第288話 試写会3
「へえええぇ、アレが噂の女帝ね」
「うえぇっ!」
翔太は後ろから田村に話しかけられた。
彼女も試写会に招待された一人だ。
プロデューサーであり、映画の制作会社である夢幻の山本に依頼されていた編集作業の効率化は、大部分を田村に任せていた。
この時代の映画は、デジタル編集の黎明期であったが、新田が既存の編集ソフトをカスタマイズし、その使い方を田村が現場のスタッフに教えることで編集期間が大きく短縮された。
加えて、田村は現場で利用していたグループウェアを使いこなし、山本のアシスタントをうまくこなしていた。
山本は彼女をかなり評価しており、引き抜きにあったほどだった。
(それに、俺がこの映画に関わることになったのも田村がきっかけなんだよな……)
神代との出会い、そして交友関係に広がるまで、田村がいなければ翔太は全然違う人生を歩んでいただろう。
田村が試写会に呼ばれた理由は、山本はもとより、神代の要望でもあった。
「知ってるのかよ……というか話題には何度も出ていたか」
アクシススタッフ時代の翔太と野田は、アストラルテレコムでの女帝の恐ろしさを世間話として語っていた。
「そだよ。どんな恐ろしい顔をしているのかと思ったら、意外と普通のおばさんで驚いちゃった」
「おぃっ!」
翔太は万が一にも聞かれてはいないか、辺りを見回した。
(し、心臓に悪いわ……)
「きれいな人だよね。隣にいた人も無表情だけど、美人だったし」
「まぁ、否定はしない」
「柊くんのストライクゾーンじゃない? 年上好きだし。梨花、もしかしてピンチ?」
「恐ろしいこと言うなよ……」
翔太は反射的に神代に目がいってしまった。
彼女は劇中で素晴らしい演技をしていたこともあり、大勢の関係者に囲まれていて、とても話しかけられるような状況ではなかった。
(あれは佃さんか……ということは、上村さんもいるはずだな)
翔太は神代の取り巻きの中に佃を発見した。
制作発表会で神代に会ったときは佃煮化していたが、今日は映画を観て気分が高揚しているようだ。
佃はPowsの脅迫犯を捕まえたときの功労者であることから、試写会に招待されていた。
(サイバーフュージョンと言えば……)
「お、柊に……田村もいるのか!」
「野田!? なんでお前がここにいるんだ?」
翔太は久しぶりに会ったかつての同僚がいることに驚いた。
「映画のプロモーション動画配信のシステムに関わっているんだよ」
サイバーフュージョンはスポンサー特権を活用し、CM用のプロモーションビデオとは別に、メイキング映像などを独自に動画配信している。
翔動とサイバーフュージョンは動画配信事業で業務提携を進めているところだった。
「野田も関わっていたのか……」
「佃さんもな」
「まさかのつながりが!」
(だ、大丈夫かな……)
翔太が霧島プロダクションの関係者であることを佃が話していないか心配になった。
しかし、佃は機密情報を任されていることもあり、余計なことを口外したりはしないだろう。
「久しぶりに会ったんだし、この後飲まないか?」
「お、いいね。柊くんも行くよね?」
半ば田村に強制された形となってしまったが、映画の功労者である以上、翔太に断る選択肢はなかった。
「すみません、石動さんを探しているのですが」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
翔太は思わぬ人物と遭遇し、動転した。




