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第49話 橘隊員

「情けない」

橘は己の未熟さを嘆いた。


神代をハラスメントから守るのは、マネージャーである橘の役目だ。

にも関わらず、柊に色々と背負わせてしまった。


驚くべきことに、柊はスポンサーの当てがあるという。

彼は五分五分だと言っていたが、柊ならなんとかしてしまうのではないかという期待をしている自分がいる。

さながら、バスケ漫画におけるライバルチームのPGのような存在だ。


和竹に対抗する手段も、ほとんどは柊のプランだ。

山本や蒼がいる組織では利害関係が複雑に絡み合っているため、外部の柊が牽引することで、関係者の判断の迷いを消そうとしたのだろう。


果たして人生経験が長いだけで、あのような立ち回りができるのだろうか。

橘は、柊と仕事を続けることで、まだまだ学びがあると感じていた。


そのために自分ができることは――


***


「そいつは聞き捨てならねぇな」

霧島は怒りを露わにして言った。


ここは霧島プロダクション本社ビルの社長室だ。

橘は和竹の件を直ぐに霧島に報告し、対策を立てることになった。


「MoGe社が絡んだ仕事は、今のところ梨々花だけのようです」

橘は所属タレントの取引関係を調査したが、和竹が絡んでいる案件はなさそうだ。

当てが外れたというか、所属タレントが和竹の毒牙にかかっていなかったことを喜ぶべきか。


「俺も他の事務所に聞いてみるが……東郷のところは無理そうだな」


東郷は、大手芸能事務所フォーチュンアーツの社長だ。

東郷自身が所属タレントに対してハラスメントを行っている疑惑があり、藪をつつくと蛇が出てくる可能性がある。

橘は、この芸能界の深い闇をなんとかしたいとは思っているが、今は神代の問題を解決する必要がある。


「MoGeはここ最近で急激に業績を伸ばしているので、若手タレントを起用した案件が多いです。

和竹はそこで成功体験を積んだと思われます」

「なるほどな」


実績の少ない芸能人は、取引先相手のハラスメントを我慢してでも仕事を取りに行く場合がある。

和竹はそこで味をしめたと想定される。


幸いにして、神代は異性から距離を取っていたことや、神代自身が大物であるため、ハラスメント行為を受けることはほとんどなかった。


(現状に甘えてたツケが回ってきたのかも)

橘は、己のこれまでの無策を後悔した。

調子に乗って神代に手を出したことを、和竹には死ぬほど後悔させてやるつもりだ。


「では他の事務所には俺が話しを通しておこう。誰が接触するんだ?」

「私が出向いても相手が萎縮して、打ち明けてくれない可能性があります。

基本的には梨々花にヒアリングをしてもらう予定です。

手が足りない場合は、当事務所から増員を検討します」

「あぁ、それでいいぞ」


「それと、当事務所にはコンプライアンス部門がありません。

このような係争が発生した場合、第三者機関による調査があった方が、調査結果に客観性を持たせられます」

「なるほどな、柊の入れ知恵か?」

「は、はい」


橘は少し落ち込んでいた。

先にこのような体制をとっておけば、より迅速に対応できたかもしれない。

企業規模が違うとはいえ、蒼が所属するクオリアにはコンプライアンス部門が存在する。

柊からは、コンプライアンスが厳しくなるのはもっと先なので、橘の落ち度ではないと言っていたが……


「そうだな、これは担当弁護士に相談しよう」

「はい、取り急ぎ本件では、クオリア社のコンプライアンス部門との調整は私がやります」


芸能事務所のハラスメント対策は、他の業界に比べてかなり遅れている。

マスコミが芸能界のハラスメント行為を報道するのは、この時代よりもかなり後になり、これまで問題視されることはなかった。

柊は未来の状況を知っているため、早めに釘を差しに来たと橘は想定している。


***


「もしもし、梨々花?これから言う人たちにコンタクトして――」


橘が動き出した。

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