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軽四駆X異世界疾風録 〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした  作者: タキ マサト
第一章 異界のもの

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11 逃走再び 

 ジムニーが木々の影を縫って突き進む。

 細く湿った獣道を右へ左へと跳ね、荷物もリューシャたちも座席で浮き上がった。


「グゥルルル……ッ!」

 ルーが助手席の足元で前足を突っ張り、しがみつく。


 林の影に、無数の眼が光った。


「チッ……!」

 田崎は短く舌打ちし、アクセルをさらに踏み込む。


 バンッ!

 天井がたわみ、何かがルーフに張りついた。

 次の瞬間、運転席側のドアが激しく揺れ、羽を持つ猿が歯を剥いた。


「羽猿!」

 リューシャの叫び声が響く。意味は分からない。

 とっさに剣を引き抜こうとするが、揺れる狭い車内に腕がぶつかり顔をしかめる。


 猿が窓に顔を押し付け、爪を突き立ててサイドミラーにしがみついた。

 ギシギシと軋み、やがてバキリと根本から折れる。

 羽猿はミラーとともに闇へ消えた。


「なんてこった……」

 愛車が傷つくたび、心が痛む。

 逃げられるのか……


 その時、ダッシュボードの上でオムカが杖をカチリと鳴らし、左前方を指した。


「おい、マジか……!」

 田崎は迷わずハンドルを切る。助手席のドアが勢いで閉まり、ロック音が響いた。

 杖はすぐに右、次に後ろ斜め左を指す。


「めちゃくちゃだ……信じるしかねぇ!」

 獣道の斜面をすべるように下る。枝がガラスを叩き、土埃が光を霞ませた。


 リューシャが叫ぶ。

 その背後で、空気が震えた。


 木々の間から、異様に長い首がすうっと伸びてくる。

 月明かりがその醜悪な猿面を照らした。


 地鳴りのような咆哮が、田崎の内蔵まで響く。 

「くるぞ……!」

 田崎は身を低くした。

 轟音とともに木々が裂け、竜猿の巨体が迫る。

 

「こっち来るなッ!!」

 叫んだ瞬間、オムカの杖がまたカチリと鳴った。

 先端は左前方、林の出口を指している。


「行けってことかよッ!」

 ハンドルを切り、アクセルを踏み抜く。

 エンジンが悲鳴を上げ、タイヤが地を掻いた。

 竜猿の前足が、ルーフを掠めた瞬間。

 

 ジムニーが浮いた。

 地面が消え、車体ごと空を切るようにして草原へと跳び出す。


「うわあああああっ!!」

 誰の悲鳴かもわからぬ叫び。

 荷物が宙を舞い、商人の袋が頭の上を転がる。


 ドンッ!!

 草原の斜面に叩きつけられ、サスペンションが抗議の声を上げた。


 止まったら、終わりだ。俺もルーも、みんなも……


 田崎は息を整え、前を見据える。


 フロントガラスの向こう、草原が広がっていた。

 月光に照らされ青白く波打つ草の海、その中へジムニーは突入した。


 オムカの杖が再び動く。斜め右、丘の先をピタリと指した。


 田崎は迷わずハンドルを切る。

 背後では、竜猿が巨体を揺らして姿を現し、翼を広げて怒声を上げた。


「逃げ切れるのか……!」

 歯を食いしばり、月光の草原を駆け抜ける。

 だが、草の影が不自然にうごめいた。


 猿の顔を持った豹のような奇怪な姿、それが三頭、四頭、五頭……

 しなやかな筋肉をうねらせ、低く構えて迫ってくる。


「なんだよ、あれ……!」

 サイドミラーは吹き飛び、背後は視認できない。

 後部座席ではホーガイがわけのわからない異世界語で喚いていた。


 豹猿は、まるで競走馬のような加速でジムニーに並ぶ。

 一頭がサイドのドアに爪をかけようと跳ねた。

 ルーがガラス越しに吠えつけ、異形はバランスを崩して転がった。


「よくやった!ルー!」

 その直後、背後から巨大な風圧が押し寄せた。


 巨大な翼が風を叩き、衝撃波が車体を揺らす。

 バックミラーの端に、翼を広げて滑空する竜猿の影。


 空を裂く咆哮。羽猿たちが舞い、ジムニーを包囲する。


「嘘だろ……こんな!こんな世界……ッ!」

 田崎の手が汗で滑った。

 オムカは無表情のまま、杖をピクリと動かした。

 進路は真っ直ぐ、丘の向こう。


「信じるぞ……!」

 田崎はアクセルを踏み抜く。草を裂き、丘を超えた先に——川。


 月明かりに銀色の波紋がきらめく。幅の広い川が大地を区切っていた。


「……橋なんて、あるのか……!?」

 田崎が絶望的な声を漏らした。

 竜猿の怒声が背後に響く。

 羽猿が降下し、豹猿が並走する。


 杖がまた左前方を指す。


 その瞬間、ボンネットに血と泥が飛び散った。


「うおっ……!」

 正面から飛びかかってきた豹猿をジムニーが跳ね飛ばす。


「キャアアアッ……!」

 リューシャが叫び、衝撃でグランが後部座席で身体をぶつけた。


 オムカは動かない。ただ杖の先だけが、冷たく次を指す。


 東の空が白み始めた。

 だが、救いの光ではない。

 それは、異形たちの最後の猛襲を仕掛ける予兆だった。


「来るぞ……!」

 田崎が呻いたその時、またも豹猿が横から突進してきた。

 だが、それは間一髪で回避した。ジムニーは川の岸辺へと突き進んだ。


 月明かりの中、水面は川底の石に当たって白い飛沫をあげていた。


「浅い……行けるか……?」

 河原の石がタイヤを弾き、底がガツンと当たった。


「シャフト、いったか……?」

 嫌な金属音が残る。それでもエンジンは息をしていた。


 オムカが、今度は川の中を杖で指した。


「マジかよ……本気か……?」

 獣の唸りとともに、豹猿が後方から追いつき、ルーフに飛びかかった。

 車体が大きく揺れた。フロントガラスの上から、泥にまみれたサルの顔が覗き込んだ。


「くっそおおおおおッ!!」

 田崎は必死の形相でハンドルを握り直して川へ突入した。


 車体が石に乗り上げて傾き、豹猿は車の前に投げ出される。

 そのままタイヤが乗り上げて進む。


 水の流れが敵を拒むと、そう信じるしかなかった。



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