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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第4章 再起  

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12 道はじきに

 エンジンが息を吹き返したその晩、篝火を焚いた石畳の広場では、湯気の立つスープ鍋と硬いパンが並んでいた。


「……やっと、動かせる」

 リューシャが現地語で口を開くと、空気が一瞬止まった。

 次の瞬間、グランが床から立ち上がる。


「うおおおぉ!」

 広場を震わせる雄叫びをあげ、田崎に拳を突き出す。

 田崎は一拍おいて、その拳を合わせた。

「……ああ」

 短い言葉の中に、互いの苦労と安堵が滲んでいた。

「ほほーい!」

 小人たちが、いっせいに踊り始めた。


 ホーガイは深くうなずき、静かにグラスを傾けた。

 その横では、イリナがすっかり元気を取り戻し、ルーの頭をこわごわと撫でている。

 ルーは尻尾を振り、得意げに鼻を鳴らした。


 その時だ。

 空間がぐにゃりと歪み、青白い光の裂け目から、小さな影が顔をのぞかせた。


「やれやれ、疲れた」

 肩を揉みながら、チョーローが石畳に降り立つ。


「法王に会ってきたんじゃが……」

 まるで近所の友達に会ってきたかのような口ぶりだった。

「まあ、相変わらず面倒なやつでの……」

 田崎の目の前にちょこんと座ると、片眉を上げて言った。


「ちょっと、あの鉄の車、出してくんない?」

 軽い口調の裏で、ほんの一瞬、老いた目に深い影がよぎった。

「……は?」

「法王ちゃんと、もう一人乗せてくんない?」

 飄々とした口ぶりだが、有無を言わせぬ響きがあった。


 田崎は奥歯を噛んだ。

 まだタイヤは付け替えていない。エンジンもかろうじて動く程度。

 バッテリーも冷却液も燃料も心許ない。

 次にいつ止まるか分からない代物だ。


 もう、ジムニーで派手に逃げ回るような真似はできない。


 そんな思考を見透かしたように、チョーローがウィンクした。


「心配いらない。道はじきに出来る」

 チョーローがそう告げると、広場のかがり火の灯りが、一瞬青白く揺らめいた。


「ちょっと森の奥まで……なんだっけな、ああそう、『ドライブ』するだけじゃ」

 唇の端が悪戯っぽく吊り上がる。現地語でも会話の内容を伝えるチョーロー。


 信用できない。

 田崎の直感が警鐘を鳴らした。

 だが同時に、元の世界へ帰るためには、行かなければならないという確信もあった。


「私も行く」

 リューシャが田崎を真っすぐに見つめる。

 その瞳は、昼間と同じ不安を湛えていた。

 しかし、その口調は迷いを振り切るようだった。


「俺も行くぞ!」

 グランが力強く立ち上がる。


「忘れないで」

 オムカが小さく笑う。


「ほれ、みんなも行くといってるでな」

 チョーローが微笑をたたえる。


 頼もしい仲間たちだ。出会ってまだ一週間少し。

 それでも、死線をくぐり抜けた絆は、長年の友より濃い。

 田崎の視界が、ふいに滲んだ。


『……ありがとう』 

 かろうじて、現地語で伝えた。


 翌朝。


 スペアタイヤ交換のため、仲間全員がジムニーの周りに集まった。

 冷たい金属音と共にボルトが外れ、新しいタイヤが取り付けられる。


 田崎はキーをひねった。


 エンジンが低く唸り、やがて安定した音に変わる。


 ダッシュボードに飛び乗ったオムカとチョーローが、杖で同じ方角を指し示した。


「そっちか!了解!」

 田崎は深く息を吸い、ゆっくりとアクセルを踏み込む。

 霧を割って差し込む光が、仲間たちの顔を白く照らした。


 ジムニーは、小さな唸り声を上げながら、森へ向かって動き出した。


「道はじきに出来る……ほんの、ひとときの間じゃがな」 

 そのチョーローの異国の言葉は、田崎の耳には届かなかった。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

長かった第四章もようやく一区切りです。

チョーローが示した「道」は、果たして希望への道なのか、それとも……。

次章では、ついに「巌窟」への旅が始まります。


感想・評価・ブックマークなどいただけると、とても励みになります。

それでは、次の章でお会いしましょう。

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