恩人聖女のクビ宣言。治癒のヒールがずっと使えるなんて誰も一言も言ってないのに永続的に使い続けることができるとどうして思えたのだろう。飴なんだから消耗品に決まってるでしょ?
すごく画期的な飴を作ったので配り歩いて、皆がヒールを使えるようになった。なったら……聖女をクビになった。
これを聴いたらハァ?ってなるよね?でも、関係性が強いからこうなったのだろう。そりゃそうだ。
治癒が珍しいから聖女を欲しがってチヤホヤするわけで、皆が使えるようになったらチヤホヤしなくてもいいんだってなる。うんうんわかるわかる。でもなぁ。
クビにするのはいいけど、扱いが悪くなるのってどうなの?
飴を作った己を担ぐことこそやるべきことでしょ?
病気の薬を作った人が表彰されるのに、なぜ作ったタニサが蹴り出されるように追い立てられねばならないのか。家はくれたけど端金でしょうに。
百八十度の手のひら返しに気持ちが黒くなったので、隣国を渡りさらに遠くの国へ行く。飴は作らなくなり治癒を売りに稼いでいく。野良の聖女もさらに珍しく、守りの魔法も持つので捕まることも誘拐されることもないから。
どこへでも行く。行き着くところまで行き、今は魔国でのんびり治癒を使いつつ飯テロを被弾させている。異世界転生者だから朝飯前。
ジュワアアアアア!
唐揚げの揚がる音、焼きそばのソースが焼ける香りが広場に広がる。
「聖女唐揚げ、聖女焼きそばお待ちどう様〜」
ちっちゃい子供が手を伸ばして注文品を取ろうとするので緑色の光を纏って手に触れる。
「あ!聖女様、ありがとう!」
「いいよ〜、これからもたくさん遊んでたくさん傷を作ってね。いつでも治すから」
「うん!でも二時間後には完治してるから気にしなくていいよっ」
魔族の子供が元気よく唐揚げをパクっとして去る。周りの大人は楽しげに見送った。魔国に住む魔族の治癒力は人間なんて目ではない回復力を持つ。
人間が治癒をしてほしいと運び込まれるまでの時間に、血が止まり動けるくらいには違う。それゆえに聖女の治癒も飴も必要としてない。精々絆創膏代わり。
聖女なんてそれくらいの役割が丁度いいんだ。この国に来て好きなことができるようになってからは自由になれた。今までは治癒で忙しくて本当にやりたいことができなかったから。
皿に盛られるのは揚がる直前までパチパチと音を立てていた黄金色の唐揚げ。箸で持ち上げると、指先に伝わるのは重量感とカリッとした衣の確かな手応え。何もつけずに一口。
「ザクッ……!」
小気味よい音とともに衣が弾け、中から閉じ込められていた熱々の肉汁が溢れ出します。
醤油とニンニク、隠し味の生姜が効いた香ばしい香りが鼻を抜け、鶏もも肉のプリッとした弾力が歯を押し返してくる。
溢れた脂をレモンで軽く引き締めれば、もう一個、あと一個と白いご飯が止まらなくなる禁断の味。お酒は夜の時間帯オンリーなので今の時間はダメなのが悔やまれる。
焼きそばも忘れずに作る。鉄板の上で踊る、ツヤツヤと輝くソース焼きそば。湯気とともに立ち上がるのは焦げたソースの甘酸っぱくも刺激的な暴力的なまでの香り。
麺はあえて少し焦げ目をつけたカリカリの部分と、水分を吸ってもちもちになった部分が混ざり合い、複雑な食感を生み出しています。
たっぷりのバラ肉から溶け出した脂が麺一本一本をコーティングし、キャベツのシャキシャキとした甘みがアクセント。仕上げに振りかけられた青のりと紅生姜の香りが、さらに食欲のブーストをかける。
マヨネーズを細くかければコクが加わり、抗う術はない。転生者だからこそ作れる味。
この二つをもってして聖女のグルメをやっている。祭りではないが、焼きそばと唐揚げをメインにお店をしていた。今は生き生きとしていると自信を持って言える。
「タニサ、やってるな」
「あ、魔王さん。こんにちは」
この国に住まわせてくれている漆黒の髪色と漆黒ツノを持つ男が護衛を伴って現れる。聖女としてきた時は怪訝に思われたが、別に対峙しただとかいうこともなく普通に住んでいいか?と聞いたら、謎に気に入られた。
「ああ、今日は知っておいた方がいい情報をもってきた」
休憩にしてくれと言われて、途中で止められることなんてないから真剣な話しだとピンときたから休業にした。エプロンを外して裏手に回る。そこはこっそり話せる密室風の場所。広いからね。
「どうしたのですか?」
「ああ、お前の祖国の名前は確か」
と、確認されて間違ってないことを返す。すると、彼はこちらを改めて向いてその祖国について語る。どうしたのだろうと首を傾げてから耳を傾けた。
「壊滅状態ですか?ああ、ヒール飴の効果が切れたってことだと思います」
「ああ、あの飴か」
「最初に配る前に説明してから配ったはずなんですけど、期間が長いから皆頭から説明したことが抜けてしまったんでしょうね。数年間は持続的に食べないとチカラは弱まるってちゃんと言ったんですけどね?多分眉唾すぎてまともに誰も覚えてなかったんだと思いますよ。一応、説明書の紙も書いておいたんですけど、捨てられたかと」
タニサはやれることは全てやったのだ。どっちみち自分がいないから使えなくなるし。それなのに誰かが部屋を片付ける時に捨てたんだなぁって簡単に想像できた。
説明した紙を書いた時にはすでに軽んじられてたから。掃除する使用人もタニサをバカにしたり下にみたりして、紙なんて読まずにもうここに住んでないからと簡単に捨てたに違いない。
首をすくめさせて、やれやれとやる。
「わたしはしっかり使えなくなると何度か言ったんですけど。なぜかクビにされかけているからされたくないゆえのコケ脅しと取られたので、これはもうなにを言ってもダメかもしれないと薄々予測はしてましたけどね」
それに、バカにしてクビにした国に長居するわけがない。効果が消えたとして腰を低く頼むかどうか、そんな賭けはしない。
下手をしたらムチを打たれながら作れ、やれ、早くしろと監禁される可能性もある。その後も自由にしてくれるかも謎。冷遇した国が頭を低くして頼んでくるのを期待するのは間違ってるし。
魔王の男もうんうんと頷くので、聞いている内容だけを取ったとしてあり得る未来だなと予想してしまう。
「魔王さんのところで暮らすのが大正解ってことですよ」
「聖女のお前を探してる」
「聖女というか、飴がほしいので飴を探してるの間違いでしょうね」
ため息を吐きながら鼻で笑う。
「わたしは飴より唐揚げと焼きそばを作りたいのでお断りしますけども」
ふふ、と笑うと魔王も笑う。
「飴よりこっちの方が美味い」
魔王の手にも品がある。
「こちらの方が余程生きる力が湧いてくる」
「わたしも、こっちの国でやっと生きてると実感できてます」
「そうか……よし、今からデートに行くぞ」
「え、え、は、はい?」
うろうろと目を動かしていると豪快に肩を組まれた。外に出た時に随分とズタボロな集団がいたが、声をかけられる前にぐいぐいと引っ張られてすっかり頭の片隅からも消えた。
「聖女ぉおお」
呼ばれた気がするが、魔国で呼ばれているニュアンスとあまりに違いすぎて別の音として脳が処理。その後、同じニュアンスを聞くことはなかった。
魔王はニコニコしながら民衆に笑顔で見送られてタニサをデートへと連れ出した。
「ちょ、早いです!」
「わっはっはっは〜」
笑う魔王と笑う聖女。
「タニサ、今日は裏通りに新しい鉄板を用意させた。お前が言っていたお好み焼きという料理の試作ができたらしいぞ」
魔王シュセンダに誘われて城下町の隅にある、隠れ家のような店へ向かった。魔国でもタニサの影響で鉄板料理が静かなブームになりつつある。
「いい匂い。シュセンダ様、お好み焼きはとろり加減が命なんですよ」
二人が並んで座ると目の前の鉄板から熱気が立ち昇る。運ばれてきたのは山芋をたっぷりと練り込んだ特製の生地。
熱を帯びた鉄板に生地が落とされると「ジュワァッ!」という小気味よい音が店内に響き渡る。
表面がこんがりとキツネ色に焼き上がったところで、特製の甘辛ソースをハケでたっぷりと。ソースが熱い鉄板に触れた瞬間、醤油と果実が焦げたような、抗いようのない香ばしい匂いが爆発する。
仕上げに自家製マヨネーズを細く格子状にかけ、青のりと踊るような鰹節を。コテで切り分けると外側はカリッとしているのに、中からはとろりとした半熟状態の生地が溢れ出す。
口に運べば出汁の旨みが効いた生地が舌の上で溶け、キャベツの甘みと豚肉の脂が渾然一体となって押し寄せる。
「熱っ……! とろけるような食感がたまらない……」
「咀嚼するのを忘れるほどの一体感だな」
シュセンダも熱さに目を細めながら、ハフハフと器用にコテを使いこなしている。横を見ると自分の皿にある、一番とろりとした中心部分を皿に無造作に分けてくれた。優しさにドキッとする。
「好きな部分だろう?……今日はもう店は休みなのだからゆっくり食べるといい」
魔王の指先が頬についたソースを拭う。仕草があまりに自然で鉄板の上に流れた空気感。
その時、店の外を「聖女様ぁ……助けてぇ……」と、ゾンビのように虚ろな目をした元祖国の役人が通り過ぎていった気がしたが。
「ふふ!……シュセンダ様、追い鰹しましょうか?」
「最高だ。酒も合いそうだな」
振り返ることなく二人で鉄板の熱を分け合った。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。使用期限は大体なんでもありますよね




