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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第4章 再起  

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7 盲目の僧侶 

 聖戒寺院の背後にそびえる白亜の聖宮が、夕日を受けて赤く染まっていた。

 高塔を抜ける風が、香の匂いを室内へと運んでいた。

 宮殿奥の法王の私室。厚い絹のカーテンに光は柔らかく遮り、外の喧噪は遠い。


 法王は窓際の椅子に腰掛け、胸元で手を組んでいた。

 その傍らには、わずかに体を傾けた盲目の僧侶が立っている。


「……おぬしは、後悔しているか」

 法王の静かな問いが、室内に落ちた。 盲目の僧侶は答えず、ただ闇に閉ざされた瞼の裏で、自らが歩んできた茨の道を振り返っていた。


……後悔、と仰せか。

 私が最初に捨てたのは、闇に沈む故郷。だが光の下でも、私は決して救われなかった。


 脳裏に蘇るのは、十五年前の夜。闇に生きる同胞たちに「光との共存」を説き、異端者として追われた日。死を覚悟で光の下へ逃れた旅の果てに得たのは、焼け爛れた皮膚と失われた両の眼だった。

 聖者と崇められようと、この身は光からも闇からも拒絶された抜け殻に過ぎぬ。


……聖都の光は、あまりにも眩しく、そして腐っておりました。


 高僧たちは自らの力に驕り、聖戒の名を盾に私服を肥やした。

 その腐敗を前に、信念は焦りへと変わっていった。


 十二年前の夜、法王猊下、あなた様にだけ出自を明かし、共に封印の綻びを繕った。

 砦の寺院での十二年に一度の儀式……

 だが、侵食は止まらなかった。


……そして五年前、愚かな我が一族は自滅の道を選んだ。


 新月の夜に闇の獣を放ち、闇の力に呑まれて暴走した同胞たち。

 もし自分が森にいれば止められたのか。いや、何もかわらなかっただろう。

 巌窟寺院の長老たちも、我が一族も、見ている闇は同じ。

 ただ、破滅へ向かうだけの、盲いた闇を。


 法王は、彼の沈黙の中に渦巻く悔恨を感じ取っていた。

「おぬしは、すべてを一人で背負いすぎた」


「……他に道はなかったのです」

 十日前、この同じ場所で法王に決意を告げた時の言葉が、再び口をついて出た。


「法王猊下の御心労、衰えゆく聖戒の力、そして腐りきった評議会……もはや押し返すだけでは間に合わぬと」

 もし高僧たちに知られれば、異端のものとして処刑台に送られる。

 法王でさえ封印を持ち出すことは不可能だった。

 

 だからこそ、賭けに出た。

 娘の病に苦しむ商人ホーガイを利用し、厳重な結界の奥から封印を持ち出させた。

 そして、闇の森で自らの手で影を祓い、すべてを元に戻す。


 同時にもし持ち出しに失敗しても、仕方がないとも思っていた。

 しかし、ホーガイは有能だった。寺院の奥にまで手を回し、闇の森まで封印を運んだ。

 覚悟を決めた。

 ホーガイの名誉を回復し、汚名は一人で着る。

 それしか、道はなかった。


……だが、森は私ですら拒絶した。


 計画は、猿の群れの暴走によって砕かれた。

 あの五年前の惨劇の再来。

 そして、轟音と共に現れた「鉄の箱車」。

 あの異邦人がいなければ、すべてはその場で終わっていただろう。


 同胞の影に見つかり、捕えられ、裏切り者として糾弾された時、彼が感じたのは絶望ではなかった。むしろ奇妙な安堵だった。


「……よく生きて戻った」

 長老の言葉が、彼を再び間者として聖都へ送り返した。

 光と闇、その両方を知る自分にしかできぬことがある。


 長い沈黙の果て、盲目の僧侶は法王の問いに、ようやく答えた。

「後悔は、ありませぬ。ただ……道はさらに険しくなった。それだけです」

 その言葉が室内に溶けかけた、その時だった。



 窓の外の空間が揺らぎ、羽ばたきと共に影が落ちた。

 法王が目を上げた時、小人の王はもうそこにいた。


「久しいね、法王ちゃん。……顔色が悪いじゃないか」

 法王は小さく笑ったが、その胸の奥は冷えたままだった。

 彼ひとりに、重荷を背負わせてしまった……

 あの十日足らず前のあの決断が、どれほど盲目の僧侶を追い詰めたか。

 光を掲げる者でありながら、私は闇に怯えていたのだ。


「あの十二年前の儀式の借り、まだ返してないだろ?お前さんたちのおかげで、今回もなんとかなるかも知れないよ?」  

 チョーローは田崎の父の軽トラを思い出しながら、暗い顔をした二人を見て、いたずらっぽく笑った。



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