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第74話 脱北?

「そっかー、三田にそんなこと言われてたかー」

野田は焼き鳥をつまみながら言った。


翔太は居酒屋で野田と田村と飲んでいた。

霧島プロダクションの仕事をするようになってから、翔太の食水準は格段に向上していたため、今日のような安い居酒屋は久しぶりだった。

本来であれば野田と二人で腹を割って話すつもりであったが、田村も合流することになってしまった。


「もう体は大丈夫なの?」

「激しい運動しなければ大丈夫って言われた」

「よかったねー」


傷害事件に遭ったことを社内で知っているのは、大野と田村だけである。


「柊が急に休んで大変だったんだからなー」

「すまん、今度埋め合わせするよ」


翔太は思案した。

星野か白川に頼めば、Paws関連で野田の興味を惹きそうなものが手に入りそうだが……代償の方が怖かった。


「まぁ、こないだのPawsのコンサートが最高だったから、よしとするかー」

「え? なにそれ?」

「柊がPawsの関係者チケットをくれたんだよ」

「へー」


田村がニヤリと探るような目で翔太を見つめていた。

(しまった、チケットの存在自体を口止めすべきだった)


─────

田村> もう、アイドルも落としたのかよ

柊> ちげーよ、色々あったんだよ。「も」ってなんだよ!

田村> さぁ、自分の胸に聞いてみれば?

─────


野田に見えない水面下では、携帯電話でメールのやり取りがされていた。


「それで、これから三田にチクチク言われながら仕事を続けるのもなーって」

翔太は話を戻した。


「もう、そんな時期かー」


三人が在籍している、アクシススタッフの離職率は非常に高い。

入社して三年ほどすると、半数は転職している職場だ。

翔太の同期も半分近くが転職しており、同期が集まると転職先の話題になることが多い。


「行くアテはあるの?」

田村の疑問はもっともだ。


「あると言えばある」

「おい、なんか思わせぶりだな」

「野田は何か考えているか?」

「そうだなー、今の給料じゃやっていけないので、そろそろ探したいなとは思っている」


翔太と野田はアストラルテレコムの仕事をしているが、この会社の社員と比べると、アクシススタッフの給料はかなり安くなる。

野田が現状に不満に思うのは自然な流れであった。


「野田、サイバーフュージョンって会社知ってる?」

「もちろん、知ってるぞ。

最近だと、くまりーのブログがあの会社になったんだろ?」

「紹介すると言ったら、興味あるか?」

「マジか! あるある、めっちゃある!」

野田は即座に食いついてきた。


「えー! いいなぁ」

田村が「私も」と言いたげな顔で言った。


「急ぎじゃなければ、野田の感想を聞いてからでどう?」

「いいね!」

「俺、モルモットかよ!」


翔太は霧島カレッジで頼みたい案件があったため、田村に関しては時間を稼ぎたかった。


「お互いに次の目処が立ったら、報告するでいいか?」

「ああ、いいぞ」


野田はあっさりと頷いた。

翔太と野田は、辞める時は同時に辞めるという協定を結んでいた。

残された方が苦労することが明白なためだ。


「二人が辞めるとちょっとした騒ぎになりそうだねー」


アクシススタッフの中では、翔太と野田の単価は飛び抜けて高かった。

社員である二人には何も恩恵はないが、会社にとっては痛手になるだろう。


「知ったことかよ」

野田は吐き捨てるように言った。


優秀な人材をつなぎとめるには、給与水準を上げることが最も効果的だ。

しかし、人材派遣をメインにした業態ではこれがやりにくい構造になっている。

特にアクシススタッフは、人材を安く調達して使い捨てることに特化している会社である。


「で、柊くんはどうするつもりなの?」

「いくつかの選択肢はあるんだけど――」


翔太の人生プランは、後日、ある人物と出会うことで大きく変わることになる。


―― この出会いが、この世界をも変えてしまうことになる ――

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