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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第4章 再起  

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8 会談

 法王の私室。


 窓越しに差し込む光が白い机の上に柔らかく広がっていた。

 向かい合うのは法王と小人の王チョーロー、そして盲目の僧侶。

 三者の間に、張り詰めた沈黙が落ちていた。


 沈黙を破ったのは、椅子の背にもたれ、脚をぶらぶらさせていたチョーローだった。

「封印はね、いま小人の里にある。あそこなら、聖戒の結界で守られとるし、ちょっとやそっとじゃ誰も手は出せんよ」

 にやりと笑ってみせるが、その瞳は笑っていない。


「しかし、影はすでに深く、もはや場所を選びませぬ」

 盲目の僧侶が冷静に反論した。

「影使いはどこにでもその影を伸ばす。たとえ聖域の中であろうと、影さえあれば……少しずつ確実に」 

「封印は蝕まれた…重く、濃く……。この影を完全に異界へと還すには、巌窟に、最も力の強いあの祭壇でなければ」

 チョーローは肩をすくめて、手遊びをやめた。

「ふーん。やはり、あの里はただの隠れ里で、解決の場所にはならんか」

 今こそ、十二年前の借りを返す時だと覚悟を決める。


「機会は、次の新月」

 僧侶の声は、淡々としていながら、決定的な響きを持っていた。

 法王は眉をひそめ、視線を落とす。

「月の力が最も弱まるその時、祭壇まで辿り着き、聖戒の力で影を異界に返す。さもなくば、竜猿の封印が次々と解け、この世は地獄になる」

 


「地獄か……やだやだ」

 チョーローは口笛を吹き、法王を横目で見た。

「異界の、鉄の箱車の人間の力、役に立つかもしれないよ?」

 短い沈黙。

 三人の間に、余計な言葉はいらなかった。

 危機の本質と己がなすべきことは、すでに一致している。


 法王は一度、深く息を吐いた。

 そして低く、しかし確かに言った。

「行かねばなるまい」

……たとえこの身がどうなろうとも。



 その日の午後、聖宮の謁見の間。

 高僧、騎士団幹部、大臣たちが並び立つ中、法王の傍らには盲目の僧侶とチョーローの姿があった。

 高僧の列に、盲目の僧侶の姿を見てざわめきが走る。


「静まれ」

 法王の一声が広間を包む。

「封印は今、安全な地にある。しかし、聖戒の言霊は力を失いつつある。もはや一刻の猶予もない。我らは、異界の者の協力を得て影を祓い、封印を再び施す儀式を執り行う」

 広間の空気が、ぴんと張り詰めた。


 法王は立て続けに勅令を下す。

 高僧たちには、詠唱班を編成し砦の寺院で影の力を削ぐよう命じる。

 騎士団には、巌窟の祭壇までの道を切り開くこと、僧侶と民の安全を守ること。

 大臣には、物資の調達と運搬、兵站を万全に整えること。


 大臣たちは顔を見合わせ、騎士団幹部は唇を固く結んだ。

 誰もが、この異例の勅令が、国の存亡を賭けた戦い始まりを意味することを理解していた。


 そして法王は、チョーローと僧侶を見やり、声を高らかに宣言した。

「この儀式、我が身を持って執り行う。盲目の聖者、小人の王とともに、異界の鉄の車に乗りて、祭壇へと向かう」


「ま、悪くない作戦だね」

 チョーローは謁見の間を去り際に、ふと足を止めて振り返った。

「でもね、法王。この盤上で誰かが、余計な駒を動かせば、全部ひっくり帰るかもしれないよ」

 そう言って、いつもの飄々とした笑みを浮かべた。



 その夜、聖宮の回廊は沈黙に包まれていた。

 燭台の炎が、吹き抜ける風にゆらめく。

 その奥、人気のないテラスに一つの影が立っていた。


 盲目の僧侶である。

 白い法衣の懐から、禍々しい紋様の刻まれた鈴を取り出すと、微かに鳴らした。

 しばらくして、上空から重い羽ばたきが響いた。

 一匹の羽猿が夜を裂き、彼の背丈を超える影を落とす。

 羽猿は翼で包み込むように僧侶を抱え、背に乗せる。


「行け、森の西へ」

 羽猿は翼を広げ、夜空へ舞い上がった。

 夜空の高みに、欠けた下弦の月が浮かんでいた。


 新月まで、あと六日だった。


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