11 小人たちとの邂逅
ほどなく陽が完全に落ちた。
森のざわめきが遠のき、代わって山ガラスの鋭い声が、冷えきった空を裂いた。
田崎たちは、なだらかな里山の斜面に、ただ座り込んでいた。
息は切れ、心も折れ、誰もが言葉を失っていた。
あれほど逃げたのに、終わりは見えない。
この地獄のような追跡から、いつ解放されるのか、誰も口にしなかった。
沈黙。
風の音すら止んだかのような虚無の中で、突然、ぱらり、ぱらりと乾いた草を踏みしめる足音が聞こえた。
♪ ほほーい、ほほーい、おきゃーくさまが、やってきたー
それは歌だった。
軽やかで妙に愉快なその声に、誰もが一瞬耳を疑った。
田崎が顔を上げると、視界の端から、ちょこちょこと歩いてくる小さな人影が現れた。
丸っこい体、真っ白いヒゲ、先のとがった三角帽子。
そして、子どものようなつぶらな瞳をきらきらと輝かせながら、小人は跳ねるように近づいてくる。
まるでディズニーのキャラクターのようだった。
「……ディズニーかよ」
鼻に入った涙でくぐもった声が、思わず漏れた。
自分でも自分の言葉に苦笑する。
それは、絶望の海に沈んでいた心がわずかに浮かび上がる音だった。
小人たちは次々と姿を現し、田崎たちの周囲を囲む。くるくると踊りながら輪を作り、楽しげに歌い始めた。
♪ おきゃくさまだー!ほーほーほい!
奇妙で、楽しげな音楽が、心を和ませた。
あっけにとられたままの田崎たちの前に、一際立派な帽子をかぶった小人が歩み出る。
胸に手を当てて、にこやかにこう言った。
「……田崎か?」
たしかに、日本語だった。
「わしはチョーロー、よろしくな」
妙なイントネーションで、語尾が上がったり、伸びたりする。
「昔、ある男が、わしをそう呼んでおった」
「長老」のことらしい。
だが、その柔らかすぎる語感に、田崎は思わず肩の力が抜けた。
「……何なんだよ……ここ……」
誰にともなくつぶやくと、不意にオムカが踊る輪の中に加わっていた。
いつもの杖をくるくると振り回しながら、調子っぱずれの声で叫ぶ。
「タサキ! ナクナ! ホーイ! ナクナ、ホホホーイ!」
あまりな自然な溶け込み方に、田崎は目を丸くした。
リューシャは眉をひそめ、グランは口をあけたまま固まっている。
ホーガイの腕の中でイリナの瞳にわずかな光が戻った。
誰も何も言わず、ただこの信じがたい光景を見つめていた。
ルーだけが、鼻を鳴らしながら首をかしげ、小人たちの跳ねるような動きに視線をきょろきょろと動かしている。そして、軽く一声。
「ワンッ」
そんな犬の鳴き声までもが、妙に風景に馴染んでいた。
「ささっ、こんなとこに座り込んでいないで、うちにおいでなさい」
チョーローはそう言って、田崎に手を差し出した。
その手は小さく、皺だらけで、それでもどこか懐かしさを感じさせる温もりがあった。
じいちゃんみたいだ……
そう思った瞬間、田崎の喉の奥がまたきゅっと詰まる。
泣くまいとして、下唇を噛んだ。
だが、不思議と、先ほどまでの重苦しさとは違う淡い光が胸の奥に灯り始めていた。
「ささっ、里に案内するでな」
「おきゃくだーい!ほーいほーい!」
「うちへいこー! ほほーい!」
小人たちはいつの間にか一列になり、歌いながら軽やかに斜面を降りていく。
チョーローが、ふっと楽しげに笑いながら先導していた。
田崎は、涙を袖で拭い、痛む身体をひきずるように立ち上がった。
後ろからホーガイがイリナを抱え、グランとリューシャが続いた。
その背後で、静かに昇る欠けた三日月が、光をたたえて森を照らしていた。




