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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第4章 再起  

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11 再起

 朝霧が里の木々を白く染めていた。鳥のさえずりがどこか遠くで響く。

 田崎は藁の寝床から身を起こし、窓から差し込む淡い光に目を細めた。


 昨夜の夢は、ぼんやりとした父の笑顔と、懐かしいジムニーのエンジン音だった。

 夢の中で、父はただ「やってみろ」と笑っていた。


 ルーが尻尾を振り、田崎の足元にすり寄る。「おはよう」と言い、ドッグフードを木皿に盛ってやる。井戸水で顔を洗い表情を引き締める。


 リューシャは、すでにジムニーの傍で矢を削っていた。

 田崎の姿をみると、微笑んで朝の挨拶を交わす。ルーが走り寄りリューシャの匂いを嗅ぎはじめる。


 ボンネットを開けると、昨日と同じ鉄と油の混じった匂いが鼻をついた。

 ライトで照らすと、メインアースケーブルが接続部の下で皮膜がわずかに裂けていた。

 その下で断線しかけていたため、接触不良を起こしているようだった。


「やっぱりこれか……」

 田崎は、工具箱からワイヤーブラシとスパナを取り出すと「これなら治せる」と確信し、すぐに作業に取り掛かった。昨日磨いたプラス端子の比ではない慎重な作業だった。


 工具を握る手に汗がにじんだ。

 少しでも締めすぎれば、ネジ山が潰れる。

 その一手で、帰る道が閉ざされる気がした。


 黙々と作業をしている田崎を見るリューシャの胸に一抹の不安が沸き起こる。

……もし、治ったら、自分を置いてどこかに走り去っていってしまう

 動いて欲しい、でも、動いてしまえば、もう彼はここにはいない。


「充電しておくか」

 発電機を回すと、重低音と黒い排気ガスが朝の空気をかき乱した。

 赤いケーブルと黒のケーブルを間違わないように繋げる。順番を間違えたら終わりだ。

 ジャンピングスターターをバッテリー充電器につなぎ、発電機のスイッチを入れると短い電子音が鳴った。

 発電機の音と混じる聞き慣れないその音に、リューシャの顔が曇った。


 小人が呼びにきて、昼食の時間を告げた。

 田崎は伸びをすると、浮かない表情をしているリューシャと目が合った。


『お腹すいた』と現地語で口にして、手でお腹をさすり笑顔を浮かべる。

 リューシャは軽く頭を振ると笑みを浮かべ、田崎の腕をとって広場に向かっていった。


 食後はすぐにジムニーのもとに戻った。

 充電も出来た。バッテリーは生きていた。


 あとは、エンジンがかかることを祈るだけだ。


 キーを回す。

 キュルッ……キュルル…

 かすかに音がしたが、すぐに途切れた。

 どこかで通電していない。


 田崎は額の汗を拭き、ボンネットを再び開ける。

 ヒューズボックスを覗くと、ケースの中で金属線が黒く焦げていた。


「やっぱりダメか」

 壊れたヒューズを指でつまみ上げる。

 これでは電気は流れない。スターターが生きていても、火花は飛ばない。


 軽トラのヒューズボックスを指でなぞっている時、小さな影が落ちた。


「んっふっふ」

 杖を振り回しながらオムカが立っていた。

 その杖が止まるとヒューズボックスの中の一つを指し示した。


「…ッ!マジか?」

 今まで、オムカの杖の指示で間違いがあったことは一度もない。

 だが、車だ。

 間違えたヒューズを差し込んだら、今までの苦労は水の泡だ。


 しかし、アンペア数は一致していた。

 一瞬、躊躇し、覚悟を決めジムニーのヒューズボックスに差し込んだ。


 田崎は運転席に戻ると、キーをつまむ。

 指先に油がこびりつき、冷たい金属が滑る。

 息を止めたまま、回した。


キュルルルッ……ブォォッ!

 次の瞬間、爆ぜるような音とともに、計器が一斉に光る。


 リューシャが顔を上げた。

 ルーが吠えた。


「いやっほう!」

 オムカが宙返りを決めた。


 田崎は震える手でハンドルを握りしめた。


「きた!」

 叫ぶと、エンジンが低く安定した音を立て始めた。

 油の焦げた匂いが漂う。

 確かに生きている。


 リューシャは、しばらくその光景を見つめていた。

 笑っているのに、泣きそうな顔だった。


 田崎はエンジンを切り、ボンネットを開いた。

 火花の跡を確認しながら、小さく息を吐く。


「……動いた」

 小さな呟きが漏れる。


 ふと視線を感じ顔を向けると、泣きそうな顔をしているリューシャと目が合った。


 車が動いたとしても家に帰れるかは分からない。

 だが、ここにずっといるわけにはいかない。

 帰還の道を探し続け、そして家に帰る。


 その時、リューシャとはどうなるのだろう。


 リューシャは黙ったまま、田崎の隣に立っていた。

 やがて彼女は、小さく息を吸い、囁くように言った。

「……行かないで」

 言葉ははっきりとは分からない。だがそれが何を意味するのか田崎は分かっていた。

 ただ、答えを持たなかった。


 田崎は、計器に映った警告灯を思い出していた。

 給油ランプ、バッテリー、真っ赤に点滅する各種ランプ。

 

 動くには動く。だがいつ止まるかわからない。


 ジムニーのランプが、帰るべき家と、ここにある温もりとの境を淡く照らしていた。



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