第四章 崩すための並べ替え
「山岸さん」
田所は資料を机に戻した。
「五人の供述を、時系列で並べ替えてほしい」
「もう並べてある」
「君の並べ方ではない」
山岸の眉がわずかに動く。
「どういう並べ方だ」
「本人の言葉の順番だ」
静かな声だった。
「供述の中で、最初に話したこと、後から付け足したこと、質問して初めて出てきたこと。その順番を整理してくれ」
山岸は黙る。
「記憶は都合よく整う。だが整う前の歪みは残る」
夏野がメモを取る。
「他には」
「秘書と息子の携帯履歴」
「通話か」
「発着信と、未読通知の時刻。内容は後でいい」
山岸は頷く。
「管理会社は」
「島田の点検ルート。十八階を通過した正確な時刻と滞在時間」
「カメラはある」
「角度も確認してくれ。死角がどこにあるか」
「隣人は」
「テレビの番組表」
山岸が顔をしかめる。
「番組表?」
「何を見ていたか。放送時間と照合する」
「物音の裏取りか」
「“頃”という言葉は便利すぎる」
夏野が視線を上げる。
「弁護士は」
「面談資料の準備状況。契約がどこまで進んでいたか」
山岸は小さく息を吐いた。
「随分と細かいな」
「細かくない」
田所は淡々と言う。
「まだ粗い」
山岸は腕を組み、田所を見下ろす。
「お前は誰を疑っている」
「誰も」
即答だった。
「だが、誰かが“少しだけ早い”」
「早い?」
「話がだ」
田所は机に指を置いたまま続ける。
「死亡推定は十九時台。
物音も十九時台。
エレベーター停止も十九時台」
山岸が言う。
「だから十九時台の犯行だろう」
「そう決めるには、材料が揃いすぎている」
夏野が静かに口を開く。
「先生は、順番に違和感を持っているのですね」
「そうだ」
田所は視線を落とした。
「順番は嘘をつかない。
だが人間は、順番を作り替える」
山岸は資料を抱え直す。
「つまり、全員をもう一度洗い直せと」
「“十九時台に合わせるな”」
山岸は一瞬だけ黙り、やがて踵を返した。
「分かった。揃えてやる」
ドアが閉まる。
静かな事務所に戻る。
夏野が田所を見る。
「先生、本当に誰も疑っていないのですか」
田所はカップを傾ける。
「疑っている」
「誰を」
「順番だ」
甘い香りがわずかに漂う。
五人の顔は、まだ崩れていない。
だが、並べ替えれば
必ずどこかが歪む。




