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第57話 天才

「データベースはバックアップ用のAPIを用意しています」


ここは、サイバーフュージョンオフィス内のパーソナルメディア事業部だ。

翔太は、霧島プロダクションが運営するブログの仕様や運用手順を説明している。


霧島プロダクションが運営するブログ『スターダストブログ』は、サイバーフュージョンに買収され『フュージョンブログ』として提供されることが決まっている。


パーソナルメディア事業部は新たに設立された部門で、個人が発信するコンテンツに関するサービスを提供する。

手始めにブログサービスがリリースされる予定だ。


翔太は霧島プロダクションから技術顧問としてサイバーフュージョンに来ている。

顧問契約により、サイバーフュージョン側は任意のタイミングで翔太を呼ぶことができ、霧島プロダクション側には拘束時間の設定がないため、双方にとって利益のある契約となった。


芸能事務所がIT企業に技術的な支援を行うことは前代未聞である。


***


「データベースはOSSのものを使っているようですが、互換性があれば別のデータベースに移行可能でしょうか?」

「ロードバランシングはどのように行っていますか?」


翔太は矢継ぎ早に来る質問に対応していた。

会話をしていく中で、優秀なエンジニアが集められていることを実感した。


大熊はデータベースに詳しく、(つくだ)はネットワークに詳しいなど、それぞれの分野の専門家がバランス良く集められていた。

先日行われた説明会の参加者から、相当な精鋭が選抜されているようだ。


翔太は心の中で、佃と大熊のことを『須見工コンビ』と呼んでいた。


「このウェブフレームワークですが――」


新田の質問は飛び抜けてレベルが高かった。

翔太はパーソナルメディア事業部を各分野のスペシャリスト集団と評したが、新田だけはどの分野でも造詣が深く別格な存在であった。


翔太は新田のことを説明会で強い印象を受け、記憶に残っていた。

しかし、今日の彼女は説明会のときよりも、すらりとした服装を着こなしていて、化粧もばっちり決まっていた。

(あれ? この間もこんなことがあったような……)

美しい容姿がより際立ち、周りの社員が新田をちらちらと盗み見ている。


***


「私、まだ納得いってないところがあるので、今日のうちに柊さんに聞いておきたいことがあります!」


新田の発言に森川は「はぁーっ」と大きなため息をついた。

就業時間はすでに過ぎている。


「ごめんなさい、柊さん。新田はこうなったらテコでも帰らないので、もう少し付き合っていただいてもいいですか?」

森川は申し訳なさそうに翔太に頼んだ。


「はい、構いませんよ」

翔太は頷いた。残業代は支給されるため、断る理由は特にない。


***


「ねぇ、柊でいい? 私のことは新田でいいから」

二人きりになった途端、新田が切り出した。


「は、はい」

「あと、歳も変わらない感じだし、お互い敬語なしでいいよね?」

「またか……」

「は?」

(しまった!口に出でてしまった)


「 私、お互いを過剰に気遣いながらコミュニケーションするのって無駄だと思うの。

意思が疎通できていれば、礼儀は最低限あればいいと思ってる。

会話に時間を使うなら、コードでも書いてたほうがよっぽど生産的だわ」


「な、なるほど。いいんじゃないかな」

翔太はたどたどしく言った。


有名なIT企業のCEOは、決断の回数を減らすために毎日同じ服を着たりするらしい。新田の言い分はそのような考え方に近いかもしれない。

それにしては、今日の新田の服は気合が入ってる気がするが、気のせいだろうと思うことにした。


***


「て、天才だ……」

一通り説明した翔太は、新田のあまりの飲み込みの早さに思わず呟いてしまった。

翔太もそれなりに技術力はあると自負していたが、軽く嫉妬していた。


翔太は四半世紀ほどの期間に渡ってIT技術に関わってきたが、一ヶ月もすれば新田に追い抜かれていてもおかしくはない。

ずっと茨の道を切り開きながら歩んできたのに、後から開通された高速道路をスポーツカーであっという間に追い越された気分だ。


「はぁーっ!!!? それ嫌味?!」

新田が怖い顔をして睨みつけてきた。

普段から目つきが怖いのだが、今はさらに怖い。


「いゃ、俺の場合は師匠がいたからだし――」

「じゃあ、その師匠のことを教えなさいよ!」

新田が食いついてきた。

まさか、未来の技術が師匠だとは言えない。


しかし、翔太は新田に打ち明ける日が来るかもしれないという予感のようなものを感じていた。


「もう終電も近いし、キリも良くなったから追々ってことでいいかな?」

「逃げたわね……また来るんでしょうね?」

「まぁ、森川さんが呼んでくれれば」


新田は納得がいかないような表情をしている。


「あ、新田の連絡先を教えてもらってもいいかな?」

翔太はこれまでの経験から、エンジニアがスキルを伸ばすためには、エンジニアどうしのつながりが重要だと考えている。

新田ほど優秀な人材とはコネクションを持っておきたい。


「い、いいわ///」

新田は赤面しながらも、翔太に連絡先を渡した。


もしかしたら、別の意味に取ったのかもしれない。

翔太は言い方を間違えた気がしたが、結果的に断られなかったので良しとした。


「ありがとう!」

「だだだ、誰にでも教えてるわけじゃないんだからね! 絶対に漏らしちゃだめよ!」

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