第291話 ヒミツの共有
「げへへ……やはり、くまりーこそ至高だよな」
野田はから揚げを頬張りながら、満面の笑みを浮かべていた。
試写会のパーティを終えた翔太、野田、田村は近くの居酒屋で二次会をしていた。
パーティでも食事が出されていたが、関係者とのコミュニケーションに時間を割かれていたこともあり、満足に食べることができない状況だった。
「そりゃ、野田くんはいい思いをしたからね」
田村は枝豆をつまみながら呆れていた。
パーティ会場で神代は映画の役が取れたのは野田のおかげだと言い、野田の手を取って感謝を表明していた。
この神代の行動により、以降の野田はメロメロになっていた。
(ちゃんとした理由は何一つ告げられていないけど、野田はそれでいいのか……?)
翔太はタコワサを咀嚼しながら、事の経緯を思い出していた。
当時、翔太は神代のオーディションの支援活動を行っていた。
しかし、アストラルテレコムの業務が多忙だったため、野田に肩代わりをしてもらった経緯があった。 ※1
神代は変装した姿(リカ:ボクっ娘バージョン)で、野田に感謝をしているのだが、改めてお礼をしたかったのだろう。 ※2
「お前、Pawsのしらーやとやらが推しなんじゃなかったっけ?」
「あっちは手が届かないアイドルだからな。観賞用という位置づけだ」
「はあぁーっ」「……」
呆れた翔太を田村はジト目で睨んでいた。
***
「野田くんが浮かれるのはしょうがないかもしれないけど、柊くんの実情を知ったらひっくり返るよ?」
野田がトイレで席を外している今、田村は二人でしか話せない内容を切り出した。
「まぁ、そうなんだけどな……」
(綾華と婚約させられそうになった……なんて言ったらとんでもないことになりそうだしな……)
ちなみに、白川との事情は田村に知らせていない。
翔太はここにきて、アクシススタッフのときに自分が神代との仕事にアサインされた理由に納得した。
仮に野田が神代の演技指導をした場合、今日の様子を見た限りでは、とてもではないが仕事にならないだろう。
野田は教育事業とは無関係だったが、多くの男性社員は神代を目の前にしたら野田と同様の反応をしてしまうことが想像できる。
「田村の見立ては正しかったってことか」
「まぁね。女性の誰かにお願いすることも考えたけど、萎縮しちゃうだろうし」
メンタルな面だけで言えば上田が適任であるが、彼女は営業職で講師経験もなかった。
さまざまな要素を考慮した結果、田村の代打として翔太が選ばれたのだろう。
「そんで、田村はアレでよかったのか?」
翔太はパーティのときに、田村が神代のことを「神代さん」と呼んでいたことが気になった。
「友人関係であることが知られちゃうと、梨花にとっても私にとっても面倒事が多いのだよ」
「そりゃそうだろうな……」
神代は超過密スケジュールで働いているため、田村が神代と会える機会はほとんどないと考えられる。
その僅かな機会が今日であったが、公の場でできるコミュニケーションは限られてしまうようだ。
「その意味じゃ、梨花と仕事で頻繁に話せる柊くんがうらやましいけどね」
「そりゃ悪かったな……でも翔動の仕事だったら……」
「ん? 何の話をしてるんだ?」
二人の会話は野田が戻ってきたことで強制的に停止された。
※1 第38話 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/38/
※2 第71話 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/71/
エピソード番号が間違っていました...以降修正しますm(_ _)m




