12 光の行方
初夏の明るい陽光が窓から室内を照らしていた。
あれから半年が経った。
大きくなったお腹をさすりながらリューシャは思う。
あの大冒険は夢でも幻でもない。
しっかりとタサキの子を宿している。
小人の里のタサキの父の小屋。
そこがリューシャの住まいだった。
小人たちは本当に良くしてくれる。
身重の体を慮ってかいがいしく、食事の世話から出産の心がけまで、かわるがわる来る小人の女たちに、リューシャはすっかり参ってしまっていた。
「剣を振るう方がよっぽど楽」
と言いつつ、その表現は柔らかく、母親の顔になりつつあった。
「リューシャ!」
イリナが笑顔で駆け寄ってくる。
毎日、イリナは小屋に来ていた。
お腹の音を聞いては、連日聖戒の言葉を唱えてくれる。
なんでも光の加護が強いとかで、連日、チョーローに光の術の手解きを受けているらしい。
「影を祓う術は、早くから知っておいたほうがいいでな」
チョーローは新しい弟子を見つけ、嬉しそうだった。
しかし、その顔は時々暗い影を落とすことがある。
闇の管理があまり、うまく行っていないようなのだ。
ホーガイもなんだか、忙しそうだった。
食事の席で、チョーローと深刻な顔で何事か相談しているのを見かけた。
時折、外に出て、何日も帰ってこないことがあった。
帰ってくると、イリナが喜びそうなものを仕入れてきていた。
グランは一旦は小人の里に戻ったものの、すぐに外に出た。
グリファス様に直々に請われて、騎士団に正式に入団することを決意したのだ。
かつての仲間は、騎士様になった。
「あのクソ傭兵団長の元に戻るいわれは、ねえやな」
グランも、あの闇の囁きを聴き、闇を覗いたはずだった。
それを乗り越えようとしている。
「あの猿どもとの戦いで騎士団は大きな被害が出た」
四分の一が戦死し、四分の一が重傷を負ったという話は聞いていた。
「こんな俺でも、何かの役に立てるかと思ってな」
出立の日、グランは言った。
「騎士様になるんだったら、その話し方はやめるべきだ」
ついリューシャは、口出しをしてしまう。
「お前も変わんねえな」
グランは笑って結界から出ていった。
「もう無理すんなよ。お前一人の体じゃねえんだからな」
オムカは、チョーローの代わりに頻繁に法王と会っているようだった。
「法王なんていっても、そのへんのおじいちゃんと変わらないよ」
にやりと笑うオムカについ心配になってしまう。
「力のある僧侶たちが、多勢、光に召されたからね、法王ちゃんも困ってるよ」
能天気に口笛を吹くオムカを見て、このくらい楽天的でいた方が良いのかも、という気がしてくる。
リューシャは、タサキの手帳を手に取る。
後ろに記された文字、異世界の言葉は読めないが、その最初のページに書かれている言葉はわかる。
手帳を胸に抱える。
「タサキ、愛してる……」
リューシャは田崎の父の墓のある丘から里を見おろす。
この場で誤解とは言え、田崎からの愛の告白を受けたのだ。
イリナの笑顔、ホーガイの頑張り、グランの旅立ち……
タサキが繋いだ絆が、ここにはある。




