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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第一章 異界のもの

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2 ジムニー、異世界最初の戦場へ  

 フロントガラスに張り付いた血の塊がじわりとずれた。


 田崎はハンドルを握ったまま動けずにいた。

 さっき、確かに複数の動物を跳ね飛ばした。

 その感触が、まだ手足に残っている。


「マジかよ……」

 ジムニーのバンパーは凹んでいないか、サス、タイヤに異常はないか。

 帰るにしても車が動かなければ、JAFを呼ぶしかない。

 修理にも出したいが、ディーラーに連絡できる状況ではなさそうだった。


「……いや、これ……どこだよ、ここ……」

 ワイパーがギィ……ギュッ……と軋みながら拭き取っていく。

 静まり返った森に、ワイパーの単調なリズムとエンジンの唸りがやけに大きく響く。


 ふと、助手席で震えていたゴールデンレトリバーのルーが、前足を上げて立ち上がる気配を感じた。


 異形の猿たちがジムニーを取り囲むように、爪を立てて近寄ってきていた。


……やばい、車をこれ以上傷つけられたくない。


「待て。ルー、動くなよ」

 これで追い払えないか?

 田崎は後部座席に手を伸ばし、積んでいたスチール製の雪かき用スコップをつかむ。

 高鳴る心臓を呼吸で整える。

 運転席のドアを開けて足を出した、その瞬間だった。

 ルーが助手席から飛び越えて、田崎より先に外へ飛び出した。


「おい、ルーッ!」 

 ドアが「バタン」と閉まる音が森の静寂を打ち砕いた。

 周囲のすべてが動きを止め、驚いた顔をこちらに向ける。


 近づいていた猿の群れが、ビクッと体をふるわした。

 外に出たとたんに獣臭と血の匂いが鼻をついた。


 すぐ目の前には、倒れた馬車が山道を塞いでいる。

 その傍らには、血まみれで崩れ落ちた馬と倒れた人影。


 そして、小柄な姿が二つと一人の背の高い戦士。


 どちらも武器を構え、こちらを警戒している。

 その二人の中央に立っているのは、年若い女性のように見えた。

 尖った耳が、後方に向かって鋭く突き出している。

 革の胸当てを身につけ、片手に長剣を握っていた。


 彼女はジムニーのヘッドライトに目を細めながらも、視線をこちらに向けていた。


 光の向こうから現れた異質な存在に、彼女の顔がはっきりと動揺を示していた。

 その女戦士の周囲には、猿に似た獣たちが十数体取り囲んでいた。


 田崎が現れたことで、一様に動きを止めていた。

 ルーが毛を逆立てて吠えたてた。

 さらに群れが一歩ずつ後ずさる。


 ジムニーの前方、倒れた馬車の幌の中から、見た目はおじさんのような三十センチほどの人影と、子どもの背丈ながら恰幅のよい中年の男が這い出してきていた。


 小さなおじさんは、小声で何かを呟きながら震えていた。

 中年の男は、田崎とルーの姿に目を丸くしたまま、口を開け言葉にならない声をもらしている。


「うわあああアッ!」

 その時、甲高い悲鳴が森に響き渡った。

 我に返った猿の一匹が、近くの戦士の首筋に食らいついた。

 噛みつかれた戦士はよろめき、血がほとばしる。

 女戦士が叫び、剣を振るって飛び出した。


「くそっ……!」

 田崎はルーを追い、前に出る。

 肩にずっしりとしたスコップをかついで構える。

 牙を剥いた猿の群れに囲まれた。


「ルーッ!危ないから後ろに!」

 一体が飛びかかってくる。スコップを横に振り抜くと、乾いた衝突音とともに猿が空中を飛んで倒木に叩きつけられた。

 二体目が足元にしがみつこうとしたのを蹴り飛ばし、頭上から飛びかかってきた三体目を反射的にスコップで殴りつける。

 地面につっぷした猿のような生き物は、頭から血を流し動かなくなった。


 信じられないほど脆い。

 さらに数体が距離を詰めてくる。ルーがそれに吠えたて威嚇した。


 スコップを構え直し、一歩踏み出し横なぎに振ると赤目の獣は怯んだように後ずさった。

 女戦士と小柄な戦士も剣を振るい応戦している。

 血にまみれた獣の悲鳴が上がり、次々と切り伏せられていった。


 数の優位が崩れたのを察したのか、残った猿たちは甲高い声を上げて一斉に森の奥へと逃げ去っていく。


 辺りには倒れた馬、壊れた馬車、そして流れた血だけが残っていた。

 戦士たちも、田崎も誰もがその場に立ち尽くしていた。


 一体ここはどこで、どういう状況なんだ。


 ふと気がつき、車に戻る。


 血が飛び散り、傷が走った凹んだバンパーを、指でなぞり頭を抱えた。


 静まり返った森に、再びアイドリング音が響いていた。



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