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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第4章 再起  

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9 発電機と、言葉のあいだに

 晩秋の柔らかな日差しが、こけむした小さな屋根や石垣を照らしていた。

 澄んだ空気の中に、煮炊きの煙が流れていく。

 田崎は、珍しげに小人の家を見ながら里の細い坂道を歩いていた。

 目当てはリューシャだ。

 行き交う小人たちに声をかけ、首をかしげられたり笑われたりしながら道を尋ねる。


 やがて、指さされた先に、この世界の人間用らしい小ぶりな木造の小屋が数棟見えてきた。

 その前には、小さな広場があり、そこでリューシャがしゃがみ込み小弓用の矢を一本ずつ作っていた。

 足元には鳥の羽と、節を削られた木の枝が小山のように積まれている。


「……リューシャ」 田崎が声をかけると、リューシャは顔を上げた。

 しかし視線はすぐに矢羽根の束へと戻る。

 指先で羽をいじりながら、小さくため息を吐き、枝を削る手がわずかに強く動く。


 昨日、丘の上で交わしたあの言葉。

 田崎の告白は、本心だったのか。それとも……

 そう自分に問いかけても、いや、そうじゃないと分かっている。

 それでも、言葉が通じないもどかしさが胸の奥で複雑に絡まり合っていた。


 やがて、リューシャは小刀を置き、ゆっくりと振り返る。

 田崎は、今朝グランに口走った言葉の意味を手帳を見せながらオムカに聞いて理解していた。

 ばつの悪さを隠せず、頭を掻く田崎。

 怪我をした左側頭部は、小人の塗り薬のおかげで痛みはもうほとんどない。


 田崎は、父の手帳をそっと開いた。

 紙の端は擦り切れて、黒く汚れている。

「ありがとう」と「好き」という現地語の文字を指さし、手振り身振りで「意味が逆だった」と伝える。

 リューシャは一瞬、驚いたようにまばたきをした。

 しかしすぐに、指先で矢羽を撫で、かすかに息を吐いた。

 その横顔に、ようやく柔らかな光が戻っていた。


 田崎は、深く息を吸い込み、現地語で改めて告げる。

「ありがとう。そして……リューシャ、愛してる」

 リューシャは小さく息を飲み、まっすぐに田崎の目を見つめ返す。

 昨日から胸の中で渦巻いていた戸惑いと羞恥、そして純粋な喜びが一瞬で融けあった。


 やがて、彼女はそっと田崎の顔に手を伸ばし、唇を軽く触れ合わせた。

 唇が離れたあと、二人は言葉もなく、ただ息を整えていた。

 小人の歌が風に乗って聞こえてくる。


 まだ終わっていない。

 田崎はそんな思いに背を押され、父の手帳を開いた。

 田崎は手帳を見せながら、小屋へ来て手伝ってほしいと頼んだ。

 リューシャは黙ってうなずく。


 二人で納屋に入ると、奥に重々しい発電機が鎮座していた。

 灯油込みで四十キロはありそうだった。

 田崎が片側を持ち上げようとするが、腰に鈍い痛みが走る。

 リューシャも反対側から力を込めるが、地面からわずかに浮いたかと思うと、どすんと落ちた。


 ルーが驚いて、「ワン!」と吠える。

 リューシャは一声かけて納屋から駆け出していく。

 やがて、グランを連れて戻ってきた。

 グランはやや上目使いで田崎を見る。

 朝の一件の誤解は解けているが、妙に意識しているのが伝わってくる。

 しかし、発電機を見ると表情を引き締め、太い腕を持ち手にかけた。

 三人で息を合わせる。


「ふんがっ……」

 低く唸るような声とともに、発電機が地面から離れる。

 その瞬間、田崎は腕に伝わる力の差をはっきりと感じた。

 リューシャも反対側をしっかりと支え、三人で慎重に歩き出す。


 細い小径を進むたび、木がきしむような音が耳に残る。

 ぬかるみでは足元が沈み、登り坂では腕が震える。

 息が白く揺れ、汗が首筋を伝う。

 何度も休みながら、ようやくジムニーのそばに辿り着いた。


 グランは膝に肘を置き、荒い息を吐きながら天を仰ぐ。

 リューシャは発電機にもたれ、目を閉じたまま肩を上下させている。

 田崎はしばらく呼吸を整え、次に工具の山へと視線を移した。

 唇を結び腕まくりをする。


 さあ、修理だ。


 この里のどこかで、父が見守ってくれている気がした。

 治せるかどうかではない。

 治すんだ……それだけだ。

 


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