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第87話 難題

78話と83話の間の話です


第78話 起業

第87話 難題 <-イマココ

第83話 制作発表会

第79話 LMS

「新田、副業しない?」

「ふえ?」


サイバーフュージョンのオフィスで翔太は唐突に切り出した。

翔太は技術顧問としてサイバーフュージョンに呼ばれていた。


内容が内容なので、小声で話している。

新田は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしている。


「なに? 急に……怪しい仕事?」

「うーん……怪しくないといえばウソになるかも?」


石動と立ち上げた会社『翔動』はできたばかりで、社員は石動一人である。

実績もなければオフィスもない。

(うん、十分怪しいな)


「――という感じで、勢いで会社を立ち上げてしまったわけなんだけど、早速仕事が取れたので手伝ってほしいんだ」

翔太は翔動の実情を包み隠さずに伝えた。


「どんな仕事なの?」

意外にも新田は興味を見せた。


「タレント養成所にeラーニングを導入するんだけど、このシステムを一から作っている」

「タレント養成所ってキリプロの?」

「よくおわかりで」

「これで全然違う芸能事務所だったら、あんたの素性を疑うわよ……そもそもなんで柊がキリプロと――」

「それはいずれ話すからまた今度な」


特に、この場では話しにくい内容のため、翔太は早々に話題を戻した。


「それで、LMSというフレームワークから作ってるんだけど、この段階から開発に加わってほしい」

実は機械学習を使った評価システムを組み込むことも含まれているが、未来の技術なので今の段階では伏せた。


「そのフレームワークは柊が設計しているの?」

「ああ、そうだ」

実際には未来に存在するものを翔太の記憶から再現したものだが、翔太が設計したものだと言い切るしかなかった。


「なら、興味あるわ。詳しく聞かせて」

「即答!? いゃ、こっちは助かるんだけど」

「こんな決断に時間をかけるなんて、無駄以外の何者でもないわ」


翔太はいかにも新田らしいと感じた。

彼女の合理的なスタンスは一貫しており、好感がもてる。


***


「石動でいい? 私のことは新田でいいわ」

「あ、あぁ、よろしく」

石動は顔を引きつらせながら応じた。

(俺が新田と初めて話したときも、外からみたらこんな感じだったんだろうな……)


翔太は石動に新田を紹介した。

翔動にはオフィスがないため、貸し会議室を借りてLMSの説明をすることにした。

(さすがに、石動の家に来てもらうわけにはいかないからな)


***


「ありがとう。機能は地味だけど、中で使われている技術にはすごく興味を惹かれたわ」


LMSの説明をした石動は「ほぉーっ」と一安心した。

目つきがきつい新田を相手に、かなり緊張していたようだ。

(まぁ、気持ちはわかる)


「どう? やってくれそう? 報酬は言い値で払うつもりだけど」

「ええ、いいわ。いくらお金もらっても興味がなかったら断るつもりだったけど」

「ここから先は機密情報なので――」


翔太はNDA(秘密保持契約書)を用意し、説明を受けた新田はその場で躊躇なくサインした。


***


「ちょっと! こんな面白そうなものがあるなら、先に言いなさいよ!」

翔太が機械学習モデルの説明をすると、新田が今日一番の食いつきを見せた。


「いゃ、だから機密情報なんだって……」

「石動の説明で私が断ってたらどうするつもりだったのよ!」

「そうだ、そうだ」と石動は新田に同意した。


新田は難しい課題ほど意欲が湧いてくるタイプで、早くも実装方法の提案をしてきた。

石動は、新田の技術力の高さにひたすら感心していた。


***


「はあ、柊と石動かぁ……」

帰宅した新田は自分の感情を持て余していた。


柊が持ってくる技術はどれもこれもが斬新で、興味を惹かれるものばかりだ。


「柊の技術に興味があるだけで、柊自体に興味があるわけじゃ……なくはないんだけど……」

新田は身の回りのことをロジカルに落とし込んで考えるが、今の感情を処理するためのプロトコル ※1 を持っていなかった。


「なんで、石動と一緒にいると、柊のことがもっと気になってしまうのよ!?」

異性に興味がない新田であるが、石動のことは初対面ながらも悪くない印象だった。

なぜか、石動と一緒にいる柊が普段よりも魅力的に見えてしまうことに合理的な解を見いだせなかった。


「うがーーー!」

新田は問題解決が得意であり、彼女の人生では解けない問題がほとんどなかったが、人生最大の難問が降り掛かってきたのである。


当面の間、柊と石動と行動を共にしていくことを、今の彼女は知る由もなかった。

※1 データをやりとりするために定められた規約

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