第290話 試写会5
「翔動さんとは、お仕事の関係でお世話になっています」
(そう来たか……)
翔太は雫石が翔太の元に現れた目的をはかりかねていた。
少なくとも野田を前にして、霧島プロダクションの関係者であることがバレなかったことが翔太を安堵させた。
「霧島プロダクションとは資本提携しているんだよ」
雫石の思惑がわからない翔太は、とりあえず彼女が出した話題に乗ることにした。
「そんで、雫石さんは柊の会社で何をやんの?」
「広報活動に協力させていただくことになります。ユニケーションというサービスはご存知でしょうか?」
「おぅ、知っているぞ。eラーニングのサービスだろ? そういえば映画のコラボもやっていたな」
「よくご存知ですね。僭越ながら、アンバサダーを務めさせていただきます」
「「……」」
雫石は企業の広報担当のようによどみなく話したことで、野田と田村は一様に感心していた。
雫石の霧島プロダクションへの移籍は翔太がきっかけであったため、翔動は優先的に雫石に仕事を依頼できる権利を霧島から獲得していた。
「そりゃ、すごいな……でも、顧客層を考えると……どうなんだ?」
野田の疑問はもっともだろう。
eラーニングの主要顧客は社会人だ。
「今後、中高生向けの勉強用の教材を増やしていく戦略なんだよ」
「塾や予備校のオンライン版みたいなもんか」
「そういうことだ」
「ほえぇぇ。テレビCMがじゃんじゃん流されるのか?」
「翔動にそこまでの予算はねぇよ」
「んじゃ、柊の会社のサービスの顔として、ネット広告に雫石さんが出てくるってことか」
「あまり詳しく言えないが、想像に任せるよ」
数ある広告宣伝費の中でもテレビCMは突出して高額だ。
加えて、ターゲティング広告がやりにくく、データ分析からアプローチする翔動のマーケティング戦略とは相性が悪いと翔太は判断している。
「あの……会社での柊さんの様子をお伺いしても宜しいでしょうか?」
雫石はこれまでの社会人のような堂々とした雰囲気から一転し、おずおずと上目遣いに二人に尋ねてきた。
田村は「女の私でもこれはキュンとした」などと言っており、野田にいたっては「ヤバっ! 開けちゃいけない扉が開きそうだ……」などとほざいている。
『おぃっ! どういうつもりだ、雫石?』
翔太は二人に聞こえないよう、完璧に猫をかぶっている雫石に問い詰めようとした――
「本日はお越しいただきありがとうございます。映画は楽しめましたか?」
「く、くくくく……」
突然の神代の登場に、野田は目はスロットマシンのようになっていた。
「えへへ、気になる話が聞こえてきちゃったので飛んできました」
今の神代は試写会のときのようなイケメンオーラは見る影もなく、柔らかい雰囲気を纏っていた。
翔太は怒涛のように押し寄せる有名人に、ひたすら翻弄された。




