を上げる。

「置く?」

「急に出てきた数字に飛びつくと、足を滑らせる」

田所は資料の別のページを開いた。

「相沢真理の再聴取は?」

「やった。口論は認めた」

「内容は」

「関係を終わらせると言われたらしい。さらに、次の大型案件から外すと」

夏野が小さく呟く。

「八年仕えて、切られる」

山岸が続ける。

「相沢は否定しているが、社内では二人の関係は公然の秘密だったらしい」

「当日は」

「隆之の自宅で打ち合わせ。だが実際は、話し合いというより最後通告に近い」

「感情は」

「抑えていた、と本人は言う」

田所は顔を上げる。

「抑えられていた人間は、三回も事情聴取を受けてから“言い合いになった”とは言わない」

山岸は腕を組む。

「つまり嘘をついていると?」

「少なくとも、全部は言っていない」

静かな空気。

「死亡推定は十九時十五分以降だ」

山岸が言う。

「秘書は十八時五十七分に退室している」

「退室が本当に十八時五十七分ならな」

山岸の目が細くなる。

「ログは残っている」

「ログは残る。だが、感情は残らない」

夏野が視線を上げる。

「先生は、秘書が犯人の可能性を高く見ているのですか」

田所は即答しない。

代わりに、資料の隅を指でなぞる。

「十八時四十五分から十八時五十七分」

「秘書が室内にいた時間だ」

「この十二分で、人は死ぬ」

山岸が低く言う。

「物音証言は十九時台だ」

「人が倒れる音と、何かが倒れる音は違う」

「何が言いたい」

田所は淡々と続ける。

「感情的犯行なら、整える余裕はない。

衝動的に突き飛ばし、そのまま逃げる」

夏野が静かに言う。

「密室も、時間操作も考えない」

「そうだ」

田所は頷く。

「だからこそ、秘書が犯人なら話は簡単だ」

山岸が机に指を置く。

「簡単?」

「十八時台に殺害。

その後誰も入室せず。

だが十九時に物音があった」

「隣人の勘違いか」

「あるいは、別の音」

山岸は息を吐く。

「暖房の件と秘書はどう繋がる」

「まだ繋がらない」

田所は即答する。

「だが、秘書の感情は繋がる」

静寂。

「十八時五十七分に退室。

十九時二十七分に暖房操作」

夏野が言う。

「もし秘書が戻ったとしたら?」

山岸が首を振る。

「階段カメラに映っていない」

「死角は?」

「あるが、出入りは確認できていない」

田所はゆっくりと目を閉じた。

「感情は、予定を守らない」

山岸が苛立つ。

「結局どっちだ」

田所は目を開ける。

「秘書が殺した可能性は高い」

空気が張る。

「だが」

「だが?」

「十九時二十七分の暖房は、感情ではない」

沈黙。

「衝動で人は殺せる。

だが衝動で温度は計算しない」

夏野が小さく息を呑む。

「つまり」

「殺した人間と、整えた人間が違う可能性がある」

山岸はゆっくりと腕を解いた。

「共犯か」

「まだそこまで言っていない」

田所はカップを傾ける。

甘い匂いが漂う。

「だが、秘書だけでは十九時は作れない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ