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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第二章 兆し

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9 魔の刻、鳩は舞う

 聖戒寺院の最上階、灯火の絶えぬ評議の間。

 石の床に足音はなく、冷たい空気に蝋燭の炎だけが揺れていた。

 重厚な扉の内側、楕円の円卓が沈黙の中心にあった。


 卓上には地図、斥候の走り書き、伝書鳩の紙片が折り重なり山となっていた。


 十名を超える高僧たちが卓を囲み、いずれも険しい顔を伏せていた。

「……また確認できずか」

 ひとりの老僧が、乾いた声で呟いた。

 結界で覆われた書見窓のそば、白髪をきちりと束ねた報告官僧が小さく頷いた。


「はっ、ホーガイの別邸に向かった第五隊、第七隊、第十隊、いずれも接触できず。痕跡なしとの報です」


「まるで、風に紛れたかのようだな……」

 別の僧が低く唸った。


「奸商ひとりに何日を要するか。……聖戒の名が泣くぞ」

「だが、奴が持ち出したものは聖戒の封だ。慎重を期せねばならぬ」

 議論は重く、拮抗していた。


 焦燥と疲弊が混ざり合い、空気が石のように重くなる。

 誰も視線を上げず、ただ沈黙だけが場を押し潰していた。


 そのとき。

 カラン、と鐘が静寂を破った。

 伝書鳩が飛来した合図だった。


「報告、南西より!」

 若い僧侶が鳩の脚から筒を取り外し、即座に開封して読み上げた。

「斥候ナーガタより。南西街道沿い、カスーミの村にて、巨大な鉄の箱車を確認。護衛に銀の刃のリューシャと称される耳長族の女傭兵、ならびに巨人の男とホーガイに酷似した男を伴う、とのこと!」

 室内の空気が凍る。


「鉄の……箱車……?」

「何だそれは。戦車か? 南方の遺物か?」

「銀の刃といえば、あの商人が雇った護衛の一人……」

「南西街道沿い……その早さ、あり得ない……」


「続報!」次の鳩が到着する。今度は別の斥候からのもの。


「同村の先の街道にて、鉄の魔獣のような箱車出現。人語を発さず煙を吐いて地を鳴らす。見たこともない速さで走り去ったとの報」ざわり、と円卓の周囲が揺れる。


「……封印の箱と、それを手にした商人。そして鉄の魔獣……三つが揃えば『災厄の扉も開かれる』」 誰かが聖句の一節を呟いたが、誰もそれに応じなかった。


「グリファス」

 低く、重い声でひとりの高僧が指名した。


 白銀の鎧を半ば脱ぎ、報告書の山に手をつけていた聖戒騎士団総団長グリファスが、無言で顔を上げた。


「即刻、近隣の寺院詰め所と町の駐屯地に鳩を飛ばせ。鉄の箱車が向かった方角に潜伏の町がある。……早急にその道を押さえよ」

「はっ」

 グリファスは聖戒の重圧に唇を噛み、封印を守る決意を胸に秘めた。


「必ずや、必ずや封印を守り抜き、闇の民の思惑通りにはさせませぬ」

 グリファスが起立するのと同時に、指を二度鳴らす。

 五年前の魔の獣の暴走が脳裏を駆け巡る。

 騎士団に多大な被害を出した災厄。もう二度と同じ轍は踏まぬ、

 控える部下に出動準備を命じる。


 伝令の僧侶たちが鳩の籠を開き、次々と命令書を巻きつけていく。

 深夜の空がかすかに啼いた。


 聖域の塔から、夜空を切り裂くように鳩たちが散る。


 鉄の魔獣。常識を超えた存在を操る者たちの目的はいまだ不明。


 だが確かに、聖戒の秩序には小さなほころびが生まれた。


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