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第303話 警戒心?なにそれ?おいしいの?

「んまっ! さすが、くまりー。何やっても上手だね!」

雫石は食卓で神代が作った肉じゃがをぱくぱくと食べていた。


神代はここ最近は料理番組に出演していることから、めきめきと料理がうまくなっていた。

本来であれば、神代と雫石には光琳製菓杯に向けて一時も無駄にできなかったのだが、今日だけは神代が作ると言って聞かなかったのだ。


「ど、どう……?」

(う、うぐっ!)


神代はかつてないほど破壊力のある上目遣いで翔太を見つめてきた。

ブラックホールのように吸い寄せられる瞳には、緊張や不安、期待など、さまざまな感情が入り混じっているのが見て取れた。

オーディションの前ですら緊張していなかった彼女が、ここまで頼りなさそうな表情を見せるのは初めてだった。

翔太が口を開くまで、キッチンには微妙な緊張感が漂っていた。


「うん、めっちゃ美味しいよ」

「はあぁぁぁ……よかったぁぁぁぁ」


神代は糸が切れた操り人形のようにテーブルに突っ伏した。

そしてなおも、頬をテーブルに乗せたまま翔太に食い下がる。


「ほ、本当に? お世辞は絶対にダメだからね?」

「俺が嘘をついたら、気づくでしょ?」

「そりゃそうなんだけど……じいぃっ!」


今度は神代が翔太の顔を両手でがっちりとホールドしつつ、美しい顔を至近距離まで近づけてくる。

(ちっちちちちちちちちち……)


まだ合宿初日にもかかわらず、翔太のHPは限りなくゼロに接近していた。


「それで、なんで肉じゃがなの? 何か狙っている?」

「べ、別に……何の意味もないわよ!」


雫石がツッコミを入れたことで、翔太はようやく解放された。

(た、助かったぁ)

雫石に助けられたことは不本意だが、翔太は内心で彼女に感謝した。

雫石は雫石で何やら不満そうな表情を浮かべている。

(どないせいっちゅうねん!)


***


「何やっているの?」

リビングでラップトップPCを操作していた翔太に、風呂上がりの雫石が声をかけてきた。


「あー、ちょっと仕事で……って、お前ほかに着るものないのかよ!」

翔太は雫石を見て、思わず目をそらした。


雫石の服装は風呂上がりということもあり、非常に露出の多いものだった。

彼女は薄手のキャミソールとショートパンツ姿で、キャミソールは肩紐も細く、肌が大部分を露わにしていた。

ショートパンツも非常に短く、太ももがほとんど見えている状態だった。

全体的に彼女のスタイルの良さが強調されており、どこに目線を向けてもアウトだ。


「あー、なになに? 気になっちゃう? 私ってそんなに魅力的?」

「んなわけねーだろ。子供相手に欲情するかっ」

「えー……でも、私って、おっきい大人の人たちにも、その手の需要はあるんだよ?」

「シャレにならんネタを振らないでくれ……反応に困るわ……」


東郷が雫石を性的な対象としていることは、彼女自身も把握しているはずだが、それをネタにできるあたり、彼女のメンタルは相当タフであることがうかがえる。


「そんで、どんな仕事? 見して! 見して!」

「ダメっ、企業秘密。そして、その格好で近づいてくるなっ。しっしっ」

「これからずっと一緒にいるんだから、慣れてもらわないと困るよ」

「お前がちゃんとした寝間着を着ればいいんだろうが」


もう、翔太はいっぱいいっぱいだった。

雫石を止めてくれそうな橘や檜垣は今は別の仕事で不在だ。


「柊さん、どうしたの、疲れた顔して?」

「あぁ、雫石が――ぎゃああああ!」


翔太は神代の格好を見て、悲鳴を上げた。

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