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第300話 雫石のライバル

「女流棋士の役ならば、私は誰よりも上手くこなせる自信があります」

前潟(まえがた)のぞみは、はっきりと断言したことで場の雰囲気が凍りついた。


雫石主演のドラマ『駒の声』の出演者は、千駄ヶ谷の将棋会館で将棋雑誌『将棋ワールド』の取材を受けていた。

将棋会館で取材が行われたのは、出演者の下見も兼ねていた。

今後この施設は、ドラマでロケ地として使われることになる。


ドラマはまだ撮影が開始されていないにもかかわらず、取材が行われていたのは出演者の顔ぶれが豪華なためだろう。

神代や雫石の存在は将棋界を盛り上げるための格好の神輿となっていることが想像できる。

彼女らが掲載されたこの将棋雑誌が売れることは間違いないだろう。


将棋ワールドの観戦記者である、八街(やちまた)を凍りつかせた前潟は、雫石のライバル役だった。

彼女は雫石が所属していた劇団ヒナギクのタレントで、ドラマでは序盤から登場する。

学年は雫石の一つ上で中学二年生だ。


前潟が自信を持っていたのは一定の根拠があった。

彼女は奨励会員だったこともあり、棋士か女優かどちらの道に進むかを迷い、女優をしている経緯があった。

したがって、現時点において芸能界では最も将棋が強い人物となる。


前潟としては芸能界で棋力ナンバーワンの自身を差し置いて、雫石が主役になったことが面白くないのだろう。

翔太としては彼女の気持ちも理解できなくはないが、世間での人気や知名度は圧倒的に雫石が上だ。

視聴率などを考慮すると主役を雫石にしたのは致し方ないと言える。


翔太は雫石を窺った。

負けず嫌いの雫石は内心では相当頭にきていると思われるが、平然と構えていた。

どうやら、よそ行きモードの雫石は、この程度では崩れないようだ。


「えっと……前潟さんは強い意気込みを示されていますが、雫石さんはいかがでしょうか?」

八街は恐る恐る尋ねた。


「前潟さんほどじゃないかもしれませんが、私も将棋に真剣に打ち込んでいます。それは、実際にドラマを観ていただければ伝わると思います」

雫石は前潟への当てつけなのか、大人びた対応で返していた。


「そうですね、私ほどじゃないとは思いますが、雫石もがんばってくれるとは思います」

(おぃおぃ……)


前潟の挑発的な反応に、翔太は驚きながらも、どのような記事になるのかに興味が出てきた。

マネージャーの檜垣はハラハラと、その様子を眺めている。

(橘さんであれば悠然と構えていたのだろうが、キャリアの違いなのだろうか……?)

檜垣は物理的な面では無類の強さを持つが、メンタル面での課題がありそうだ。


「神代さんはいかがですか?」

八街は神代のファンなのか、目を輝かせていた。


「はい、前潟さんは将棋が強いのはもちろんですが、演技も素晴らしいんですよ。撮影が楽しみです」

神代も雫石と同様に完璧な笑顔で応対していた。

八街はうっとりとしている。


(梨花さんはさすがだな……相手は中学生だし、これくらいでは動じないか)

神代も雫石と同様に勝負事になると負けず嫌いな面を見せることもあるが、普段は落ち着いている。

橘によると、翔太が相手の時だけポンコツになるとのことだ。


(雫石は元同僚相手に大人の対応をしているし、中学生相手に梨花さんがムキになることもないだろうし、今回は無難に終わりそうだな)

多少ピリピリとした雰囲気は感じたものの、取材は順調に進み、翔太はいかにもフラグになりそうなことを考え始めた。


そして――


「私、光琳(こうりん)製菓杯に出ようと思うんです」


前潟から、新たな燃料が投下された。

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