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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第三章 道なき旅路

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4 交錯する軍勢

 闇の森の南端がざわめいていた。

 

 木々が密集する薄暗い森で、黒ずくめの影が蠢いている。

 黒い霧が地を這い、枝葉の隙間から差す光は鈍く、不気味な静寂が森を支配していた。


 巌窟ドームの地下では、影を織る女たちが、糸のような影を束ね黒い布を紡いでいた。 

 それは彼らにとって衣であり、力の器でもある。

 男たちは、地下から湧く闇の泉を汲み上げ、祭壇の石を磨く。


 巌窟の上のテラスでは、森の民の子どもたちが月光を浴びながら、子猿たちと鈴を鳴らして遊んでいた。影の波長を調整する訓練になる。

 森の子どもたちは、こうして使役の信頼を築いていく。

 才のある子は影の使い方を学び、闇の奔流を自らの手で管理する術に備える。


 もうじき新月がくる。


 月のない夜は力が枯渇する忌むべき時であった。

 森の民は通常の食物を口にできず、闇の力と巌窟の泉、月光だけが糧となる。

 

 月さえ出ていれば、たとえ雲が厚く、雨が降る夜であろうと、そのわずかな光を飢えたように浴びることが出来る。


 子どもたちの歌が風に乗り、巌窟ドームの祭壇にも微かに響いている。

 祭壇の下では影使いの長と長老が深刻な顔をして話し込んでいた。


「子らの未来のため、影をもっと深く……」

 そのためには邪魔者たちをまず片付ける必要があった。


「騎士団の動きが速い」

 影をまとった男が言った。


 傍らにいた長老が杖を地面につき、低く答える。

「…まだ軍勢が足りぬ。だが躊躇するな。騎士団を血祭りにあげよ。封印を…解放する前に、余計な火種は潰しておけ」


 影使いはうなずくと、南の森に展開する猿使いたちへと影をのばし命を伝えた。

「森の獣を森の南へ集結させよ。邪魔するものは、誰であろうと…皆殺しだ」

 その目が濁った闇に血のような光を灯していた。



 そのころ、聖都にある騎士団本部でも動きが始まっていた。

 壁一面に広げられた地図の前で、聖戒騎士団総団長グリファスが腕を組んで立っていた。濃い眉の下、鋭い眼差しが地図の一点を睨んでいる。


 そこはかつて竜猿を封印した闇の森の巌窟寺院。

 全ての封印が塗り潰されれば、数十体の竜猿が解き放たれる。

 

 慌ただしく伝令が行き来し、緊張が張り詰めた本部で部隊長が命令を待っている。

 机の上には、各地の砦から届いた伝書が積まれていた。


「闇の森南端の動きが、前よりもさらに活発になっている…」

 呟く声に、部下たちが緊張した表情で応じた。


 グリファスは即断した。

「部隊を二手に分ける。ひとつは『警戒部隊』として森の南端に展開し、影の軍勢を封じよ。もう一つは『封印奪回部隊』。北方の街道沿いに展開し封印を確保せよ」


「はっ!」


「デルグラ、ヴォルノにそれぞれの部隊を率いさせろ」

 伝書鳩が命令書をくくりつけられ、真昼の太陽の元飛び立つ。


 グリファスは最後に、地図上の北から森の南端へと指を滑らせた。


「ここから先、一歩でも封印を北上させるな!」



 その時、田崎たちは深い木々に囲まれた林の中にいた。

 木々の隙間から、うっすらと開けた街道の一部が見える。

 曲がりくねった細い道が、森の影に沿って延びていた。


 そのまま木陰で野営となった。


 オムカが低くまじないの詠唱を始める横で、田崎は手際よくガスバーナーを点け湯を沸かす。

 クッカーの湯に粉末スープを溶かし、皆で硬いパンを浸して口にする。

 粗末な食事でも温かさが胸にしみた。


 顔を寄せ合い、互いの表情を見やれば、疲労の色が隠しようもなくにじんでいる。


 そんなとき、

 リューシャが抱えていたイリナが、パンくずをぽろりと落とした、。

 ルーがすかさず鼻先でおいかけ、ぺろりと平らげる。


 イリナがくすりと笑った。

 

 その笑い声に、一同の顔がほころぶ。

 ホーガイの目に、涙が光った。


 ルーが調子に乗って、イリナの頬をぺろりと舐める。

 イリナは肩をすくめて、目を閉じた。

 それでもやがて、恐る恐るルーの頭に手を伸ばす。

 柔らかな毛並みに触れた瞬間、イリナの表情がふわりと緩んだ。


 リューシャが優しく微笑む。

 その横顔を見て、田崎は胸の奥が温かくなるのを感じた。


 グランは硬いパンを噛みながら、ふっと笑みを漏らす。

 オムカは詠唱を止め、くるりと輪になって踊り始めた。

「ほーい、ほほーい」


 その小さな体が、焚き火の影を楽しげに踊らせる。

 暗闇の向こうには、影が身を潜めている。

 明日からは再び、あの恐ろしい森に戻らないといけない。

 竜猿の恐怖を思い出すと、身がすくんだ。


 それでも今この瞬間だけは、温かかった。


 火がぱちと弾ける。

 イリナがルーに寄り添い、小さなあくびをした。


 ホーガイがそっと娘を抱き上げ、毛布にくるむ。

 リューシャが傍に座り、イリナの髪をそっと撫でる。


 食後、ホーガイが屋敷から持ってきた羊皮紙の地図を広げた。

 森の西端と山岳地帯の境に、赤い点が記されていた。

 そこが「小人の里」だと、オムカが杖で指し示す。


 いよいよ明日、あの森に再び戻る。

 ゆらめく炎の向こうに、仲間たちの顔がある。


 一人ではない。

 その思いが、少しだけ恐怖を和らげてくれた。


 浅い眠りの中で、夜が更けていく。


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