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第306話 因縁

「彼女の父親は、自分の娘が東郷に何をされても構わないってことですか?」


翔太は念のため霧島に確認した。

この先、名瀬とは敵対関係になる可能性があり、認識に齟齬があった場合に問題となりかねないからだ。


「そうだ」「そうです」


二人は即答した。よほど根拠があるのだろう。

橘に至っては強く拳を握りしめていた。

かつては素手でボールペンをへし折っていたが、それと同じくらいの力強さだった。


翔太は言語化するのも反吐が出ると思いながらも、名瀬と東郷の思惑を確認した。


「――つまり、東郷個人やフォーチュンアーツから名瀬への報酬はまだ支払われていないってことですね?」

「はい、我々がつかんだ情報によると、成功報酬のようで、ひかりがフォーチュンアーツと契約したら名瀬に報酬が支払われるようです」


橘によると、名瀬に支払われる報酬は巨額だった。

話に聞いた名瀬の性格上、これだけの金を積まれたら喜んで娘を手放しそうだった。


霧島プロダクションは、雫石から名瀬へ流れていた資金を完全に断っていた。

そのことで、名瀬は少しでも早くフォーチュンアーツに雫石を移籍させたいようだ。


霧島は東郷と因縁がありそうなことはなんとなく感じていたが、橘の表情を見る限り、同じく因縁がありそうだ。

彼女は感情を表に出すことはめったにないが、今は恐ろしくて仕方がなかった。


(いずれ聞くことがあるかもしれないが、まずは雫石だな)


←←←


「名瀬さん、雫石は業務中です。お引き取りいただけませんか」

翔太は自己紹介をした後、努めて紳士的に言った。


「僕は心配なんですよ。キリプロさんはスキャンダルがあったでしょう? その点、フォーチュンアーツさんはマスコミと強いパイプを持っています。親としては大事な娘を安心なところに預けたいんですよ」


名瀬の見た目も口調も善良な一般人に見えた。

はたから見ると、本当に子供を心配している親に見えるだろう。


スキャンダルとは先日の神代の件を指しているのだろう。

そして、スキャンダルが真実だろうが誤報だろうが、東郷なら止められることが、霧島プロダクションではできなかったことを名瀬は突いている。


(これは思ったより強敵かもな……)

雫石の演技は父親譲りなのか、名瀬は完璧な善人の仮面をかぶっていた。

資金繰りで内心では焦っているはずだが、そんなことはおくびにも出さないあたりがさすがと言えた。

むしろ、雫石のほうが嫌悪感をあらわにして、普段の外面の良さは消えてしまっている。


「現在、当事務所は将棋連盟さんにしかるべき報酬を支払ってその対価を受けている最中です。これ以上雫石の仕事をお止めになるのであれば業務妨害と見なされてもおかしくはないですよ」


現時点では名瀬の行動パターンがわからないが、最初が肝心と考え、翔太は少し強気に出ることにした。


「仕事なら仕方がないですね……ひかり、仕事がないときに会って話さないか?」

「絶対にいやです」

「そっか、僕は帰ります。皇さん、檜垣さん、ひかりをよろしくお願いします」


名瀬にとっての金蔓の邪魔をしたくなかったのだろうか、彼は意外とあっさりと引き下がった。

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