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第302話 合宿

「柊さん、そこのみりんとって」

「はい」

「ありがとう♪」

「ねぇ、こんなことやってていいの? 料理なら俺がやっとくし」

「だから、今日だけだってば」


キッチンでは神代が肉じゃがを作っていた。

時間がないから料理は翔太がやると言ったのだが、神代は今日だけは自分が作ると言って聞かなかった。


「ねぇ、まだぁ? お腹空いたんだけど?」

雫石は箸で茶碗を叩きそうな勢いだった。


「もうちょっと待ってろ。てかお前さっきおやつ食ってただろうが」

「あれは別腹よ」


(ったく……なんでこんなことになったんだ……?)

翔太は事の経緯を振り返っていた。


***


「合宿をします」

グレイスビルの会議室で光琳製菓杯の経緯を聞いた後の橘の発言は、翔太の予想の斜め上だった。


「へ?」

「大会までさほど時間はありません。今の二人の棋力だと、四六時中練習しないと優勝はできないでしょう」

橘はさも当然のように言い放った。


「ちょっ……優勝!?」

「二人はそのつもりなのよね?」

「もちろん!」「当然よ!」


翔太は雫石の反応は予想していたが、神代まで本気だとは思わなかった。

改めて神代の行動を振り返ると、勝負事においては全力を出さなかったことは一度もなかったため、翔太は納得せざるを得なかった。


「柊さんもご存知のとおり、梨々花とひかりは多忙で、柊さんも同様です」

「そうですね」

「時間を合わせることが難しい以上、生活時間を共有するしか方法はないと思います」


翔太はツッコミが追いつかなかったが、おそらく橘はどんなツッコミでも対策はできているのだろう。

とは言え、確認せざるを得ない。


「えっと、場所はあるんですか?」

「グレイスが所有している物件があります。セキュリティは完璧です」


「そもそも俺が教えるんですか? 将棋は素人みたいなもんですよ?」

「プロを志望していた相手を倒したと聞いていましたが?」

(シマッタ……川奈さんに口止めしておくの忘れてた……)

逢妻に勝利したのはいくつかの偶然が重なっただけなのだが、ここでそれを説いても無駄だろう。


「将棋連盟の棋士がコーチをしてくれる予定なんですけど」

「四六時中とまではいきませんよね? プロの先生がいない間はお願いしたいです」


「だ、男女が一つ屋根の下というのは……」

「あら? 柊さんは手を出すおつもりが?」

「あるわけないです!」

「柊さんであれば問題ないと思いますし、万が一何かがあれば私が責任を取ります」


即座に否定した翔太に、神代と雫石はわずかながら、つまらなそうな表情を見せたような気がした。


「合宿所には、檜垣か私のどちらかがいるようにはしますが、いない場合は二人のお世話をお願いします」

「男俺一人!?」


翔太は金魚のように口をパクパクとさせていた。


「じょ、女流棋士の方にお願いすることもできるんじゃないかなぁと……」

「信用していないわけじゃないですが、さすがに面識のない方と、当事務所の看板俳優を一緒にすることはできません。それに……」


翔太は霧島から雫石の周りがきな臭いことを聞いている。

少しでも不安要素を取り除きたいという橘の意向は理解できた。


開いた口が塞がらない翔太をよそに、神代と雫石は修学旅行を目前にした学生のようだった。もっとも、雫石は現役中学生だが。


「「よろしくね、柊さん♪」」

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