第289話 試写会4
「メトロ放送の二宮です。翔動さんの関係者だと伺いしました」
「はい、はじめまして、柊と申します」
翔太は二宮に二枚目の名刺を差し出した。
「うわっ! 本物のにのみーじゃねぇか! すっげぇ美人だな……」
野田は本人に聞こえないように小声で呟いた。
「あの……どこかでお会いしましたか?」
「しかも、柊をナンパ!?」
翔太は当面の危機を凌がなければならないのに、背後の野田のことが煩わしくて仕方がなかった。
翔太はなぜ二宮がここにいるのかわからなかったが、会話を続けて皇と同じ声であることを気づかれたくなかったので、必死で石動を探した。
「石動は……山本さんのところにいます!」
翔太は九死に一生を得た顔で、石動を指差した。
二宮は自分のことを勘がいいと言っていたため、このままだと皇の正体がバレるのは時間の問題だろう。
二宮個人には身バレしても問題はないと思われるが、この場に野田がいることが状況をややこしくしていた。
田村はそんな翔太の状況を知っているのか知らないのか、ニヤニヤしながらその様子を眺めていた。
「ありがとうございます。翔動さんには改めてお伺いします」
「承知いたしました」
***
(ふぅ……助かったぁ……思ったよりキケンな場所だな、ここは)
翔太は内心で胸をなでおろした。
「おぃおぃ、柊! にのみーと知り合いなのか!」
案の定、野田が食いついてきた。
(コイツ……美人の有名人なら誰でもいいんじゃないか……?)
「さっき、はじめましてって言っただろ?」
「あっちは知ってそうな感じじゃなかったか?」
「俺がはじめましてって言ってんだから、いいじゃねぇか。今宮さんに言うぞ」
「ぐっ……」
翔太は伝家の宝刀を抜いた。
野田の彼女、今宮には翔動が提供しているeラーニングサービス『ユニケーション』でイラストの発注を行っている。そのことは野田も知っているはずだ。
これで当面の危機は去った――このときの翔太はそう思った。
「柊さんのご同僚の方々でしょうか?」
「うげっ!」「うわっ、かわいい!」「ウソっ! 本物!?」
目の前に現れた少女に、三者三様の反応があった。
「うん、柊くんの会社に勤めているよ」「俺は元同僚だけど」
田村と野田は興味津々といった表情だ。
「はじめまして。霧島プロダクション所属の雫石ひかりといいます。
本作では、友情出演として参加させていただきました」
雫石はパーフェクトな笑顔と丁寧なお辞儀で挨拶した。




