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第55話 審判

「あれ?」和竹は出社して自席を見た。

和竹のデスクにあったPCや私物がすべてなくなり、空っぽだった。


(席替えでもするのだろうか?)

MoGeでは、従業員が増え続けているため、オフィスのレイアウト変更が頻繁に行われる。


和竹がMoGeに出社したのは始業時間を過ぎてからだった。

和竹は常習的に遅刻しており、本来なら咎められるべき行為だ。

しかし、周りはすべて和竹の部下なので、指摘する者はいなかった。


「和竹部長、702会議室でお呼びです」

部下の一人がそう告げた。

なんとなく、周りの反応がよそよそしいと感じる。

和竹は少し戸惑いながらも会議室に向かった。


***


会議室には、和竹以外の参加者が全員そろっていた。

その中には役員や蒼など、和竹と面識のある参加者もいた。


「和竹さん、当社が依頼した第三者機関による調査の結果、あなたが複数のハラスメント行為を行ったことが確認されました。これにより、当社の就業規則第十条第三項に基づき、本日をもってあなたを懲戒解雇といたします。

なお、あなたの私物はご自宅に郵送いたしますので、この会議室からはそのままご帰宅くださいますようお願いいたします」


「え!?」

和竹は驚いた。寝耳に水だった。

「ぼ、僕は身に覚えがないぞ!」


「社内の女性社員に対して、あなたから性的なアプローチや肉体的な接触があったとの証言を複数得ております。

加えて、目撃証言もあります」

コンプライアンス部門の岸川と名乗る社員が、調査結果の書類を和竹に示した。


「加えて、取引先相手の従業員および所属タレントに対するハラスメントの証言もあります」

岸川が示した調査結果には、神代や蒼、館腰などに対するハラスメント行為の詳細が記載されていた。


「当社は、この事態を厳正に受け止めています。

当社から全ての被害者に慰謝料を支払うことを決定しました」


蒼の所属するクオリアから、MoGeに和竹のハラスメント行為が告発された。

和竹の行為は第三者機関により調査され、その結果はMoGeのコンプライアンス部門に共有された。


当初は法的措置も検討されていたが、訴訟になった場合に被害者のプライバシーが侵害される恐れがあるため、MoGe社と被害者の間で和解が成立した。

マスコミに報道されると、双方に被害が及ぶことが容易に想定できたため、和解は速やかに成立した。

MoGeとしても、今後の広報戦略を考慮し、広告代理店や芸能界と事を構えることは得策ではないとの判断があった。


「こ、こんなことを認めたら、この人が関わっている映画のスポンサー費用は出せないぞ!」

和竹は蒼を指し、まだMoGeに所属しているかのように言った。


「新しいスポンサー契約が取れましたので、ご心配は無用です」

被害者の代表として呼ばれた蒼が言った。


「当社の責任により、スポンサー契約が不成立となったため、違約金を支払うことで合意しました」

和竹の後任となる部下が補足した。


「そ、そんな……」

和竹は、自分の行為で会社が大きな損失を被ることになったことをようやく自覚した。


「今後、あなたが被害者および関係者に接触した場合、法的措置を取る用意がありますのでご留意ください」

岸川は、被害者への報復行為をしないよう釘を刺した。


「そもそも、証言なんていくらでもでっち上げられるじゃないか!

僕を陥れようとしているやつらの陰謀だ!」

和竹は推理小説のクライマックスで犯人が言うようなセリフを言った。


岸川はICレコーダーを操作した。

橘が翔太に授けていた()()()だ。


─────

『神代さんがいい事してくれたら、お金いっぱい出せると思うよー』


『柊さん、あんたもかわいい顔しているね。

くまりーの代わりに相手してくれてもいいよ』

─────


会議室では、録音されていた和竹の声が響き渡った。

参加者は一様に刺すような目で和竹を見た。


「あ、ああああぁ……」

和竹はがっくりとうなだれた。

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