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第316話 秘めた闘志

「必ず優勝します」

前潟(まえがた)はこれ以上ないくらい力強く言い切った。


メトロ放送の本社内では、ドラマ『駒の声』の制作発表会が行われていた。

将棋界が舞台ということもあり、新聞の文化部の記者や将棋雑誌の観戦記者など、普段はあまり芸能関係の取材をしない記者たちも多数集まり、会場内は熱気に包まれていた。


将棋雑誌『将棋ワールド』の八街(やちまた)から、光琳製菓杯への意気込みを聞かれ、前潟の受け答えは自信満々であった。

光琳製菓杯はアマチュアの将棋大会で、団体戦で行われる。

前潟のチームのメンバーは全員が奨励会に所属していたことがあり、プロに次ぐ実力があることから、優勝候補の筆頭と目されている。


「最強のメンバーをそろえました。私たちが負けることはありえないと言っていいと思います」


会場内は「おぉっ」という歓声に包まれた。

前潟は雫石を見下ろすように眺めている。


「雫石さんのほうはいかがでしょうか?」

会場の視線は雫石に集まった。


将棋ワールドの最新号には、前潟と雫石、そして神代が光琳製菓杯に参加することが掲載されていた。

この最新号は書店では品切れが続出するなど、売れに売れ、創刊以来最高の売上を記録した。


「私は将棋を始めて間もないため、前潟さんをはじめとした強豪の方々の胸をお借りするつもりでがんばります」

前潟とは対照的に、雫石は殊勝な態度だった。


***


「雫石は冷静ですね」

翔太は発表会の様子を遠巻きに眺めていた。


前潟はあからさまに雫石に対して挑発的な言動をとっているが、当の雫石は終始大人びた対応をしていた。

これでは、むしろ雫石のほうが年上に見えた。


このような公の場で感情をコントロールできるのも役者にとって必要なスキルなのだろう。

本業である演技の面では、雫石に軍配が上がっているように見えた。


「ひかりはいつにも増してやる気を出しています。何かされましたか?」

隣にいる橘は、探るように翔太を見つめていた。


合宿所での将棋指導は翔太に一任されている。

橘は翔太が雫石のモチベーション向上につながる何かをしたと確信しているようだ。


「さぁ……何か心境の変化でもあったんですかね」

翔太としては心当たりがなくはなかったが、それを正直に言うのは何となく照れくさかった。


***


「雫石さんはこうおっしゃっていますが、チームメイトの神代さんから見て、雫石さんの棋力はいかがでしょうか?」

「そうですね、私も彼女と同様に始めたばかりですが――」


神代も雫石と同様に大人の対応だった。

むしろ、その雰囲気は女流棋士の女王としての貫禄さえ漂わせている。

それは翔太が知っている見坂の風格に酷似していた。


***


「梨々花もすごくやる気を出しているのですが……」

橘の翔太の見る目がジト目に変わっていた。

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