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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第5章 闇の森へ

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3 聖戒の陣

 冷え込む朝の空気の中、出発の準備を整えた。


 小人が洗い、繕ってくれた黒のダウンジャケットの袖を通すと、心が落ち着いてくるのを感じた。


 田崎の愛車、相棒ジムニーはもはや満身創痍だった。

 へこんだルーフ、ドアのない運転席、風の吹き込む車内。

 それでもエンジンは、かすかな鼓動を残している。


 リューシャとグランも革鎧を着込み、武器を胸に抱えている。

 グランは火炎瓶を詰め込んだクーラーボックスを首から下げ、リアシートに乗り込んだ。

 

 助手席にはリューシャ。彼女は慣れた手つきでシートベルトを締める。

 ルーが軽やかに飛び乗り、チョーローとオムカはダッシュボードの上に腰を下ろした。


 結界を抜けた先に広がっていたのは、法王軍の陣営だった。


 聖戒の旗と軍旗が無数に立ち並び、風になびいている。

 田崎はその光景に現実感が薄れ、さながら映画を見ているような感覚に襲われた。


 だが、胸を打つ心臓の音は、嘘をつかない。


 もう、引き返せない。


……やるしかない。


 陣の最奥、ひときわ大きな天幕へと案内される。


 車を降り、天幕の前で一行は整列した。

 

 チョーローとオムカが先導し、幕内へ入っていく。

 続いてグラン、リューシャ。


 そして田崎。


 幕を潜った瞬間、空気が変わった。


 天幕は広い。

 それでも、田崎の頭は天井に届きそうだった。

 身をかがめ、頭を下げる。


 視線が、痛い。


 法王、高僧、騎士団幹部。

 その誰もが、田崎を見上げている。

 

 驚愕、警戒、そして……期待。


 グリファスやグランはこの世界では長身だが、田崎との体格差は大人と子どもほどあった。


 黄金色の知的な顔立ちをした獣を従えている様は、一枚の絵画のようであったと後に書記官は語った。


 天幕の奥、黄金の光をまとった影が立ち上がった。

 その一歩ごとに空気が静まり返る。

 法王が、田崎に向かって頭を垂れた。


「異界のものよ、巻き込んでしまって済まぬ。……これは我らの世界の問題であると同時に、霧を通じてそちらの世界に通じる唯一の帰還の道ともなる。異界のものよ、力を、助力を…頼む。」

 チョーローが翻訳するまでもなく、心はすでに定まっていた。

 父さんも人助けをする時は、こんな思いだったのかなとふと思う。

 その人の背中を、ようやく追える気がした。


 もとより危険な道だ。

 人助けもそうだが何より帰還のために、行かなければならない道だった。


「もちろん、行くしかない」

 チョーローがすかさず翻訳する。


 その言葉を聞いた瞬間、天幕は歓声で揺れた。

 頼もしい味方が加わったことで、法王たちは胸をなで下ろす。


「そのためには闇の森の最奥、巌窟寺院まで行かねばならぬ」

 法王の声が、天幕を満たす。


「封印の影を完全に異界へと還す。皆のもの、助力を頼む。」



 間。



 そして、法王が杖を掲げる。


「聖戒にかけて!」

「聖戒にかけて!!」

 一同の声が、天幕を震わせた。


 田崎は、その声の渦の中で立ち尽くしていた。

 言葉の意味は分からない。

 だが、その熱が、確かに胸を打った。


 チョーローが、田崎を振り返る。

「さあ、これから作戦会議の時間じゃ」


 地図が卓上に広げられる。

 田崎の指が、森に引かれた一本の道を辿る。

 直線距離で、十五キロから二十キロといったところか。

 舗装路なら、数十分の距離。


 だが、未舗装の森の道。

 沢もあれば、岩場もあるだろう。

 そしてあの猿たち。


 ジムニーのガソリンはもつのか。

 バッテリーは、冷却水は?


 メーターに浮かぶ警告灯の赤が、脳裏に焼きついて離れない。


 田崎は、ふうっと息を吐いてオムカを見る。

 いつだってオムカが道を示してくれた。


 心配しても仕方がない。

 今度も大丈夫だ……多分……

 あくびをしているオムカを見て少し不安になる田崎だった。


 道が開き次第、ジムニーで森の最奥を目指す。


 任務は三つ。


 盲目の僧侶との合流、獣と闇の民の鎮圧、そして祭壇での封印再生。


 それが骨子だった。


 リューシャとグラン、親衛隊の騎士長二人が法王、盲目の僧侶、田崎の護衛にあたる。


 そして影が霧として形作られた時に、田崎はジムニーでこの世界を脱出する。


 それぞれ役割や不明点の確認が取られる。


 その間、次々と鳩猿が舞い込み、戦況が報告される。


 闇の森への進撃路は、まっすぐ巌窟へ向かう一本道。


 工兵たちが道を切り拓く前線では、激戦が続いていた。

 グリファスは直ちに精鋭部隊の半数を副団長に託し、前線へ急行させる。


 森の南端では、一度は押されたが踏みとどまった。

 僧侶班の砦には羽猿の群れが襲来したが、弓兵が撃退。


 田崎には、詳細は分からない。

 だが、戦況が悪化しているのは明らかだった。


 そして、決定的な報告。


「斥候が巌窟寺院を確認。獣が集結している模様」

「竜猿は?」グリファスが声を上げる。

 伝令が首を振る。

 まだ目撃情報はない。


 道は未完成のまま。


 法王は立ち上がり、低く鋭い声を発した。

「竜猿が目覚める日暮れまでに、祭壇へ至らねばならぬ。」

 グリファスが直立し、声を張る。

 

 陣営では、すでにラッパが鳴り響いていた。

 風が旗を裂き、空の色が鈍く変わり始める。


「いざ、出陣!」


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