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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第三章 道なき旅路

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9 緑の衝突

 風を切る音すら呑まれて、緑がすべてを包み込んだ。

 結界を越えた瞬間、ジムニーの周囲の空間が緩やかに傾き、重力の感覚が失われる。

 光も音も曖昧になり、次の瞬間。


 ズドンッ!

 ジムニーのタイヤが地面に激突した。草と泥が宙を舞い、車体が跳ね上がる。

 右に傾いたジムニーは草地を滑り泥をえぐり、ズズズ……と草むらに沈み込むようにして止まった。


 エンジンが苦悶のような唸り声を上げ、そして、プツン。


 すべての音が途絶えた。


 風も、鳥のさえずりも消え、むせかえるような青草の匂いと、車体のどこかから漏れる冷却水のかすかな滴り音だけが残った。


「……う、っ……」

 最初に動いたのはリューシャだった。

 彼女はとっさに、ホーガイと彼が抱える娘イリナを庇うように覆い被さっていた。

 背中に鈍い痛みが走る。天井に強く打ちつけたようだ。

 右の腰背部を強く打ったらしい、疼くが出血はなかった。


「タサキッ!」

 運転席に目を向け、リューシャが叫ぶ。

 田崎はぐったりと背もたれに身を預け、左側頭部を押さえていた。

 手のひらが血で濡れている。ヘッドレストの左側が抉られ血が付着していた。


 田崎の顔を舐めているのは、ルー。レトリバーの優しい舌が、何度も頬を撫でていた。


「……ルー……? 無事か……」

 かすれた声に、リューシャは安堵の息を漏らす。

 すぐに革鎧の下のチュニックの裾を裂き、田崎の頭に布を押し当て、血が広がるのを押さえた。

 田崎はわずかに首を垂らすと、再びシートに身を沈め目を閉じた。


 後部座席ではホーガイが呻いていた。こめかみに手をやりながら顔をしかめる。


「イリナ……イリナ!」

 彼の腕の中で、イリナは声にならない嗚咽を押し殺していた。

 顔に擦り傷があるが、手足は無事だ。

 ホーガイは娘を抱き締めるようにして力を抜いた。


「オムカ...!」

 グランの声が響いた。彼は床に頭を突っ伏したまま、体を起こせずにいる。


 そのとき、リアの荷台から何かが飛び出す。

 潰れた紙コップをかぶったオムカだった。

 彼はひょいと後部座席に乗り移ると、きらきらした目で言った。


「ようこそ!小人の里へ!」

 その一言に、一同の顔にかすかな生気が戻る。


 田崎は歪んだドアを押し開けようとしたが、曲がったヒンジで開かない。

 体重をかけると、ガンッ!と蝶番が外れ、ドアが地面に落ちた。


 外の空気が、ひんやりと車内に流れ込む。

 一行は疲労と安堵を抱えたまま、のろのろと車外へ出た。


 歪んだバックドアを開けたリューシャが、ホーガイとイリナを抱えて草地に下ろす。

 続いてグランもよじ登って外へと出る。

 足元の感触を確かめるように、全員がそろそろと草の上に立った。

 グランは深々と息を吐き出し、胸に抱いていた短剣をゆっくりと鞘に戻した。

 ホーガイはぐったりとしたイリナを胸に抱きながら、その場に崩れ落ちるように座り込み、ただ天を仰いだ。

「助かったのか……」


 車体は半ば草地に沈み込み、泥と草に覆われて無惨な姿をさらしている。


 田崎はそのそばに崩れ落ちるように座り込み、再び頭を押さえた。

 リューシャが隣に膝をつき、再び布を押し当てて止血を続ける。


「しっかりして。まだ……終わってない」

 しかしその言葉は、田崎には、届かない。


 視線を上げると、懐かしくなるような、里山の風景が夕暮れに溶け込んでいた。

 田崎は、草むらに座ったまま、呆然と空を見上げた。


 青かった。まるで、すべてが新しく始まるような色をしていた。



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